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そして勇者は選んだ
42 生まれたときから偉い
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騎士たちは、剣を構えたまま動きを止めてしまった。
「俺たち冒険者は、実力と報酬を考えて依頼を受ける。報酬がより多くなるように腕を磨く。報酬が多ければ美味しいものが食べられるし、居心地良いとこで暮らせるからな。より良い装備も身に付けられる。騎士は?騎士はどういう感じで報酬を受け取るんだ?今、報酬が無いんだよな?報酬が無いのに仕事をするのか?」
純粋な疑問だった。人は、毎日の糧を得るために仕事をするんじゃないだろうか?ご飯を食べなければ生きていけない。ご飯を食べるにはお金がいる。魔物や動物を狩って焼いても食えるが、味付けをしなければ美味しいものではない。狩れない者も多い。狩れない者はお金を出して材料を買うし、狩っても上手く味付けをできない者は料理されたものを買う。
何らかの仕事をして、報酬を得なければ、食うに困るのだ。それは死を意味している。報酬のない仕事は、仕事なのか?
「何をしておる。早く捕らえぬか!」
顔を見合わせて止まってしまった騎士たちに、王の声がかかった。
「余を守って死ねるほどの名誉が他にあろうか!誇りを持て!」
途端に剣を握り直す騎士たちに、俺の疑問は膨らむばかりだ。
「他人のために死ぬの?」
「王のために死ぬのは当然だ」
「何故?」
「誰よりも偉いからだ」
「何故偉い?」
「生まれたときから決まっておることだ」
生まれたときから。
確かに俺は、生まれたときから勇者と定められていた。
なら、俺も偉いのか?セナも?
「生まれたときから偉い人は、何をするから偉いんだ?」
俺は、俺とセナは、魔王を倒して世界を救うから偉い。救っていない今は偉くない。
だとしたら、王は何故偉い?
「何もしなくとも、王だから偉いのだ。お前は一体何を……」
「何もしなくとも、生まれたときから偉いのなら、俺とセナも偉いのか?」
心で思っていたことが、口に出てしまった。
「何を言っているのだ?この子どもは」
「ユーゴー?」
セナの声。
誰も動かない。俺たちは素手だが、四人で背中合わせに警戒していて、騎士たちの剣は俺たちに向いている。王は、裂けた机の向こう側で椅子にかけたまま。宰相は腰を抜かしたままだ。
「生まれたときから役目が決まっている者が偉いのなら、神託の勇者と聖者は世界で一番偉いんじゃないか?王は、何もしなくても王だから偉いんだろう?じゃあ、魔王を倒さなくても勇者と聖者ってだけで偉い?」
誰も口を開かない。
「お前……は何を……」
「お前が?お前が勇者なのか?!」
王が言葉を詰まらせる横で、宰相が立ち上がって叫ぶ。
「何故?何故、神託は?鑑定は?」
「俺はまだ鑑定の儀は受けていないけど?」
「俺たち冒険者は、実力と報酬を考えて依頼を受ける。報酬がより多くなるように腕を磨く。報酬が多ければ美味しいものが食べられるし、居心地良いとこで暮らせるからな。より良い装備も身に付けられる。騎士は?騎士はどういう感じで報酬を受け取るんだ?今、報酬が無いんだよな?報酬が無いのに仕事をするのか?」
純粋な疑問だった。人は、毎日の糧を得るために仕事をするんじゃないだろうか?ご飯を食べなければ生きていけない。ご飯を食べるにはお金がいる。魔物や動物を狩って焼いても食えるが、味付けをしなければ美味しいものではない。狩れない者も多い。狩れない者はお金を出して材料を買うし、狩っても上手く味付けをできない者は料理されたものを買う。
何らかの仕事をして、報酬を得なければ、食うに困るのだ。それは死を意味している。報酬のない仕事は、仕事なのか?
「何をしておる。早く捕らえぬか!」
顔を見合わせて止まってしまった騎士たちに、王の声がかかった。
「余を守って死ねるほどの名誉が他にあろうか!誇りを持て!」
途端に剣を握り直す騎士たちに、俺の疑問は膨らむばかりだ。
「他人のために死ぬの?」
「王のために死ぬのは当然だ」
「何故?」
「誰よりも偉いからだ」
「何故偉い?」
「生まれたときから決まっておることだ」
生まれたときから。
確かに俺は、生まれたときから勇者と定められていた。
なら、俺も偉いのか?セナも?
「生まれたときから偉い人は、何をするから偉いんだ?」
俺は、俺とセナは、魔王を倒して世界を救うから偉い。救っていない今は偉くない。
だとしたら、王は何故偉い?
「何もしなくとも、王だから偉いのだ。お前は一体何を……」
「何もしなくとも、生まれたときから偉いのなら、俺とセナも偉いのか?」
心で思っていたことが、口に出てしまった。
「何を言っているのだ?この子どもは」
「ユーゴー?」
セナの声。
誰も動かない。俺たちは素手だが、四人で背中合わせに警戒していて、騎士たちの剣は俺たちに向いている。王は、裂けた机の向こう側で椅子にかけたまま。宰相は腰を抜かしたままだ。
「生まれたときから役目が決まっている者が偉いのなら、神託の勇者と聖者は世界で一番偉いんじゃないか?王は、何もしなくても王だから偉いんだろう?じゃあ、魔王を倒さなくても勇者と聖者ってだけで偉い?」
誰も口を開かない。
「お前……は何を……」
「お前が?お前が勇者なのか?!」
王が言葉を詰まらせる横で、宰相が立ち上がって叫ぶ。
「何故?何故、神託は?鑑定は?」
「俺はまだ鑑定の儀は受けていないけど?」
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