まあ、よくない!

菜っぱ

文字の大きさ
上 下
4 / 4

4

しおりを挟む
 窓の外から鳥の鳴き声がする。眩い光が差し込む朝。ベッドに寝転んでいた私は、寝不足で重い瞼をがんばって開く。
 起き上がって部屋を見渡すけど、特に変わったこともなく、天井に穴なんて空いていない。もちろん『未来の私』なんてのもいない。

「は……。やっぱり夢か……」

 起き抜けの私は気が抜けたように声を出す。あくびをしながら、左手で頭を掻く。すると、掌に異様な感触があることに気がつく。

「ん? 私、何か握って」

 左の掌を見てギョッとする。掌には夢でみたのと全く同じ虹色の包装がされた、飴が握られていた。
 朝日に透かすようにして見ると、私が勉強の合間などによく食べる菓子メーカーのロゴが見えた。
 でも、こんなの見たことないよ……。まさか本当に未来の私がここに来たってこと?

「まさか……」

 どうしても自分の体験が信じられない私は、自分のスマホでこの商品が存在しているか、検索をしてみる。けれども、メーカーのホームページをいくらスクロールしてもそんな飴の画像は見つからない。

「やっぱり……夢じゃなかったの……?」

 頭の中で混乱はしていた。
 でも、いくら悩んだって、あの体験がなんだったのか、答えは出ない。
 悩んでいても仕方がないので、とりあえず、口の中に飴ほいっと入れてみた。口の中でコロリと音を立てた飴は、フルーツとは違うふんわりとした綿飴のような甘味と、今までに感じたことのない口中に広がる爽やかな酸味──未来の味がした。

「葉月! いつまで寝ているの? 遅刻するよ~」

 一階のリビングから、母の声が響く。我に帰って時計を見ると、もう出ないと遅刻してしまう時間だった。

「はーい!」

 慌てて身支度を整えた私は、朝食も食べずに飛び出すように玄関を出た。
 いつもの通学路を走る。息が上がって苦しい。変わらない日常。……のはずなのに、なぜか私の目には景色が輝いているように見える。

『私は何にでもなれる』

 その魔法の言葉を『未来の私』が教えてくれたから。

 ギリギリ遅刻を逃れた私は、校門をくぐり生徒玄関へと向かう。
 生徒玄関にはなんと偶然、洲崎君がいた。
 しかも、いつもは誰かが周りにいるのに、今日は一人だ。
 ──どうするの? 話しかける?
 おはよう、と一言言えばいい。
 けれどもたったそれだけのことが、私には高いハードルに感じる。
 あまりの緊張に唾をゴクリと飲み込む。いつもなら、まあいっかで済ませて、立ち去ってしまうところだ。
 でも……。ここで、勇気を出さなかったら、私は?
 覚悟を決めて息を大きく吸う。そうすると、私の足は勝手に前へと動き出した。

「まあ、良くない!」

 勇気を出せ! 私は『素敵な私』に……。いや『もっともっと素敵な私』に会いに行きたいんだから!

「あの……。洲崎くん! お、おはよう!」

 緊張で裏返った私の声が、生徒玄関に響く。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

怪異・おもらししないと出られない部屋

紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。 ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。 こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。 強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...