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鉄仮面令嬢 セシル・デュラン2

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  朝8時になるとパティシエ長のドミニク・バルテレミーが出勤してくる。あごひげを生やした屈強な男性だ。

「お、おはようございます……!」

  セシルの男性恐怖症は相変わらずだったが仕事となればなんとか必要最低限の会話は交わすことができていた。

  ……これもスイーツへの執念のおかげかしらね。

  せっかく得た理想の職を失うわけにはいかないとセシルは必死だった。

  ドミニクはセシルが仕込んでいたクッキー生地の型抜きをするとオーブンへと放り込んだ。10分もすると調理場はクッキーの焼けるいい匂いでいっぱいになった。

  ……はぁ……なんていい香りがするのかしら……。

  セシルの目がとろんとする。

  間もなく焼きあがったクッキーの1枚をドミニクがかじる。

「ほら、お前も味見してみろ」

  口に入れたクッキーを咀嚼しながらドミニクがセシルにクッキーを1枚差し出す。

「え、あ、あの、よろしいのですか……? あ、味見をしても……」

「てめぇが作ったもんを味見もせずに客に出すパティシエが一体どこにいるっつんだよ!」

  ドミニクの大きな声に一瞬体をびくりと震わせたセシルだったがじっと踏ん張った。黙ってクッキーを受け取ると一口かじった。

  次の瞬間、クッキーがほろほろと口の中でほどけバターと砂糖の甘く濃厚な味が口中に広がった。

  お、おいすぃ……。お、おいすぃすぎますわ……! あまりの美味しさにセシルは涙目になる。

  これまでも屋敷でクッキーを口にすることはあったけれど自分で作った焼きたてクッキーの味は格別だった。

「味はどうだ?」

「ほ、ほいふぃいじぇすぅ(お、おいしいです)!」

「あぁん?!」

「ほひいいのでふぅ(おいしいのです)!」

  クッキーを頬張ったままセシルが懸命に答える。ドミニクは首を傾げていたが深く頷いて言った。

「まぁとりあえずうまいってことだな?」

  ドミニクの言葉にそうだという風にセシルは首を大きくブンブンと縦にふる。

「ものすごく美味しいです!」

  クッキーを飲みこんだセシルが大声で言った。その迫力にドミニクがびっくりした顔をする。

「な、なんだ、てっきり口がきけないのかと思っていたがちゃんと喋れるんじゃねぇか」

  ドミニクにそう言われてそういえばクッキーを試食してからの今までドミニクを男性と意識することなく普通に喋っていたことにセシルは気がついた。

  ……私ったらもしかしてお菓子の話だったら男性相手でも問題なくできるということかしら? そんなことってある? ……だけどスイーツを愛する人に悪い人はいないものね。

「は、はい」

「ならいい。はじめは元貴族のお嬢さんにつとまるのかと心配してたが、あんたなかなか根性があるな。今日はクッキーの仕上げについて教えてやるからしっかり聞けよ?」

  そう言うとドミニクはクッキーの型とナッツ類・アイシングを棚から出してきて調理台にどんと置いた。

「ありがとうございます!」

  セシルは大声で礼を言った。これからドミニクからたくさんのことを教わらなくちゃ。セシルはワクワクしていた。
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