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執務室へ向かっている途中、いつもより周囲の視線を感じる。一応、王の側近の立場なのですれ違えばこれまでも挨拶などはされていたが……。普段よりも身なりを整えているせいだろうか。これまでもレオナとトウカとの身分の違いを言ってくる者はいたが、今更身なりを整えてと嫌味でも考えているのだろうか。視線が不愉快だ。
イオリの歩みに合わせるのをやめ、足速に執務室へ向かう。イオリが小走りで追いかけてくるが構わなかった。ノックをし声をかけて執務室に入るとすでに仕事を始めているトウカが声をかけてきた。
「どうした、いつもより遅いじゃないか。………ん?」
覗き込むようにしてトウカがこっちを見てくる。
「なんだ?なんかついてんのか?」
まじまじと顔を見らることが不快で不機嫌に言い放つ。
「いや、今日はちゃんと身なりを整えていると思って。そんな髪とか、公式の披露目くらいでしかしていなかっただろう。自分でしたのか?」
「いや、イオリがした。変か?城の者たちが視線を寄越してきて不愉快だ。」
トウカがイオリの方を横目で見てすぐに視線を戻して言う。
「そりゃ、これまで……よく言えば男らしい身なりだった奴が端正な装いをしてたら見たくもなるだろう。…城で働いてるんだ、慣れないだろうがその方がいい。」
驚き呆れたように言ってくる。それならいいが。そのうち周囲も慣れてくるだろう。俺は鼻で返事をし仕事に取りかかる。
最近の王都は平和なもので、俺が出向かなければならないような揉め事はほとんどない。レオナが周辺の国々を力でねじ伏せ、言葉で丸め込み、いいようにしているからだ。
俺は書類に向かって判を押す仕事よりも体を動かしていたい。もう少し揉め事が起こってもいいだろうにと不謹慎なことを思いつつ目を通して判を押す。
俺が判を押した書類をイオリが各部署に届けたり、そのついでに聞いてきた各部署からの伝達事項を伝えてきたりする。この移動がなくなっただけで仕事が捗る。人を使うのが得意なトウカなんかはイオリにいろいろと雑用をさせている。
一生懸命に言いつけられた事を黙々とこなすイオリを見て、トウカの部下にはなりたくないなと切実に思った。
「ちょっと休憩にしよう!」
上機嫌にトウカが言う。
「イオリ、お茶を淹れてきてくれ。」
トウカの一言でイオリが給湯室の方へ駆けていく。それを見て呆れたようにトウカヘ苦言を言う。
「おい、イオリのこといいように使いすぎだろ。俺の側近だぞ。」
よほど仕事が進んだのか笑顔でトウカが答える。
「いいじゃないか。リッカが足代わりに使っているだけよりよっぽど有意義に働けていると思うが?小鬼族だから体力も十分、こんな程度じゃ疲れないだろう。」
…そういうことじゃないんだが。確かに俺が仕事を与えるよりも有意義に働けているとは思うが。なんだか癪に触る。不機嫌なまま書類を横によけだらしなく座り直す。どうせトウカとイオリしかいない、少しくらいだらけた格好でもいいだろう、休憩だ、休憩。
「お疲れ様です。」
にこやかな笑顔でイオリが俺の前にコーヒーを置く。すでにトウカの前には同じものが置いてあった。…トウカに躾けられやがって。
「イオリ、自分のも淹れてきて少し休め。」
苛立ちを隠さず言うとイオリが少し驚いた様な表情をして俯きつつ「はい。」と返事をしてまた給湯室に駆けていった。
「なに怒ってるんだ?よく働いているのに、イオリが可哀想じゃないか。」
トウカが不思議そうに聞いてくる。
「怒ってない。怒っていたら休めなんて声はかけねぇ。」
いちいち聞いてくるなとトウカの方を睨めば、お茶を持って給湯室でウロウロとしているイオリが視界に入る。
チッと舌打ちをしてしまう。
「おい、イオリ!なにウロウロしてんだ!茶ぁ持って早くこっち来い。」
ウロウロとしていたイオリがハッとこっちを見ておずおずとそばに寄ってくる。
「お前はほんと休み方を知らないな。給湯室でウロウロしててもしょうがないだろ。休憩って言われたら茶を淹れて、適当に座って飲め。お前だけ立ってたらおかしいだろ。」
そう言って俺の隣の椅子を引いてやると「すみません、ありがとうございます。」といって隣に座りお茶を啜りだす。
「なに、リッカ。前も怒ったような口ぶりだね。イオリは休憩が下手くそなの?可愛いねぇ~。」
にやにやして揶揄うようにトウカが言う。
イオリはトウカの言葉に恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。
「うるせぇ。」
面倒臭そうにトウカに言う。
頬を染めているイオリも気に食わない。
「おい、イオリ。今日はもういいぞ。茶ぁ飲んだらお前はもう訓練場に行って体鍛えてろ。」
「えっ。もうですか。まだ途中の仕事が…。」
「いいって言っているだろう。途中のやつはトウカがやるさ。」
「そ、そんなわけには…「イオリ、お前の主人は誰なんだ?」
まだトウカにこき使われる気なのか。イオリの方を睨みつければシュンとして「わかりました。」と小さく言った。
そんな俺たちを見ながらトウカが「リッカ、横暴ー。」と棒読みにいうが、止める気はないらしい。にやにやするのをやめろと言いたいがこれ以上言っても八つ当たりのような気がして、イライラを鎮めるためにコーヒーを口に含む。
…イオリが淹れたコーヒーは思っていたよりも苦かった。
イオリの歩みに合わせるのをやめ、足速に執務室へ向かう。イオリが小走りで追いかけてくるが構わなかった。ノックをし声をかけて執務室に入るとすでに仕事を始めているトウカが声をかけてきた。
「どうした、いつもより遅いじゃないか。………ん?」
覗き込むようにしてトウカがこっちを見てくる。
「なんだ?なんかついてんのか?」
まじまじと顔を見らることが不快で不機嫌に言い放つ。
「いや、今日はちゃんと身なりを整えていると思って。そんな髪とか、公式の披露目くらいでしかしていなかっただろう。自分でしたのか?」
「いや、イオリがした。変か?城の者たちが視線を寄越してきて不愉快だ。」
トウカがイオリの方を横目で見てすぐに視線を戻して言う。
「そりゃ、これまで……よく言えば男らしい身なりだった奴が端正な装いをしてたら見たくもなるだろう。…城で働いてるんだ、慣れないだろうがその方がいい。」
驚き呆れたように言ってくる。それならいいが。そのうち周囲も慣れてくるだろう。俺は鼻で返事をし仕事に取りかかる。
最近の王都は平和なもので、俺が出向かなければならないような揉め事はほとんどない。レオナが周辺の国々を力でねじ伏せ、言葉で丸め込み、いいようにしているからだ。
俺は書類に向かって判を押す仕事よりも体を動かしていたい。もう少し揉め事が起こってもいいだろうにと不謹慎なことを思いつつ目を通して判を押す。
俺が判を押した書類をイオリが各部署に届けたり、そのついでに聞いてきた各部署からの伝達事項を伝えてきたりする。この移動がなくなっただけで仕事が捗る。人を使うのが得意なトウカなんかはイオリにいろいろと雑用をさせている。
一生懸命に言いつけられた事を黙々とこなすイオリを見て、トウカの部下にはなりたくないなと切実に思った。
「ちょっと休憩にしよう!」
上機嫌にトウカが言う。
「イオリ、お茶を淹れてきてくれ。」
トウカの一言でイオリが給湯室の方へ駆けていく。それを見て呆れたようにトウカヘ苦言を言う。
「おい、イオリのこといいように使いすぎだろ。俺の側近だぞ。」
よほど仕事が進んだのか笑顔でトウカが答える。
「いいじゃないか。リッカが足代わりに使っているだけよりよっぽど有意義に働けていると思うが?小鬼族だから体力も十分、こんな程度じゃ疲れないだろう。」
…そういうことじゃないんだが。確かに俺が仕事を与えるよりも有意義に働けているとは思うが。なんだか癪に触る。不機嫌なまま書類を横によけだらしなく座り直す。どうせトウカとイオリしかいない、少しくらいだらけた格好でもいいだろう、休憩だ、休憩。
「お疲れ様です。」
にこやかな笑顔でイオリが俺の前にコーヒーを置く。すでにトウカの前には同じものが置いてあった。…トウカに躾けられやがって。
「イオリ、自分のも淹れてきて少し休め。」
苛立ちを隠さず言うとイオリが少し驚いた様な表情をして俯きつつ「はい。」と返事をしてまた給湯室に駆けていった。
「なに怒ってるんだ?よく働いているのに、イオリが可哀想じゃないか。」
トウカが不思議そうに聞いてくる。
「怒ってない。怒っていたら休めなんて声はかけねぇ。」
いちいち聞いてくるなとトウカの方を睨めば、お茶を持って給湯室でウロウロとしているイオリが視界に入る。
チッと舌打ちをしてしまう。
「おい、イオリ!なにウロウロしてんだ!茶ぁ持って早くこっち来い。」
ウロウロとしていたイオリがハッとこっちを見ておずおずとそばに寄ってくる。
「お前はほんと休み方を知らないな。給湯室でウロウロしててもしょうがないだろ。休憩って言われたら茶を淹れて、適当に座って飲め。お前だけ立ってたらおかしいだろ。」
そう言って俺の隣の椅子を引いてやると「すみません、ありがとうございます。」といって隣に座りお茶を啜りだす。
「なに、リッカ。前も怒ったような口ぶりだね。イオリは休憩が下手くそなの?可愛いねぇ~。」
にやにやして揶揄うようにトウカが言う。
イオリはトウカの言葉に恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。
「うるせぇ。」
面倒臭そうにトウカに言う。
頬を染めているイオリも気に食わない。
「おい、イオリ。今日はもういいぞ。茶ぁ飲んだらお前はもう訓練場に行って体鍛えてろ。」
「えっ。もうですか。まだ途中の仕事が…。」
「いいって言っているだろう。途中のやつはトウカがやるさ。」
「そ、そんなわけには…「イオリ、お前の主人は誰なんだ?」
まだトウカにこき使われる気なのか。イオリの方を睨みつければシュンとして「わかりました。」と小さく言った。
そんな俺たちを見ながらトウカが「リッカ、横暴ー。」と棒読みにいうが、止める気はないらしい。にやにやするのをやめろと言いたいがこれ以上言っても八つ当たりのような気がして、イライラを鎮めるためにコーヒーを口に含む。
…イオリが淹れたコーヒーは思っていたよりも苦かった。
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