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氷の王太子 レオン・リュミエール2
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レオンはそら見たことかと小さなため息をついて言った。
「……だから言っただろう。見た目のいい女にロクなものはいない」
「えー? それって偏見じゃないですかぁ? だけどあの子なんだか前にどこかで……」
「女の話はいいからさっさと行ってこい」
「はいはい、わかりましたよ。とりあえずは新作をチェックと……あとはええと、レオン様はいつものチョコチップとアーモンドでよろしかったですか? あ、季節限定マスコットキャラクターにゃんこちゃんのネコ型クッキーなんていうのもあるみたいですよ?」
「む、季節限定のにゃんこちゃんクッキーか……なかなか捨てがた……い、いらん! 氷の王太子たるもの、そのようなものを口にするわけには……。い、いつものでいい! あとは行列の原因の調査だな」
「はいはい。氷の王太子って自分で言っちゃいます? まあいっか。じゃあちょっと買ってきますからそこで待っていてくださいね」
アランを見送ったレオンは店の裏手のベンチに腰をおろした。
ふうと小さく息をつく。このスイーツパトロールはレオンが王太子という立場から解放されてリラックスできる数少ない貴重な機会だ。
ぼんやりと店の裏口を眺めていると先ほどクッキーの試食を配っていた女が調理場にいるのが隣の窓から見えた。
大きな小麦粉の袋を抱えて中身をボールに移している。クッキーの生地を作るところらしい。
特にすることもなく暇を持てあましていたレオンはベンチに座ったままぼんやりと彼女の姿を眺めていた。
調理場にいる彼女は先ほど見た通りとても美しかった。あれほど美しい令嬢は城の舞踏会でもなかなか見ない。
あれだけの容姿ならばこんな目立たない職場を選ばずとも他にいくらでも働き先がありそうなものだが。
レオンはぼんやりとした頭でそんなことを考える。
……い、いや別に彼女のことが気になっているわけではないぞ。いくら美しかろうが不愛想でお高く止まった女などうんざり……。
レオンは誰に言い訳するでもなく心の中でそうつぶやき1人頭をぶんぶんと振った。
「うふふ、今日もなんて可愛らしいのかしら、愛しのクッキー生地ちゃん♪」
窓からそんな言葉が聞こえてレオンははっとまた窓を見る。なんと先ほどの鉄仮面女がにっこりと微笑んでいるではないか。
まるで花が開いたかのようなその笑顔にレオンは一瞬で心を奪われた。
「……っ?!」
な、なんだあの天女のような愛らしい笑顔は……?!
女は世にも美しく可憐な笑顔を浮かべたまま鼻歌を歌いながらクッキー生地をこねている。
その時、女の後ろのオーブンからチン! と音が鳴った。女はいそいそとオーブンへ向かうと重たそうな鉄板を取り出した。窓の外まで焼きたてのクッキーの甘やかな香りがただよってくる。
女は恍惚とした表情で焼けたクッキーを1枚口に放り込んだ。
「ほ、ほいしすぎますわぁぁ……!」
頬に手を当てて顔を真っ赤にして小さく叫ぶ彼女の様子のなんと愛らしいこと。レオンは彼女から目を離すことができずただその姿を見つめていた。
な、なんなんだ? あの女性は一体何者なんだ……?!
生まれて初めての感覚にレオンは戸惑っていた。先ほどから心臓の鼓動が早くて息が苦しい。
「……だから言っただろう。見た目のいい女にロクなものはいない」
「えー? それって偏見じゃないですかぁ? だけどあの子なんだか前にどこかで……」
「女の話はいいからさっさと行ってこい」
「はいはい、わかりましたよ。とりあえずは新作をチェックと……あとはええと、レオン様はいつものチョコチップとアーモンドでよろしかったですか? あ、季節限定マスコットキャラクターにゃんこちゃんのネコ型クッキーなんていうのもあるみたいですよ?」
「む、季節限定のにゃんこちゃんクッキーか……なかなか捨てがた……い、いらん! 氷の王太子たるもの、そのようなものを口にするわけには……。い、いつものでいい! あとは行列の原因の調査だな」
「はいはい。氷の王太子って自分で言っちゃいます? まあいっか。じゃあちょっと買ってきますからそこで待っていてくださいね」
アランを見送ったレオンは店の裏手のベンチに腰をおろした。
ふうと小さく息をつく。このスイーツパトロールはレオンが王太子という立場から解放されてリラックスできる数少ない貴重な機会だ。
ぼんやりと店の裏口を眺めていると先ほどクッキーの試食を配っていた女が調理場にいるのが隣の窓から見えた。
大きな小麦粉の袋を抱えて中身をボールに移している。クッキーの生地を作るところらしい。
特にすることもなく暇を持てあましていたレオンはベンチに座ったままぼんやりと彼女の姿を眺めていた。
調理場にいる彼女は先ほど見た通りとても美しかった。あれほど美しい令嬢は城の舞踏会でもなかなか見ない。
あれだけの容姿ならばこんな目立たない職場を選ばずとも他にいくらでも働き先がありそうなものだが。
レオンはぼんやりとした頭でそんなことを考える。
……い、いや別に彼女のことが気になっているわけではないぞ。いくら美しかろうが不愛想でお高く止まった女などうんざり……。
レオンは誰に言い訳するでもなく心の中でそうつぶやき1人頭をぶんぶんと振った。
「うふふ、今日もなんて可愛らしいのかしら、愛しのクッキー生地ちゃん♪」
窓からそんな言葉が聞こえてレオンははっとまた窓を見る。なんと先ほどの鉄仮面女がにっこりと微笑んでいるではないか。
まるで花が開いたかのようなその笑顔にレオンは一瞬で心を奪われた。
「……っ?!」
な、なんだあの天女のような愛らしい笑顔は……?!
女は世にも美しく可憐な笑顔を浮かべたまま鼻歌を歌いながらクッキー生地をこねている。
その時、女の後ろのオーブンからチン! と音が鳴った。女はいそいそとオーブンへ向かうと重たそうな鉄板を取り出した。窓の外まで焼きたてのクッキーの甘やかな香りがただよってくる。
女は恍惚とした表情で焼けたクッキーを1枚口に放り込んだ。
「ほ、ほいしすぎますわぁぁ……!」
頬に手を当てて顔を真っ赤にして小さく叫ぶ彼女の様子のなんと愛らしいこと。レオンは彼女から目を離すことができずただその姿を見つめていた。
な、なんなんだ? あの女性は一体何者なんだ……?!
生まれて初めての感覚にレオンは戸惑っていた。先ほどから心臓の鼓動が早くて息が苦しい。
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