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トラック5 騎士追憶、レクス・ビギンズ
01 異世界転生
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「んだよ!俺が悪いって言いたいのか!?」
「ああそうだよ、このバカ!」
「あー、バカって言ったなぁ!それが実の息子に言う言葉かよ!」
「バカにバカって言って何が悪い!?」
「あったま来た!こんの偏屈親父!」
「おー、来るかこのドラ息子!」
「「ぎぎぎぎぎぎ……」」
言い争い、ついには組み合いへと発展する親子。
一人は20歳の青年、ヨロイ・ジン。もう一人は50歳男性、ヨロイ・ミネタカ。
「まったく。二人とも、ほどほどにしなさいな」
それをやれやれ、と言った様子で見つめて言う女性、ヨロイ・サヤ。
二人のケンカ――否、じゃれあいは今に始まったことではない。一言だけ言うと、そのまま夕食の準備を続けていた。
ここは地球、日本。
何の変哲もない2LDKの平屋に住むこの一家は、まだ気づいていなかった。
この日常が、突如として崩れ去ってしまう運命にあるという事に――
※
「もう知るか!お前なんぞ出て行っちまえ!」
「あぁそうさせてもらうよ!今までお世話になりました!」
叫び、駆け出して家を飛び出してゆくジン。それを見ながら、ミネタカはフン、と怒気混じりに鼻を鳴らす。
きっかけは、些細なことだった。
その日、ジンは大学をサボり遊んでいた。理由はただ面倒だったから。
普段であればそんなことはしなかった彼だったが、この日だけはなぜか、授業に出る気になれなかったのだ。
それを知った父は怒った。ジンを呼びつけ、散々に怒鳴り散らした。
誰が見ても10対0でジンが悪いので、当然ではあるのだが。
しかしそれに納得がいかなかった彼は、家を飛び出してしまった。逆ギレだ。
~数十分後~
「ったく、あんなに怒ることないだろ……」
公園。愚痴りながら、ブランコをひたすらに漕ぐジン。
正直なところ、自身が悪いことはわかっていいた。しかし素直にそれを認められず、もやもやとした思いばかりが募ってゆく。
「あー!もう!」
そしてひとしきり悩んだ後、叫ぶ。ブランコから飛び降り、天を仰ぐと――
「……なんか買って帰るか。……親父、そういや最近腰痛いって言ってたよな」
ぽつりとつぶやいて、歩き出す。すると――
「そこの貴方」
突然、彼に声がかかった。振り向き、その方向を見やるジン。
「……何すか?」
そこにいたのは、フードを深くかぶった群青のコート姿の男。にやりと歪んだ口元を見せる不審なその姿に、警戒しつつ返すジン。
そんな彼を意に介さず、男はゆっくりと近づくと。
「おめでとう」
そう一言、彼に告げた――
※
「う……ん?」
あれ、俺、何してたんだっけ。確か、公園にいて――ダメだ、頭がぼんやりしてる。
というか、何で寝てたんだ――?そう思いつつ、目を開けると。
「おはよう、ジン」
「……え?」
そこにいたのは、俺の名を呼ぶ見知らぬ女性。それだけじゃない。隣を見ると、いびきをかいて眠るおっちゃんもいた。
そして、さらに驚くべきことに気づいてしまう。
(何だよこの手……!?)
手が――小さい。短くふっくらとした指は、子供の物で、そして紛れもなく――俺の物だった。
手を開け閉めしつつ、さらに見回す。
視界に飛び込んでくるのは、知らない光景ばかり。
大きなベッドに、壁に掛けられた絵画、レンガ造りの暖炉。
漫画や映画でしか見たことのないような光景に、俺はひたすら困惑する。
「どうしたの?ジン」
そんな俺を不思議に思ってか、女性は――いや、この子の母親は額に手を当て、聞く。
間違いない。このシチュエーションは。
(異世界転生ってやつか……!?)
異世界転生。最近流行ってるらしいジャンルの名前だ。けどまさか、実際に体験することになるなんて。
前人未到の現象に少しばかり興奮するも――ふと、心の中に棘が刺さる。
(……親父、おふくろ)
という事は、前の俺は死んだということになる。それはつまり、子が親を残して先立ってしまったという事で。
最後に交わした会話を思い出し、物悲しくなる。
もっと他に、言葉は無かったのだろうか。
親父だって、何も本心でああ言ったわけじゃないだろう。けど俺はムキになって――
自分の幼稚さを思うと、悔しくて仕方なかった。
そんな時――
「……怖い夢でも見たのね。大丈夫よ。パパとママは、いつだって側にいるから」
俺の頬を指で撫で、女性は――いや、『母さん』は優しくそう言った。
気づくと、俺の両目からは涙が溢れ出していた。
そうだ。悔やんで何かが変わるわけじゃない。今はただ、前を向こう。
この人たちにまで、悲しい顔をさせちゃいけない。
俺は笑顔を作り、言った。
「ありがとう、母さん!」
「ああそうだよ、このバカ!」
「あー、バカって言ったなぁ!それが実の息子に言う言葉かよ!」
「バカにバカって言って何が悪い!?」
「あったま来た!こんの偏屈親父!」
「おー、来るかこのドラ息子!」
「「ぎぎぎぎぎぎ……」」
言い争い、ついには組み合いへと発展する親子。
一人は20歳の青年、ヨロイ・ジン。もう一人は50歳男性、ヨロイ・ミネタカ。
「まったく。二人とも、ほどほどにしなさいな」
それをやれやれ、と言った様子で見つめて言う女性、ヨロイ・サヤ。
二人のケンカ――否、じゃれあいは今に始まったことではない。一言だけ言うと、そのまま夕食の準備を続けていた。
ここは地球、日本。
何の変哲もない2LDKの平屋に住むこの一家は、まだ気づいていなかった。
この日常が、突如として崩れ去ってしまう運命にあるという事に――
※
「もう知るか!お前なんぞ出て行っちまえ!」
「あぁそうさせてもらうよ!今までお世話になりました!」
叫び、駆け出して家を飛び出してゆくジン。それを見ながら、ミネタカはフン、と怒気混じりに鼻を鳴らす。
きっかけは、些細なことだった。
その日、ジンは大学をサボり遊んでいた。理由はただ面倒だったから。
普段であればそんなことはしなかった彼だったが、この日だけはなぜか、授業に出る気になれなかったのだ。
それを知った父は怒った。ジンを呼びつけ、散々に怒鳴り散らした。
誰が見ても10対0でジンが悪いので、当然ではあるのだが。
しかしそれに納得がいかなかった彼は、家を飛び出してしまった。逆ギレだ。
~数十分後~
「ったく、あんなに怒ることないだろ……」
公園。愚痴りながら、ブランコをひたすらに漕ぐジン。
正直なところ、自身が悪いことはわかっていいた。しかし素直にそれを認められず、もやもやとした思いばかりが募ってゆく。
「あー!もう!」
そしてひとしきり悩んだ後、叫ぶ。ブランコから飛び降り、天を仰ぐと――
「……なんか買って帰るか。……親父、そういや最近腰痛いって言ってたよな」
ぽつりとつぶやいて、歩き出す。すると――
「そこの貴方」
突然、彼に声がかかった。振り向き、その方向を見やるジン。
「……何すか?」
そこにいたのは、フードを深くかぶった群青のコート姿の男。にやりと歪んだ口元を見せる不審なその姿に、警戒しつつ返すジン。
そんな彼を意に介さず、男はゆっくりと近づくと。
「おめでとう」
そう一言、彼に告げた――
※
「う……ん?」
あれ、俺、何してたんだっけ。確か、公園にいて――ダメだ、頭がぼんやりしてる。
というか、何で寝てたんだ――?そう思いつつ、目を開けると。
「おはよう、ジン」
「……え?」
そこにいたのは、俺の名を呼ぶ見知らぬ女性。それだけじゃない。隣を見ると、いびきをかいて眠るおっちゃんもいた。
そして、さらに驚くべきことに気づいてしまう。
(何だよこの手……!?)
手が――小さい。短くふっくらとした指は、子供の物で、そして紛れもなく――俺の物だった。
手を開け閉めしつつ、さらに見回す。
視界に飛び込んでくるのは、知らない光景ばかり。
大きなベッドに、壁に掛けられた絵画、レンガ造りの暖炉。
漫画や映画でしか見たことのないような光景に、俺はひたすら困惑する。
「どうしたの?ジン」
そんな俺を不思議に思ってか、女性は――いや、この子の母親は額に手を当て、聞く。
間違いない。このシチュエーションは。
(異世界転生ってやつか……!?)
異世界転生。最近流行ってるらしいジャンルの名前だ。けどまさか、実際に体験することになるなんて。
前人未到の現象に少しばかり興奮するも――ふと、心の中に棘が刺さる。
(……親父、おふくろ)
という事は、前の俺は死んだということになる。それはつまり、子が親を残して先立ってしまったという事で。
最後に交わした会話を思い出し、物悲しくなる。
もっと他に、言葉は無かったのだろうか。
親父だって、何も本心でああ言ったわけじゃないだろう。けど俺はムキになって――
自分の幼稚さを思うと、悔しくて仕方なかった。
そんな時――
「……怖い夢でも見たのね。大丈夫よ。パパとママは、いつだって側にいるから」
俺の頬を指で撫で、女性は――いや、『母さん』は優しくそう言った。
気づくと、俺の両目からは涙が溢れ出していた。
そうだ。悔やんで何かが変わるわけじゃない。今はただ、前を向こう。
この人たちにまで、悲しい顔をさせちゃいけない。
俺は笑顔を作り、言った。
「ありがとう、母さん!」
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