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二 心配
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「お父っつぁん、おっ母さん。ちょっと出てきてもいい?」
幸い、客はまだ二人しか来ていない。もう、注文の品は出したし、飯時までに帰れば、父と母と兄で何とかなるだろう、とふくは思った。
遊斎を見かけなくなって三日。またしても、うっかり食事を忘れているのかもしれない。いや、食べ物屋などそこいら中にあるのだから、他に気に入った店ができたのかも?
でももし、うっかりなら?
うっかりなら、三日も食べていないことになる。人は、そんなに食べなくて生きていけるものだろうか。うちの店までたどり着ける?
「どうした?」
「あのね、遊斎さんが来ないの」
年頃の娘が、真剣な顔で男の名前を言うものだから、父の万八は、
「誰だ、そいつあ?」
と、剣呑な声を出した。
「お客さんよ。常連さん」
そんなことは分かっている、と万八は、料理をしていた手を止めて娘を見る。
ふくは、眉間に皺を寄せて、心配そうに呟いた。
「人は、何日食べなくて平気かしら」
「は?」
「いえね、その人、食事をうっかり忘れちゃうのよ」
ははは、と万八の笑い声が厨房に響く。
「馬鹿言っちゃいけねえ。人間ってのは食べなけりゃ死んじまうんだ。うっかり食事を忘れるなんてことがあるもんか」
「それが、あるのよ……」
ふくのあまりに真剣な物言いに、出来上がった煮物を小鉢に入れていた母が口を開いた。
「その遊斎さんは、何日姿を見ていないんだい?」
「三日」
三日。大概である。うっかり忘れるという範囲を超えている。
「まさかねえ」
「いや、まさかだろう」
万八と妻のおたけの眉間にも皺が寄ってきた。
「そんなに心配なら、見てきたらいいじゃねえか」
卵焼きを作っている兄の万太郎が声を上げる。
「出かけるってこたあ、家の場所を知ってるんだろう?」
「あ、うん。与兵衛長屋だって」
「……ちいと離れているな」
「長屋の名前しか知らないのだけれど、誰かに聞いてみるわ」
「ああ。大体の位置を書いてやろう」
厨房から出てきた父が、紙に線を引き、線に沿って目印になりそうな店の名前を書いてくれた。
「もしも、本当に三日食べていないのなら大事だから、食べるものを持ってお行き」
小鉢に乗せた幾つかの煮物を桶に入れながら母が言う。その手は、手早く握り飯も二つ、作り上げていた。
そうして、まさかうっかり食事を忘れて三日ということはあるまい、と思いながら、ふくは遊斎の住む与兵衛長屋へと向かうことにしたのだった。
幸い、客はまだ二人しか来ていない。もう、注文の品は出したし、飯時までに帰れば、父と母と兄で何とかなるだろう、とふくは思った。
遊斎を見かけなくなって三日。またしても、うっかり食事を忘れているのかもしれない。いや、食べ物屋などそこいら中にあるのだから、他に気に入った店ができたのかも?
でももし、うっかりなら?
うっかりなら、三日も食べていないことになる。人は、そんなに食べなくて生きていけるものだろうか。うちの店までたどり着ける?
「どうした?」
「あのね、遊斎さんが来ないの」
年頃の娘が、真剣な顔で男の名前を言うものだから、父の万八は、
「誰だ、そいつあ?」
と、剣呑な声を出した。
「お客さんよ。常連さん」
そんなことは分かっている、と万八は、料理をしていた手を止めて娘を見る。
ふくは、眉間に皺を寄せて、心配そうに呟いた。
「人は、何日食べなくて平気かしら」
「は?」
「いえね、その人、食事をうっかり忘れちゃうのよ」
ははは、と万八の笑い声が厨房に響く。
「馬鹿言っちゃいけねえ。人間ってのは食べなけりゃ死んじまうんだ。うっかり食事を忘れるなんてことがあるもんか」
「それが、あるのよ……」
ふくのあまりに真剣な物言いに、出来上がった煮物を小鉢に入れていた母が口を開いた。
「その遊斎さんは、何日姿を見ていないんだい?」
「三日」
三日。大概である。うっかり忘れるという範囲を超えている。
「まさかねえ」
「いや、まさかだろう」
万八と妻のおたけの眉間にも皺が寄ってきた。
「そんなに心配なら、見てきたらいいじゃねえか」
卵焼きを作っている兄の万太郎が声を上げる。
「出かけるってこたあ、家の場所を知ってるんだろう?」
「あ、うん。与兵衛長屋だって」
「……ちいと離れているな」
「長屋の名前しか知らないのだけれど、誰かに聞いてみるわ」
「ああ。大体の位置を書いてやろう」
厨房から出てきた父が、紙に線を引き、線に沿って目印になりそうな店の名前を書いてくれた。
「もしも、本当に三日食べていないのなら大事だから、食べるものを持ってお行き」
小鉢に乗せた幾つかの煮物を桶に入れながら母が言う。その手は、手早く握り飯も二つ、作り上げていた。
そうして、まさかうっかり食事を忘れて三日ということはあるまい、と思いながら、ふくは遊斎の住む与兵衛長屋へと向かうことにしたのだった。
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