上 下
79 / 315

第77回 『プロパンガスか都市ガスか?』(1846/8/2)

しおりを挟む
 弘化三年六月十一日(1846/8/2) 大砲鋳造方

  15回目の操業である。

 高炉2双4炉、反射炉2双4炉による同時溶解を行った。鉄は合計7,200kgを投入し、36 ポンド砲が1 門できた。鉄湯の流動性は全ての炉が良好という訳ではなく、差があった。

 余った鉄は次回の溶解に再利用する。




 ■京都藩邸

 次郎は京都の藩邸にいながらにして、大村にいるの純あきと書状を交わしていた。岩倉具視との出会いや朝廷の窮乏の状況、論調やその派閥の大小などである。

 1通につき銀6ぷん(約100文)の飛脚でやり取りを行った。速達ではない普通便だ。

 日記のようなもので、純顕からの返事は月に1~2通であったが、次郎は毎日送った。業務報告のようなものである。筆まめではないのは前世と同じだが、仕事である。

 100文×32=3,200文=銀19匁。

 岩倉具視を含めた公家102名(五摂家・清華家・500石以上の公家を除く)に対しての援助金として、各人1石相当の合計銀9,282匁。約145両。その他遊興費……。

 現状、幕府に対する朝廷の感覚としては、良くも悪くもない。

 外国の船が頻繁に来航している事に関しては不安に思っているらしく、薪水給与令から打払い令、廃止しては再び薪水給与令と二転三転する態度には、若干の不信感をもっているようだ。

 この状況から倒幕へ動かないように、薩長さっちょうその他の影響力を裏から削ぐ!

 少しずつ時間をかけて、清華家そして摂家へと進み、御上へ。

 そのための懇親会という名の情報交換会も催した。しかし、あくまで九州の田舎大名のそのまた家臣として、都の文化に触れる、教えを請うというスタンスは忘れない。

 自尊心をくすぐりつつ、実益を得るのだ。




 朝廷の状況を知らせるだけでなく、国許である大村藩の内政においても意見交換をした。

 捕鯨事業の開始とガス灯(照明・調理・暖房等の燃料)事業の開始、ポルトランドセメント工場ならびに造船所の造営に関しての、オランダ人技師の招聘しょうへいの件である。

 この3点のうち、最初の2点は問題なくゴーサインがでた。

 しかし最後のオランダ人技師の招聘に関しては、オランダ側が承知するか? バレないか? バレた場合に言い逃れができるか? という様々な観点から検討された。

 大村藩だけではなく、オランダ側にもリスクがある。

 そしてもしバレた場合は、長崎会所の調役である高島家も罰を受けるだろう。言い逃れについては、書面に残していないので証拠にはならないが、今後の貿易に関して支障がでる。

 総合的な状況を勘案して、結局技師の招聘はしないことになった。その代わりに考えられるだけの造船技術と、セメント技術に関する書籍の輸入を依頼したのだ。




 ■精錬方 理化学・工学研究所 <信之介>

「ねえ~」

「ねえ……」

 ……。

「ああもう! 何だよ二人して! 既婚者なんだから通用しねえよ!」

 お里とおイネに何やらねだられているような感じだったが、次郎から送られてきた手紙の内容に、石炭ガスの実用化の事があったので、どうやって実用化するか悩んでいたのだ。

 俺も二人も既婚者なので、その気がないのは当たり前なのだが、ときどきこうやってわざと冗談めかしてからかってくる。

「だって信ちゃん。信ちゃんがこの前から言ってた自然派化粧品、いつできるの?」

 お里が催促する。

「あ……うん。いや、うん。ちょっと忙しい……」

「もう! そればっかり! 私たちもいつまでも10代じゃないんだよ? 美女二人がシミだらけになってもいいの?」

「いや、決してそういう訳では……」

 おイネは遠慮がちだが、お里はグイグイくるなあ。もともとの性格か?

「ああ、わかったわかった。でもさすがに、最初の1個はいいかもしらんけど、ずっとタダは無理だぞ。売りに出す」

「やった~さすが信ちゃん。待ってるよー」

 二人はぴょんぴょん飛び跳ねながら帰って行った。嵐のような一瞬である。

 ※化粧水……精製水・蜂蜜・精油・エタノール

 ※乳液……乳化ワックス作ろうと思ったけど面倒くさいからやめた。要は水と油だから椿つばき油を適量手に取って顔に塗る。

 ※ファンデーション……くず粉・ベージュマイカ(雲母)・ホワイトマイカ・酸化鉄(黄色・赤・茶)

 さて、いくらで売ろうか。

 一瞬そう考えるも、俺はすぐに製造法を紙に書いて部下に渡し、試作品を作るように指示を出した。




 いや、それよりもガスだよ。石炭ガス。

 ガス灯って言うくらいだから、全世界に広まりつつ(広まっている)ある。正直なところ、どっちでもいいかなと思っているんだよなあ。
  
 中身が同じ石炭ガスなら、供給方法の違いしかない。

 でも今の時代はもしかしたら、どっかの誰かが燃やして照明にしているかもしれないけど、商用として実用化していない。という事は誰も知らないってことだ。

 街灯はもちろん、各家庭の照明に暖房、それから料理にも使える。これが今は燃料が薪か炭、照明は油だ。ロウソクは高価だし、菜種油だって高い。

 だから庶民は魚油を使うか、暗くなったら寝るんだ。

 問題はコストだな。ガスをタンクに入れるのはいいとして、今のプロパンガスみたいに大量に作れるだろうか? 定期的に見て回って、なくなりそうなら交換する。

 もしくは、全家庭(全店舗・事業所)に水道のように張り巡らせて、提供する。使用量をどうやって測るかは不明だ。定額? いやいや、それについてはまず現状を調べてみよう。

 今オランダ……どこでもいいけど、ガス灯とか家庭用ガス、どうやって測っているのか? それとも測ってない? 測っているならメーターのようなものがあるはずだ。

 しかし……特許とってたら、構造はわかんないだろうな。

 そんときは儀右衛門さん、頼むよ。

 とりあえずは、ガス灯がどんなものか見せるために、プロパン方式で……そうだな、城下で1番大きな旅籠『大村屋』で試してみるか。もしくは街灯で。




 次回 第78回 『捕鯨船の寄港と漁場問題』 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

朝敵、まかり通る

伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖! 時は幕末。 薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。 江戸が焦土と化すまであと十日。 江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。 守るは、清水次郎長の子分たち。 迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。 ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

夜に咲く花

増黒 豊
歴史・時代
2017年に書いたものの改稿版を掲載します。 幕末を駆け抜けた新撰組。 その十一番目の隊長、綾瀬久二郎の凄絶な人生を描く。 よく知られる新撰組の物語の中に、架空の設定を織り込み、彼らの生きた跡をより強く浮かび上がらせたい。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...