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 くるりくるりと、僕と白兎。二人の舞踏が流れる音楽に合わせて披露される。

「わ、わ……!」

 僕の身体がクルクルと回される。かと思えばゆらゆらと音に合わせてステップを踏む。
 しかし驚くことに初めてのことなのに何故だか身体が自然と動いて、舞踏を踊れている。リードしてくれている白兎が上手なのもあるのだろうが……未経験な自分がなんだってこんなに動けるの?

「ふふ。上手い上手い」

 笑う白兎。いきなり見覚えのない所にいたり、面識のない兎っぽい奴に一方的に知られていたり、何故だか身体が自然と動いて舞踏が出来ていたり、分からないことだらけだ。
 これでは……まるで……まるで……。

「あ……そっか」

 唐突に、理解した。

「これ夢なんだ」
「夢」

 僕の答えに白兎がまたもや反芻する。うん、そう。

「うん。此処は夢の世界だね! そうじゃないと、説明つかないもん! いきなり知らない場所にいたり、なんでか白兎は僕のこと知っているし、未経験なのになんでか踊れているし!」

 夢でなければなんだというの?
 しかし白兎は暫く何の反応も示さなかった。んん? どうしたの? さっきまですごい人懐っこかったのに?

「そっか、夢か」
「うん。夢」

 問い直す白兎に断言してやる。夢でなければ何だというの?

「そう、だね……夢……だね」

 何処か悲しそうな瞳。何々なんなの? 夢と言われて悲しいの? だとしたらごめん。でも夢としか思えないし。

「夢……うん、そうだね……夢、でいいんだよ……ね」

 自分を納得させる為なのか、幾度も反芻する白兎。悲しそうな、それでいて寂しそうな、おまけに申し訳なさそうな顔に何故だかふと心に引っかかる物があった。

「ぁ……」

 そうか。

「兎、だ」
「? 蒼依?」

 踊りながら、僕はふと唐突に思い出した。そうだそうだ!

「兎だ……そう、兎を見たんだ」

 この夢の世界に来る前、兎を見た気がする。何処でだったかな……?

「そう、確か……学校の……帰り道……で……」

 なんだっけ……何か……何か……見ていて心が動かされたよう、な……。
 思い出しそうになった、瞬間。

「蒼依、踊りに集中!」
「え? あ、ああ! ご、ごめん!」

 白兎に呼ばれて我に返る。お、おお。いけないいけない。踊っている最中に考えごとに熱中していた。
 
「俺と踊っているんだから、踊りに集中して、蒼依」
「ごめんごめん」

 ぷぅー、と頬を膨らませる白兎。うーん、人間らしい仕草だけど……うーん。

「やっぱり、君って名前の通りなんでか兎を連想しちゃうなあ。なんでだろう?」

 僕の言葉に白兎は僅かに目を見開く。

「蒼依は、兎のこと好きだよね?」
「え? う、うん」

 さっきも言ったよね?

「じゃ、俺は⁉ 俺のこと、好き⁉」
「え、う、うーん……」

 いきなりの問いに戸惑う。キラキラとした瞳で此方を見つめる白兎。く、なんて曇りのない瞳をしているんだ!

「えーあー……うん、好きだよ好き」
「本当⁉ やったぁ!」

 キャ♪と喜ぶ白兎。うん、まあ怪しいけど……夢だしね。好きと言っても実害はあるまい。

「さあ、蒼依。踊ろう」
「ん……うん」

 おしゃべりにかまけて、少し怠け気味だった舞踏が再開する。
 くるりくるりと回る僕等。微笑む白兎。それに僕も自然と笑みを浮かべて応える。まあ夢の世界だしね! 楽しんだ者勝ちだよね!
 ふと周りに視線を送れば、他の白い衣装を来た者達も、白の衣装を来た者同士で舞踏をしていた。

「んー……黒兎の仮面を被った……えっと、給仕さん? いや執事さん? は踊らないんだね」
「うん。彼等は従者で本当の役目は御者ぎょしゃだからね」

 『御者』?

「『御者』……って?」

 白兎に尋ねると、ふと暗い顔になる。が、すぐさま笑顔になって

「ふふ……もうすぐ分かるよ」

 と茶目っ気たっぷりに答えた。んん? なんださっきの不穏な表情? 気のせい?

「さ、蒼依! 音が鳴り止むまで、踊ろう! ダンスしている組の中で、一番目立ってやろう!」
「お、おお!」

 そう言うと、白兎は笑って勢いを増して僕とひたすらに舞踏を繰り広げたのだった。
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