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絆
㉓ 〝絆〟という言葉。その本来の意味
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「回夜、さん……」
急な登場に目を見開いて驚き……次いで自分でも分からないが……微笑んだ。
うん。何となく、ここで知り合いに出会うとしたら……回夜さんが相応しい。何故か不思議と、そう思った。
「………………」
何も言わず、此方を見つめ微笑む回夜さん。私が話すのを待っている……そう思った。
いや、或いは……私がただ話したいだけなのかもしれない。
「回夜さん……貴女の言う通りだった」
「………………」
回夜さんは少し困ったように首を傾けた。
「回夜さんの言う通り……〝絆〟は……人を縛り付ける〝縄〟だったよ……」
「……そう」
回夜さんは、目を伏せて……ほんの少し悲し気に、そう口にした。
◇ ◇ ◇
あの日、学校外で始めて回夜さんと出会ったあの夜のこと――。
『〝絆〟という言葉について、こんなお話を知っている?』
回夜さんは、そう前置きして……〝絆〟について語り始めた。
『〝絆〟という言葉はね、元々は家畜や動物を繋ぐ縄を表す言葉だったの』
『え――』
一瞬、息が止まった。
『絆という言葉はね、本来はそういうものだったの。
人が家畜や動物を逃げ出さないように繋ぐもの。繋ぎ止める楔。自分から離れて何処にも行かないように縛り付ける拘束具』
『――っ!』
一歩、たじろいだ。
『言いえて妙だと思わない? 人と人とを繋ぐ〝絆〟。それって人を縛り付けると言えるじゃない?
自分から、離れていかないように。離れても、自分の下へ戻って来るように。
そして決して裏切らないように』
ぐしゃりと心を鷲掴みにされた気がした。
『でも――それって飽くまでも〝人〟にとって都合のいい話なだけよね?』
これ以上――聞いてはいけない。本能がそう叫んだ。だけど、足は動かない。口も動かない。そしてそんな私を気に留めず……あるいは気付いていない回夜さんが言葉を続けた。
『繋ぎ止められている〝家畜〟にとってはどうなのかしら? 嬉しいのかしら? よしんば嬉しいとしても……都合が悪くなれば、〝人〟はどうするのかしら?』
そして――回夜さんは意味深げに此方を見て、笑った。
『絆を大事にする、音無希津奈さん? 貴女がどうか、〝家畜〟ではなく〝人〟側であることを祈っているわ』
『――――――っ!』
それ以上、その場に居たくなかった。
『わ、私もう戻らないといけないので、それじゃ!』
踵を返して走り去る。背後で回夜さんが微笑んだ――気がした。
脇目も振らず走り去る。頭の中で先の〝絆〟の話が脳裏をグルグルと回る。
先の話を、母は――知っているのだろうか? 生みの親で記憶にない、父は? 知っていて、名付けたのだとすれば……私は?
そんな、答えのない問答を考えながら走っていると、
『――? 今、の……音無?』
私は気付かなかったが――この時走り去る私を光輝君が見ており、走ってきた方に視線を向けて、
『っ……! 歩美!』
『あら、光輝。こんばんは』
薄ら笑みを浮かべる回夜さんを見つけ……さっき見た私の様子がおかしいのを気にして、険しい表情で追いかけて行った、らしい。
これが――私と回夜さん、そして光輝君との間に、あの夜起こった出来事だった。
◇ ◇ ◇
そして――今。
「回夜さんの通りだった、よ……」
「………………」
私は、再び回夜さんと相対した。
急な登場に目を見開いて驚き……次いで自分でも分からないが……微笑んだ。
うん。何となく、ここで知り合いに出会うとしたら……回夜さんが相応しい。何故か不思議と、そう思った。
「………………」
何も言わず、此方を見つめ微笑む回夜さん。私が話すのを待っている……そう思った。
いや、或いは……私がただ話したいだけなのかもしれない。
「回夜さん……貴女の言う通りだった」
「………………」
回夜さんは少し困ったように首を傾けた。
「回夜さんの言う通り……〝絆〟は……人を縛り付ける〝縄〟だったよ……」
「……そう」
回夜さんは、目を伏せて……ほんの少し悲し気に、そう口にした。
◇ ◇ ◇
あの日、学校外で始めて回夜さんと出会ったあの夜のこと――。
『〝絆〟という言葉について、こんなお話を知っている?』
回夜さんは、そう前置きして……〝絆〟について語り始めた。
『〝絆〟という言葉はね、元々は家畜や動物を繋ぐ縄を表す言葉だったの』
『え――』
一瞬、息が止まった。
『絆という言葉はね、本来はそういうものだったの。
人が家畜や動物を逃げ出さないように繋ぐもの。繋ぎ止める楔。自分から離れて何処にも行かないように縛り付ける拘束具』
『――っ!』
一歩、たじろいだ。
『言いえて妙だと思わない? 人と人とを繋ぐ〝絆〟。それって人を縛り付けると言えるじゃない?
自分から、離れていかないように。離れても、自分の下へ戻って来るように。
そして決して裏切らないように』
ぐしゃりと心を鷲掴みにされた気がした。
『でも――それって飽くまでも〝人〟にとって都合のいい話なだけよね?』
これ以上――聞いてはいけない。本能がそう叫んだ。だけど、足は動かない。口も動かない。そしてそんな私を気に留めず……あるいは気付いていない回夜さんが言葉を続けた。
『繋ぎ止められている〝家畜〟にとってはどうなのかしら? 嬉しいのかしら? よしんば嬉しいとしても……都合が悪くなれば、〝人〟はどうするのかしら?』
そして――回夜さんは意味深げに此方を見て、笑った。
『絆を大事にする、音無希津奈さん? 貴女がどうか、〝家畜〟ではなく〝人〟側であることを祈っているわ』
『――――――っ!』
それ以上、その場に居たくなかった。
『わ、私もう戻らないといけないので、それじゃ!』
踵を返して走り去る。背後で回夜さんが微笑んだ――気がした。
脇目も振らず走り去る。頭の中で先の〝絆〟の話が脳裏をグルグルと回る。
先の話を、母は――知っているのだろうか? 生みの親で記憶にない、父は? 知っていて、名付けたのだとすれば……私は?
そんな、答えのない問答を考えながら走っていると、
『――? 今、の……音無?』
私は気付かなかったが――この時走り去る私を光輝君が見ており、走ってきた方に視線を向けて、
『っ……! 歩美!』
『あら、光輝。こんばんは』
薄ら笑みを浮かべる回夜さんを見つけ……さっき見た私の様子がおかしいのを気にして、険しい表情で追いかけて行った、らしい。
これが――私と回夜さん、そして光輝君との間に、あの夜起こった出来事だった。
◇ ◇ ◇
そして――今。
「回夜さんの通りだった、よ……」
「………………」
私は、再び回夜さんと相対した。
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