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そして勇者は選んだ

19 責任の所在

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「俺が……。俺が逃げたから……。」

 まるで俺の心を代弁するような呟きは、ギリオンのものだった。

「冒険者ギルドから冒険者を逃がしたから、王都の民は……。」
「ギリオンさん、それは違う!」

 ギルドマスターが、良く通る声を上げながらギリオンに近付く。

「守らず逃げてきたのは、あなたじゃない。王都の守護を一手に引き受けた筈の騎士団だろう?」
「そして、その騎士団に命令を出している王家や貴族だな。俺たちは命令に逆らえない。」

 ギルドマスターと騎士団長の言葉に、騎士団の者が一斉に頷いた。

「ギリオンさんが逃がしてくれなかったら、俺たちは生きてここにいなかったんだ。感謝している。ギリオンさんが気にやむ必要なんて全くない!」

 冒険者の一人の言葉に、周囲が頷いている。うつ向くギリオンの肩を、ギルドマスターがぐいっと抱いた。

「うちは、決して王家に屈しない。言いなりになってたまるか!」

 おおお、と賛同の声が上がる。盛り上がっていく周囲に付いていけず、俺は肩を落として立ち尽くしている。
 ギリオンに、非は無いだろう。
 彼は、彼の守るべきものを最後まで守った。冒険者たちが、自分の道を歩めるようにと手を尽くし、最後まで冒険者ギルドを残そうと頑張ったのだから。
 でも、俺は?
 神様は言った。
 勇者よ、魔物から人々を守れ。
 魔王を倒して世界に平和を取り戻せ。
 耳を塞ぎ、目を瞑り、自らの幸せだけを追い求めた俺の所為で、王都の民が大勢死んだのだとしたら?
 だって、前回はこんなこと起こらなかった。
 前なら、セナが魔法学校にいた頃で、俺はまだ、始まりの村にいて修行をしていた頃。少しでも神様の理想の勇者に近づこうと努力を重ねて、鑑定の儀を待っていた。そこで、勇者の神託を受けてから、王都の魔法学校へ入学するのだ。
 なら、俺が王都にいないのは同じだ。セナが、神託の聖者が王都にいることが必要だったのだろうか。魔物に街を潰されないためには。
 分からない。
 分からないが、セナを王都から出したのも俺だ。何もかもが、俺の行動の結果だとしたら?

「ユーゴー?」

 セナの声に、我に返った。

「顔色が悪い。どうかした?」
「セナ。俺の所為で大勢の人が死んだ。」

 呟くように漏らした声は、賑やかになった部屋では、セナにしか届かなかった。

「なんで?」
「前はこんなこと起こらなかった。俺が、前と違う行動をしたから、こんな、こんなことに……。」
「前は、魔王を倒せなかったんでしょ?」
「相討ち……。」
「うん。倒したけど、失敗ってことにされてもう一回やらされてるんだっけ?」
「そう……。」
「じゃあさ、同じことしてても失敗するだけなんだから、違うことしてみないと倒せないだろうし、その道筋が失敗だったとしても、ユーゴーの所為って訳じゃないよ。」
「セナ……。」
「ギリオンさんの所為でもない。ユーゴーの所為でもない。それだけは、間違いない。」
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