魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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「陛下は本当に……」

「リタ、その話はしないでください」

「勇者様にいいようにされて」

「私の前でその話を続けますか?」

つい昨日の出来事をリタに咎められ何も考えたくない魔王様は、今朝は寝坊してしまい気づけば昼が過ぎていた。

今日も憂鬱そうに広間の椅子に座り、頭を抱えながら挑戦者を待っている。

「近頃何か面白いことはありましたか?」

すぐにでも話題を逸らそうと、何もないだろうと思いながらリタに話を振った。

「そういえば近ごろ、人間界の北方都市で魔族の仕業とされる出来事が増えているそうです」

思いがけず面白そうなことが降ってきて、魔王様の紅玉が光り輝いた。

「それはそれは、魔王として魔族が世を乱しているのは見逃せません。すぐに出向いて罰しましょう!」

魔王様はわくわくと遠足に行く子供のような笑顔を見せ、すぐに立ち上がると「後を頼みましたよー」と声を響かせて飛んで行ってしまった。

「ですが、どうやら神官の目撃情報もあるそうで……っと、聞いていませんよね」

昨日と同じように衝動に駆られて行ってしまった魔王様に呆れるも、なんとか無事て帰ってきて欲しいと祈り、夕食の準備を始めるリタだった。




「北方都市……今一番栄えている都市ですか?」

魔王様が着いた頃には夕暮れで、都市上空をふわふわと魔力で浮かんでいた。

「魔族が何かしらを起こすのであれば、やはり闇夜に紛れてですよね」

ぽつぽつと独り言をしながら腕を組んだ。
その時、都市の路地裏の方で一瞬光るものが見えた。
普通の光や火ではなく、明らかに別の力だった。

何か分からなかったら確認しに行くのが魔王様だった。先の事を考えず、身体が動くままにその場へ降りていった。

「そこで何をしているのですか?」

強者と戦えるかとわくわくしているため、魔王様の声は少し弾んでいる。

そこに立っていたのは2人の白い衣を纏った人、いや神官と……僅かに汚れたフードを被った人の3人がいた。フードの人は意識がないのか神官に抱えられた状態だ。

「誰だお前は、魔族か?」

上から突然現れた相手に神官達は警戒し、剣を抜き出して詰問した。
しかし、よく見ればその姿は赤い衣で黒い長髪、話に聞く魔王その人であることをすぐに勘付いた。

「これはこれは、魔界の主じゃないか」

1人の神官は鼻で笑い口を弧に曲げながら、剣を朱に光らせ真っ直ぐに魔王様へ向けた。

「そちらは天界の神官様ですか?地上に降りてくるなんて雑用ですか?それとも降格でもしたのでしょうか?」

神官の態度が気に食わない魔王様も、負けじと嫌味を言った。

神官には位があるらしいのだが、魔王様は詳しくない。ただここにいる2人は、1人が白い衣に少しの甲冑をつけており、もう1人はそういったものがなく軽い服装であった為、上官のような人とその付き人であるということは分かった。
つまり相手にするのは1人だ。

「魔王様が下界に何のようだ?」

蔑んだように上官は言うと、魔王様の上から下までジロジロと見た。

「散歩ですよ」

魔王様は、フードを被っているのが魔族ではなく12歳ぐらいの人間であることから、自分の出る幕ではないと感じた。

「魔王という職はずいぶん暇なようだ。魔界へ帰って身体を鍛え直したらどうだ?」

神官は剣にその力を宿す事が多いが、魔族は身体強化に魔力を使う事が基本だ。そのことを言っているのだろうと魔王様は鼻で笑った。

「そうですね、神官も1人の少年を捉えてずいぶんと弱いものイジメが得意のようだ」

神官というのも余程暇だなとセリフを捨て、少年を特に助ける気もないので早々に立ち去ろうと背を向けた。

「それは正しいかもしれない。確か魔王様は主に負けていたはずだ」

このことを言われると様々な感情が入り乱れて、魔王様の顔には黒い感情が浮かんだ。

この魔王様は一度調子に乗って天帝に挑み敗れた過去がある。そのためか神官と会うとなんとも気まずく、このように煽られて厄介だと思っていた。

「私があなたに負けたわけではありませんし、あなた相手でしたら例え100回殺されても死ぬ気はしません。なんなら今相手しましょうか?」

魔王様はもう一度身体を神官の方に向けて、紅玉の眼を光らせて拳を握った。

「こんなところで争うなんて、さすが魔王だ」

とニタニタと笑いながら上官が両手を挙げる。
この上官は相当自分のことが嫌いなのだと、魔王様は呆れて嘆息した。

「行きましょう」

「分かっている。では魔王様、また」

ずっと傍らでフードの少年を抱えていた神官が声を出すと、2人の神官はふわっと浮かんで去って行き、フードを被った少年だけがそのままで残っていた。

「ちょっと待ってください!この少年を放っておくのですか?」

と空に向かって叫ぶが、すでに消えていた。
魔王様は嘆息を漏らし、どうするべきか考えていたところ、背後から声をかけられた。

「リンドハイム魔王様?」

聞き慣れた、そう今朝まで聞いていた声が耳に入ってきた。ピシッと音がしたかと思うほど、魔王様の身体は硬直した。
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