上 下
6 / 41

⑥ 魔女と呼ばう少年

しおりを挟む
 脇目も振らず、夜の住宅街を疾駆する。

『〝絆〟という言葉について、こんなお話を知っている?』

 回夜さんのその〝話〟を聞いた後――頭の中が真っ白になり、そのまま全力で走って去っていってしまった。
 
(私、は――)

 回夜さんの話を聞いて、そんなはずない、そんなことはない、と幾度も頭の中で否定の言葉を浮かべる。
 しかし――一度浮かんだ疑念は消えてはくれない。

「はぁ……はぁ……」

 無茶苦茶に街中を疾走し、体力が尽きたことで一度止まって荒い息を吐く。
 
「はぁ……はぁ……っ私は、どうして……!」

 独り言を躊躇いもなく街中で呟く。普段は目立つようなことしない。しかし、どうしても言ってしまう。
 原因は……分かっている。先の回夜さんの『話』のせいだ。

(あんなの、気にすることないのに……!)

 汗だくの中ハンカチで額の汗を拭う。色々とあったが、早く家に帰ろう。うん、そうしよう。
 気持ちを切り替え、ハンカチをしまってめちゃくちゃに走って今何処か分からない中家路へ着こうとした、

「音無!」

 瞬間だった。

「っ⁉」

 急に肩を捕まれる。驚いて、つかんできた手を振り払ってその手の主を見て、

「――え」

 固まった。

「こ、光輝……君?」

 それは、回夜さんの親戚で、同じ苗字でクラスメイトの、回夜光輝君が怖い表情で私と同じように汗だくで立っていた。




   ◇   ◇   ◇


「漸く、追いつけた……!」
「……ど、どうしたの……こんな時間に……」

 光輝君は普段から学校ではクールで大人びている印象があり、こうして私に話しかけてくれるのも珍しい。しかも、今は夜中だ。
 いや、そもそも何故、どうして此処に?

「な、なんで……」

 混乱する私に汗だくで同じように息も絶え絶えな様子の光輝君は、真剣な表情で此方を見て話し始めた。

「あいつと……歩美と、一緒に居て……それで急に走っていったから……!」
「え、あ……」

 見られていた。その事実に驚き、ぎゅっと胸が締め付けられる。
 顔が熱くなり、言葉が出ない。

(見られた……! ううん、でも内容までは知られていない?)

 どうしよう。その言葉が脳裏を駆け巡る。回夜さんに自分の話について他言無用と口止めも頼んでいない。クラス中に知られるのは避けたいけど――。


「あいつに……何か、言われたのか?」
「っ……!」

 心臓が跳ね上がる。光輝君の瞳には、どこか確信めいたものが宿っていた。
 何と言うべきか……。逡巡し、混乱する。しかし、

「あいつには、歩美には気をつけろ……!」

 光輝君の言葉は、私の予想とはまるで違っていた。

「……え?」

 目が点になる。どういうこと?

「さっき、二人で話してるのを見た。お前達がどういう話をしたか、どんな関係かは知らない。だけど、あいつの言葉には気を付けろ」

 有無を言わせない力強さ。迫力に飲まれる私。
 そして――



「あいつは……〝〟だ」

 鬼気迫る表情で、光輝君はそう言い放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

【完結】新人機動隊員と弁当屋のお姉さん。あるいは失われた五年間の話

古都まとい
ライト文芸
【第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作】  食べることは生きること。食べるために生きているといっても過言ではない新人機動隊員、加藤将太巡査は寮の共用キッチンを使えないことから夕食難民となる。  コンビニ弁当やスーパーの惣菜で飢えをしのいでいたある日、空きビルの一階に弁当屋がオープンしているのを発見する。そこは若い女店主が一人で切り盛りする、こぢんまりとした温かな店だった。  将太は弁当屋へ通いつめるうちに女店主へ惹かれはじめ、女店主も将太を常連以上の存在として意識しはじめる。  しかし暑い夏の盛り、警察本部長の妻子が殺害されたことから日常は一変する。彼女にはなにか、秘密があるようで――。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

あいつを呼べ!

田古みゆう
ライト文芸
「今すぐアイツを呼べ!」  秘書室に隣接する扉が開けられ、突然そう命じられた新人秘書の森坊丸と力丸。 「申し訳ありません。アイツとは一体、どなたのことでしょうか?」  決死の覚悟で、そう聞き直してみたが、返ってきた言葉は、全くもって答えになっていなかった。 「アイツだ。アイツ。いつもの奴を呼べ」 「はぁ……ですから……一体どなたを?」  途方に暮れる坊丸と力丸。  それでもやるしかないと、新人秘書二人は奮闘する。  果たして二人は、アイツを呼ぶ事ができるのか?  新人秘書二人が織りなすドタバタ痛快コメディ。

別れの曲

石田ノドカ
ライト文芸
 主人公・森下陽和は幼少の頃、ピアノを弾くことが好きだった。  しかし、ある日医師から『楽譜“だけ”が読めない学習障害を持っている』と診断されたことをきっかけに、陽和はピアノからは離れてしまう。  月日が経ち、高校一年の冬。  ピアニストである母親が海外出張に行っている間に、陽和は不思議な夢を視る。  そこで語り掛けて来る声に導かれるがまま、読めもしない楽譜に目を通すと、陽和は夢の中だけではピアノが弾けることに気が付く。  夢の中では何でも自由。心持ち次第だと声は言うが、次第に、陽和は現実世界でもピアノが弾けるようになっていく。  時を同じくして、ある日届いた名無しの手紙。  それが思いもよらぬ形で、差出人、そして夢の中で聞こえる声の正体――更には、陽和のよく知る人物が隠していた真実を紐解くカギとなって……  優しくも激しいショパンの旋律に導かれた陽和の、辿り着く答えとは……?

くだらない物語と、死にざかりな僕達。

金本シイナ
ライト文芸

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...