33 / 35
トラック6 炎刃全開、最強の騎士
01 ファースト・コンタクト
しおりを挟む
「お兄ちゃん、話があるの」
「どうした、急に」
ある日の朝食中突然飛び出した、その言葉。
いつになく真剣な妹の顔に、俺は唾を飲み込む。
フォークを持つ手は震え、心臓の鼓動が早くなる。
「実は……」
そこまで言って、彼女は言葉を止める。そして数秒間勿体つけてから――再び口を開いた。
「彼氏、できちゃった」
その言葉を聞いた瞬間、俺は金槌で頭を殴りつけられたような衝撃に襲われた。
両親を事故で失ってからと言うものの、蝶よ花よと思ってきた妹が――
「そうか……そうか……」
俺は虚空を見つめ、うわごとのように繰り返していた。
「ちょ、ちょっと!?何も泣くことないでしょう!?」
いつの間にやら、俺は涙を流していたらしい。妹が慌ててティッシュの箱を差し出す。
俺はそれを受け取ると、勢いよく鼻をかみ、彼女を見つめた。
そして聞く。「どんな奴なんだ?」と。
思えば、この日が俺の運命の始まりだった。
もっと早く、奴の異常性に気が付いてさえいれば。
妹にできたという彼氏、
サワムラ・タクトという男の異常性に――
※
「ぐ、うぅ……」
うめき声を漏らしながら、目を覚ます。痛む身体を押して上体を無理やり起こすと、辺りを見回した。状況確認をしたかったがためだ。
視界いっぱいに、草木が映る。どうやら、ここはどこかの森か山の中らしい。
しかし、俺はふと違和感を覚える。
その訳が、自身の身体の下にある落ち葉だ。
綺麗に積み上げられたそれは、偶然では説明できないほどの不自然さを感じた。
これには、明らかに人の手が加えられている。
なら、これを作った誰かがまだ近くにいるという事――俺は立ち上がると、さらに周りを見渡して警戒した。
そしてそのわずか数秒後、草をかき分ける音が聞こえてきた。
草の揺れは次第に大きくなり、何者かがここへと近づきつつあることを示していた。
「誰だ!」叫ぶ。
その言葉と同時に、その人物は姿を現した。
「お、起きたか少年」
穏やかな口調で言い放つ男。歳は50代前後、と言ったところか。
その口ぶりからすると、俺をここへ寝かせたのは彼なのだろう。
しかし、油断するわけにはいかない。
無害そうなふりをし、安心させてから裏切る。そんな人間を、俺はよく知っている。
剣を取り出し、構えようとしたが――ここで、俺は気づく。
「何っ……!?」
剣が無いということに。
狼狽を隠せぬ俺に、男は言った。
「探し物はこいつかい?」と。
見せびらかすように取り出されたのは、2対の剣。紛れもなく、俺の剣だ。
「それを返せっ!」
間髪入れず、俺は奴に殴り掛かった。奴がどういう存在かはどうでもいい。
俺の邪魔をするというのなら、全て等しく俺の敵だ。
「おおっと、元気じゃねぇか」
しかしその拳は、難なく受け止められてしまった。
力は強く、押しても引いてもびくともしない。
ぐぐ、と歯を食いしばり、ただ睨むばかりとなってしまった俺。
暫しの膠着が続いたのち、男が急に手を離した。
込めていた力が一気に解き放たれ、前へとよろけてしまう。
そんな俺を見て、がははと笑う男。何なんだコイツは。
「貴様……!」
「はは、悪い悪い。お前さんみたいなのはついからかいたくなっちまってな、ほれ」
「!」
そう言って、男は俺の剣を差し出した。半ば奪うようにそれを受け取ると、半歩下がって距離を離す。
「随分トゲトゲしてんじゃないの、若いねぇ」
そんな俺の様子に、軽口で返す男。
「……何者だ」
警戒を解かぬまま、聞く。
「ん、俺かい?俺はダイル。またの名を――」
「『炎』の騎士、ヴォルガだ」
「どうした、急に」
ある日の朝食中突然飛び出した、その言葉。
いつになく真剣な妹の顔に、俺は唾を飲み込む。
フォークを持つ手は震え、心臓の鼓動が早くなる。
「実は……」
そこまで言って、彼女は言葉を止める。そして数秒間勿体つけてから――再び口を開いた。
「彼氏、できちゃった」
その言葉を聞いた瞬間、俺は金槌で頭を殴りつけられたような衝撃に襲われた。
両親を事故で失ってからと言うものの、蝶よ花よと思ってきた妹が――
「そうか……そうか……」
俺は虚空を見つめ、うわごとのように繰り返していた。
「ちょ、ちょっと!?何も泣くことないでしょう!?」
いつの間にやら、俺は涙を流していたらしい。妹が慌ててティッシュの箱を差し出す。
俺はそれを受け取ると、勢いよく鼻をかみ、彼女を見つめた。
そして聞く。「どんな奴なんだ?」と。
思えば、この日が俺の運命の始まりだった。
もっと早く、奴の異常性に気が付いてさえいれば。
妹にできたという彼氏、
サワムラ・タクトという男の異常性に――
※
「ぐ、うぅ……」
うめき声を漏らしながら、目を覚ます。痛む身体を押して上体を無理やり起こすと、辺りを見回した。状況確認をしたかったがためだ。
視界いっぱいに、草木が映る。どうやら、ここはどこかの森か山の中らしい。
しかし、俺はふと違和感を覚える。
その訳が、自身の身体の下にある落ち葉だ。
綺麗に積み上げられたそれは、偶然では説明できないほどの不自然さを感じた。
これには、明らかに人の手が加えられている。
なら、これを作った誰かがまだ近くにいるという事――俺は立ち上がると、さらに周りを見渡して警戒した。
そしてそのわずか数秒後、草をかき分ける音が聞こえてきた。
草の揺れは次第に大きくなり、何者かがここへと近づきつつあることを示していた。
「誰だ!」叫ぶ。
その言葉と同時に、その人物は姿を現した。
「お、起きたか少年」
穏やかな口調で言い放つ男。歳は50代前後、と言ったところか。
その口ぶりからすると、俺をここへ寝かせたのは彼なのだろう。
しかし、油断するわけにはいかない。
無害そうなふりをし、安心させてから裏切る。そんな人間を、俺はよく知っている。
剣を取り出し、構えようとしたが――ここで、俺は気づく。
「何っ……!?」
剣が無いということに。
狼狽を隠せぬ俺に、男は言った。
「探し物はこいつかい?」と。
見せびらかすように取り出されたのは、2対の剣。紛れもなく、俺の剣だ。
「それを返せっ!」
間髪入れず、俺は奴に殴り掛かった。奴がどういう存在かはどうでもいい。
俺の邪魔をするというのなら、全て等しく俺の敵だ。
「おおっと、元気じゃねぇか」
しかしその拳は、難なく受け止められてしまった。
力は強く、押しても引いてもびくともしない。
ぐぐ、と歯を食いしばり、ただ睨むばかりとなってしまった俺。
暫しの膠着が続いたのち、男が急に手を離した。
込めていた力が一気に解き放たれ、前へとよろけてしまう。
そんな俺を見て、がははと笑う男。何なんだコイツは。
「貴様……!」
「はは、悪い悪い。お前さんみたいなのはついからかいたくなっちまってな、ほれ」
「!」
そう言って、男は俺の剣を差し出した。半ば奪うようにそれを受け取ると、半歩下がって距離を離す。
「随分トゲトゲしてんじゃないの、若いねぇ」
そんな俺の様子に、軽口で返す男。
「……何者だ」
警戒を解かぬまま、聞く。
「ん、俺かい?俺はダイル。またの名を――」
「『炎』の騎士、ヴォルガだ」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ
アキナヌカ
ファンタジー
僕はクアリタ・グランフォレという250歳ほどの若いエルフだ、僕の養い子であるハーフエルフのソアンが150歳になって成人したら、彼女は突然私と一緒に家出しようと言ってきた!!さぁ、これはお疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ??かもしれない。
村で仕事に埋もれて疲れ切ったエルフが、養い子のハーフエルフの誘いにのって思い切って家出するお話です。家出をする彼の前には一体、何が待ち受けているのでしょうか。
いろいろと疲れた貴方に、いっぱい休んで癒されることは、決して悪いことではないはずなのです
この作品はカクヨム、小説家になろう、pixiv、エブリスタにも投稿しています。
不定期投稿ですが、なるべく毎日投稿を目指しています。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる