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そして勇者は選んだ
39 それは神の言葉
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とんでもないことを言い出した宰相に、すぐにでも天罰を落としたかったが、とにかく堪えろと言い含められてからここへ来たので、まずは我慢した。
こういう心の動きも新鮮な気はする。
勇者のユーゴーは、余計な感情を持たないように作られていたから。好き放題生きている今でさえ、セナにしか本当の意味で心を動かすことはない。
「王都を滅ぼした聖者が、今さら何をしにきた?」
「神様の言葉を王に伝えに」
「……なん、だと?」
「お取り次ぎを」
宰相は、呆然としているように見えた。
「神様の言葉……?」
「はい」
「そんな、ものが……」
「ええ。俺は神託の聖者ですから」
「……教会の神官たちは何も言っていない」
ふはっ、とセナは笑った。
「神官は、教会で働いているだけの人でしょ?何で神様の言葉が聞こえるのさ」
確かに、その通りだな。俺も、くくっと笑ってしまった。マールクとガウナーも笑いを堪える顔をしている。
「は?え?いや、神官は修行で……。光の魔力が……」
「へえ。聞こえるんだ?例えば今までどんなことを聞いたの?」
「…………」
宰相の言葉は途切れがちで、なかなか話は進まない。ああ、いらいらするな……。
「勇者の出現を」
ふーん、教会の神官が聞いたのか。
「それは、本当?未だに見つからないのに?」
「お前は!お前が!勇者の助けとなる聖者なのだろう?」
「そう言われた。そう神様に言われたのは本当。色んな人が目撃してるし、国中に聞こえる声で言ったもんね、神様」
はあ、とセナが嫌そうにため息を吐く。
「だからと言って力の使い方を教えてくれる訳でもないし、旅をするためのお金をくれる訳でもない。不親切だよね、あの人。あ、人じゃないか」
「旅費を渡したのも、住む場所を与えたのも陛下だ。お前は、陛下のために王都を守らなければならなかった」
「俺が?どうやって?」
「魔物を殲滅したのだろう?」
「俺じゃない。冒険者が力を合わせて頑張ってくれたのさ。だいたい、光魔法使いが、どうやって魔物を殲滅するんだ」
光の魔力が攻撃に向いていないことは誰もが知っている。俺とマールク、ガウナーはまた、笑い声を上げそうになって口を押さえる。
「王都から冒険者を追い出し、魔物を繁殖させた。騎士団に、有力な冒険者を連れていったのなら、騎士団が対処しなくてはならなかった。騎士団は何をしていたの?」
「王を守っていたに決まっておる」
「町を、民を守る役割りは誰が?」
「あ……いや……他にも騎士団が……」
「王は、守らなければならなかった。自らの街を」
セナは重々しく言った。
「逃げた王こそが、王都を滅ぼした」
こういう心の動きも新鮮な気はする。
勇者のユーゴーは、余計な感情を持たないように作られていたから。好き放題生きている今でさえ、セナにしか本当の意味で心を動かすことはない。
「王都を滅ぼした聖者が、今さら何をしにきた?」
「神様の言葉を王に伝えに」
「……なん、だと?」
「お取り次ぎを」
宰相は、呆然としているように見えた。
「神様の言葉……?」
「はい」
「そんな、ものが……」
「ええ。俺は神託の聖者ですから」
「……教会の神官たちは何も言っていない」
ふはっ、とセナは笑った。
「神官は、教会で働いているだけの人でしょ?何で神様の言葉が聞こえるのさ」
確かに、その通りだな。俺も、くくっと笑ってしまった。マールクとガウナーも笑いを堪える顔をしている。
「は?え?いや、神官は修行で……。光の魔力が……」
「へえ。聞こえるんだ?例えば今までどんなことを聞いたの?」
「…………」
宰相の言葉は途切れがちで、なかなか話は進まない。ああ、いらいらするな……。
「勇者の出現を」
ふーん、教会の神官が聞いたのか。
「それは、本当?未だに見つからないのに?」
「お前は!お前が!勇者の助けとなる聖者なのだろう?」
「そう言われた。そう神様に言われたのは本当。色んな人が目撃してるし、国中に聞こえる声で言ったもんね、神様」
はあ、とセナが嫌そうにため息を吐く。
「だからと言って力の使い方を教えてくれる訳でもないし、旅をするためのお金をくれる訳でもない。不親切だよね、あの人。あ、人じゃないか」
「旅費を渡したのも、住む場所を与えたのも陛下だ。お前は、陛下のために王都を守らなければならなかった」
「俺が?どうやって?」
「魔物を殲滅したのだろう?」
「俺じゃない。冒険者が力を合わせて頑張ってくれたのさ。だいたい、光魔法使いが、どうやって魔物を殲滅するんだ」
光の魔力が攻撃に向いていないことは誰もが知っている。俺とマールク、ガウナーはまた、笑い声を上げそうになって口を押さえる。
「王都から冒険者を追い出し、魔物を繁殖させた。騎士団に、有力な冒険者を連れていったのなら、騎士団が対処しなくてはならなかった。騎士団は何をしていたの?」
「王を守っていたに決まっておる」
「町を、民を守る役割りは誰が?」
「あ……いや……他にも騎士団が……」
「王は、守らなければならなかった。自らの街を」
セナは重々しく言った。
「逃げた王こそが、王都を滅ぼした」
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