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家主の心中は察せず、猫道まっしぐら10
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「と、いうことで、今日は若奥様をお連れしました」
「はい、きました~」
まるで3分クッキングのようなすっ飛ばし方だった。顔を上げると執務机の隣に置いてある、ソファにミラジェがちょこんとお行儀よく座っていた。
「わ、わあああ⁉︎ なんでここにいるんだ⁉︎」
「話し合いと……書類整理のお手伝いに?」
「最近忙しくて、書類が溜まっているでしょう? 若奥様は経理仕事が得意ということだったので、ぜひ手伝っていただこうと思いまして、お呼びしました」
「はい! 実は私、こういう作業は大の得意です! 任せてください!」
ミラジェはドンと胸を叩いてさも自信があります、と言わんばかりの表情を作る。
(大丈夫か……? これは……)
男爵家で蔑ろにされていたミラジェに果たして、書類作業などできるのだろうか。一抹の不安を抱えながらも、ジャンとミラジェは楽しげに準備を始めてしまう。
「ささ、若奥様。早速こちらの書類をお願いしてもよろしいでしょうか」
ジャンはあれもこれもと計算が必要な書類をミラジェに手渡し始める。最初の方は心配してちらちらと視線をやってしまっていたが、ミラジェは意外と手際がいい。
それどころか元々、書類を扱うのに慣れているかのように、分類の仕方も明確だ。しかも計算についてはジャンより早いくらいだ。
「どうして、君はそんなに手際がいいんだ……?」
シャルルは素朴な疑問を抱き、ミラジェに質問をした。一瞬、気まずそうに下へと視線を落としたミラジェは、気を取り直したように口を開く。
「男爵家で瑣末な書類は全て押し付けられていましたから。主に使用人が管理する書類中心ですけど」
その言葉で、シャルルはミラジェは思っているほど、貴族教育に遅れがないという報告を受けていたことを思い出す。
家族に放置されていた、ということは計算や文字の読み書きなど、基本的なこともできないのではないかと思っていたが、意外にもミラジェは問題なくこなすことができたのだ。そのことを不思議に思っていたが、まさか……。
「あの家では使用人たちにもこき使われていましたから。でもみんな、家族よりも優しかったですよ? 仕事をこなすと、ご飯を分けてくれたりしましたし……。難しい仕事をした方がおこぼれもらえる率が高かったので、字の読み書きも計算も使用人に習ったり……見よう見まねで覚えました」
そうだったのか……とシャルルは小さな声で呟く。
「でもこうやって役に立っているならいいのかも知れません。その辺の御令嬢よりも事務仕事ができる自身がありますよ?」
「御令嬢は事務仕事は習わないからな……」
ミラジェに手伝ってもらいながら、仕事を片付けていると予定よりも二時間ほど早く仕事が片付いてしまう。この結果には手伝いを頼んだジャン自身も驚いていた。
「早く終わりましたから、ご褒美にケーキでもお持ちしましょう」
そう言ったジャンは扉の外に控えていた侍女に声をかけた。サービングカートで運ばれてきたのはいちごの乗った四角いショートケーキと最近ミラジェが気に入って飲んでいる、カモミールティーだった。
「わあ! 美味しそう!」
心から無邪気に喜び、年頃の少女らしさを見せたミラジェの姿を見てシャルルとジャンは、目を三日月型に細めた。
さあ食べよう。
まずはお茶で口を潤してから……そう、ティーカップに口をつけた瞬間、ミラジェはハッと目を見開く。
「そのお茶、飲まないでください」
「え?」
「毒が入っています!」
切り裂くようなミラジェの声が、執務室に響き渡った。
「はい、きました~」
まるで3分クッキングのようなすっ飛ばし方だった。顔を上げると執務机の隣に置いてある、ソファにミラジェがちょこんとお行儀よく座っていた。
「わ、わあああ⁉︎ なんでここにいるんだ⁉︎」
「話し合いと……書類整理のお手伝いに?」
「最近忙しくて、書類が溜まっているでしょう? 若奥様は経理仕事が得意ということだったので、ぜひ手伝っていただこうと思いまして、お呼びしました」
「はい! 実は私、こういう作業は大の得意です! 任せてください!」
ミラジェはドンと胸を叩いてさも自信があります、と言わんばかりの表情を作る。
(大丈夫か……? これは……)
男爵家で蔑ろにされていたミラジェに果たして、書類作業などできるのだろうか。一抹の不安を抱えながらも、ジャンとミラジェは楽しげに準備を始めてしまう。
「ささ、若奥様。早速こちらの書類をお願いしてもよろしいでしょうか」
ジャンはあれもこれもと計算が必要な書類をミラジェに手渡し始める。最初の方は心配してちらちらと視線をやってしまっていたが、ミラジェは意外と手際がいい。
それどころか元々、書類を扱うのに慣れているかのように、分類の仕方も明確だ。しかも計算についてはジャンより早いくらいだ。
「どうして、君はそんなに手際がいいんだ……?」
シャルルは素朴な疑問を抱き、ミラジェに質問をした。一瞬、気まずそうに下へと視線を落としたミラジェは、気を取り直したように口を開く。
「男爵家で瑣末な書類は全て押し付けられていましたから。主に使用人が管理する書類中心ですけど」
その言葉で、シャルルはミラジェは思っているほど、貴族教育に遅れがないという報告を受けていたことを思い出す。
家族に放置されていた、ということは計算や文字の読み書きなど、基本的なこともできないのではないかと思っていたが、意外にもミラジェは問題なくこなすことができたのだ。そのことを不思議に思っていたが、まさか……。
「あの家では使用人たちにもこき使われていましたから。でもみんな、家族よりも優しかったですよ? 仕事をこなすと、ご飯を分けてくれたりしましたし……。難しい仕事をした方がおこぼれもらえる率が高かったので、字の読み書きも計算も使用人に習ったり……見よう見まねで覚えました」
そうだったのか……とシャルルは小さな声で呟く。
「でもこうやって役に立っているならいいのかも知れません。その辺の御令嬢よりも事務仕事ができる自身がありますよ?」
「御令嬢は事務仕事は習わないからな……」
ミラジェに手伝ってもらいながら、仕事を片付けていると予定よりも二時間ほど早く仕事が片付いてしまう。この結果には手伝いを頼んだジャン自身も驚いていた。
「早く終わりましたから、ご褒美にケーキでもお持ちしましょう」
そう言ったジャンは扉の外に控えていた侍女に声をかけた。サービングカートで運ばれてきたのはいちごの乗った四角いショートケーキと最近ミラジェが気に入って飲んでいる、カモミールティーだった。
「わあ! 美味しそう!」
心から無邪気に喜び、年頃の少女らしさを見せたミラジェの姿を見てシャルルとジャンは、目を三日月型に細めた。
さあ食べよう。
まずはお茶で口を潤してから……そう、ティーカップに口をつけた瞬間、ミラジェはハッと目を見開く。
「そのお茶、飲まないでください」
「え?」
「毒が入っています!」
切り裂くようなミラジェの声が、執務室に響き渡った。
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