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⑪ 友達

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「ど、どうしてここに……?」
「歩美を見かけたんで確認しに来た」

 光輝君はそう言うと、私の目の前に立つ。

「音無。お前のグループ、最近変だろ? あからさまに、お前をのけ者にしている。何かあったのか?」
「そ、れは……」

 困惑する。まさかあなたが原因です、とは言いにくい。
 どうしたものかとあやふやに笑う私を見て、光輝君が言い募る。

「いじめか? なら、先生に相談するか? それとも、グループの奴等に、俺が一言……」
「や、止めて!」

 思わず、大声で制止する。一瞬光輝君がひるむ。そこをすかさず言葉を叩きこむ。

「わ、私がいけないの! だから……気にしないで。お願い」
「………………」

 沈黙する光輝君。それに私は言い募る。

「お、男の人には分からないだろうけど、女の子同士のグループにはね、こういうことはあるものなの!」

 この言葉自体は事実だ。実際、ほかのグループでもこういう風なことは起こっているし、その現場を見てもいる。それに晴子達のグループでも私が最初の一人という訳ではない。前に一度、千佳が晴子の怒りを買って、それで無視する羽目になった。その時は私が一週間くらい経った後、晴子の機嫌が良い時にどうにか取り繕って、仲間外れは解除されたが……今回は私がターゲットの為何時終わるか分からない。
 だけど、この件の当事者に関わられたら、余計に話がこじれる。

「そう、か……」

 光輝君は小さく呟き、そしておもむろに口を開く。

「俺には分からないが……そういうもの、なのか?」
「そ、そういうものなんです!」

 頷き返す私。正直、これ以上ややこしくしないで欲しかった。
 しかし、

「なあ音無――」

 光輝君は、




「――それは、本当に〝〟なのか?」



 私の禁忌に触れた。

「っ――――――!」

 頭の中が真っ白になる。同時に、母から教わった言葉が脳裏を過る。


『絆は大事なものだから、希津奈っていう名前を付けたのよ』
『クラスメイトや友達との絆を大事にしなさいね』

「――変なこと言わないで!」

 気付けば、激高していた。
 ビリビリと空気が震える。わずかに光輝君が目を見開いて驚く気配がする。
 しかし――私はそれに構わず勢いのまま言の葉を紡ぐ。

「私の〝絆〟を、馬鹿にしないで!」

 そう言うと――私は猛然と駆け出していった。

「音無!」

 背後で私の名前が呼ばれたが――私は構わず階段を下りていく。
 違う……違う……! 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!
 強烈な否定の言葉で心が満たされる。そう、この程度で私と晴子の……私達の友情は、〝絆〟は、断たれない! 一時の喧嘩だ。しばらく経てば「そんなこともあったね~」と笑い話で済まされる話だ! こんな、こんなことで、親友の好きな人と会話したくらいで別れるような〝絆〟ではないのだ!
 私は何度も自分に言い聞かせながら――階段を駆け下りていった。
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