【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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そして勇者は選んだ

48 前向きな考え

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 騎士団長の言葉に、領主は困ったような顔で笑った。

「まあ、そうだな。なるべく穏便にと思い、王族からの急な要請を受け入れたが、まさかただそこに在るだけで贅沢な生活ができ、それを当たり前だと思うような方々だとは、想像もしていなかった。良い勉強になったよ。宰相さまは何と?」 
「金はもう無いそうだ。王族や貴族は、金は天から降ってくるとでも思っているのではないか、と言っていた」

 領主は、マールクの答えに溜め息を吐く。
 真っ赤になって怒りながら、唸り声を上げる王と第二王子をちらりと見やり、領主は言った。

「ライン。騎士団は、すぐに元に戻れるか?冒険者とも協力して、王都からの騎士団を制圧してくれ。先ほどの彼ら冒険者の実力を見れば、容易いことだろう。この屋敷も取り戻して、政務の形を戻す。制圧した騎士や王族、貴族の処遇は、王都からの難民を受け入れた、という体制を作るしか無いだろうな。とりあえず、使える財産などがあれば差し押さえて、食料の購入などに充てよう。身分は全員、難民で良い」
「ぐううううう!」
「うう!ううう!」

 一際大きな唸り声に、全員でそちらを向く。騎士団長は、王と第二王子に聞かせるかのように声を張り上げた。

「姿は冒険者のままですが、すでに隊を編成して、この屋敷の近くに待機させてあります。また、文官の方々も、レイス様と共にこの屋敷へ乗り込むのだと集まっておられたので、その隊の近くで留めております」

 護衛を連れていたとはいえ、一人で屋敷へ乗り込んできた領主は、苦笑いをこぼした。

「もし、こうして屋敷へ、資料の書類を取りに来るだけのことで処刑されるのなら、私だけにしたいと思ったんだよ。皆に心配をかけたね。後は頼む。これからのことを話し合わなくてはいけないから、皆を連れてきてくれるかい?」
「はっ」

 返事をした騎士団長は、俺たちを見て、領主さまを頼む、と言った。

「え?」
「騎士団から一人は残していくが、しばらく領主さまの護衛を頼む」
「あ、ああ。分かった」

 すぐに駆け付けられる距離に、たくさんの人が待っている領主と、縛り上げられるのを目の前で見たのに、未だ誰の助けも来ない王と王子。唸り声も、廊下に聞こえているだろうに。
 報酬が出ないから?領主は、報酬をくれるから?
 いや、違うな。
 俺たちは今、護衛を頼まれたけれど、報酬の話はされていない。けれど、あっさり引き受けた。この人を守ろうと思った。
 そういうことか。
 俺は、神に命じられ、王に報酬を貰って、仕事として勇者をしていたが、そこに感情は無かった。うっすらあるとすれば、嫌だった。だから、生まれ直してから今まで、勇者をするつもりなんてこれっぽっちも無かったけれど。
 この人が助かった、と言ってくれて、褒めてくれるなら、やってみてもいい。



 
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