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世界の平和を祈った聖者の話
34 何を守るのか
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ギルドからそんなに離れていない、小さな一軒家。王都のギルドマスターが住むとは思えない小さな家だった。
どうぞ、と言われて中に入ると、ほとんど物がなく片付いている。人の暮らしている感じはあるけれど、すぐにでも出ていけそうな……。
「ずいぶん、小さな家だな。」
全員で座るのも狭いような居間でベッドに三人腰かけて、食卓の椅子に二人が座る。
「一人だから、十分だ。」
ムスカの言葉に答えたマスターは、飲み物もなくてすまんな、と付け加えた。
「俺も、隣町へ移る。何ならすぐに五人で歩いて行こう。王都で俺のできることは何も無くなった。」
疲れはてた声だった。治癒が効くなら治癒魔法をかけてあげたいけれど、精神的なものならどうしようもない。
「頑張ったんだがなあ。」
ふ、と息を吐いて呟く。
「一人は寂しいもんだ。なあ、ムスカ。」
「冒険者を引退しようと考えるまでは一度もそんなことは思わなかった。この間の大怪我の後だな。」
ムスカは急に立ち上がって俺の側に来ると、頭をがしがしと撫でた。
「こいつに、ちぎれかけた腕を元に戻してもらった後だ。」
「寂しくなったか?」
「いや。気になってな。一人で治癒院をしてる可愛い治癒師が。」
「はははっ。惚れたか。」
「そうだったのかもな。女の姿してたし。もう一度会いたくなった。」
「へえ?」
「で、会ったら一緒に居てえなと思った。口説いたけど振られてな。まあ、色々あって無理やり付いてきた。」
二人で楽しそうに話さないで欲しい。頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど。
「俺たち、すぐには出られないんだ。ユーゴーを迎えに行かないと。俺たちも必ず隣町に帰るから、二人で隣町に行ってて。」
「……そうしよう。」
「ギリオン?」
「ムスカ、俺たちは引退だ何だと言ってもAランクの実力を隠しきれない。王都に居ては駄目だ。」
「どうなってるんだ、一体……。」
「王家がおかしい。王女が一人、成人前に亡くなってから光の魔力持ちを狂ったように集めはじめ、第二王子の鑑定の儀が終わった頃に、冒険者ギルドのAランクを全て騎士団に差し出せと言い始めたんだ。その他にも、鑑定の儀のスキル持ちを青田買いだ。税を上げて騎士団を増強してる。」
王女……。
治癒魔法を使って命を落としたマリエッタ?
「王都を魔物から守ると言いながら、自分達の身を守りたいんだ。たぶん、勇者に違いないと言われていた第二王子が勇者では無かったんだろう。勇者が見つからず、神託はない。たぶん、恐怖に侵され始めている。」
どうぞ、と言われて中に入ると、ほとんど物がなく片付いている。人の暮らしている感じはあるけれど、すぐにでも出ていけそうな……。
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全員で座るのも狭いような居間でベッドに三人腰かけて、食卓の椅子に二人が座る。
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ムスカの言葉に答えたマスターは、飲み物もなくてすまんな、と付け加えた。
「俺も、隣町へ移る。何ならすぐに五人で歩いて行こう。王都で俺のできることは何も無くなった。」
疲れはてた声だった。治癒が効くなら治癒魔法をかけてあげたいけれど、精神的なものならどうしようもない。
「頑張ったんだがなあ。」
ふ、と息を吐いて呟く。
「一人は寂しいもんだ。なあ、ムスカ。」
「冒険者を引退しようと考えるまでは一度もそんなことは思わなかった。この間の大怪我の後だな。」
ムスカは急に立ち上がって俺の側に来ると、頭をがしがしと撫でた。
「こいつに、ちぎれかけた腕を元に戻してもらった後だ。」
「寂しくなったか?」
「いや。気になってな。一人で治癒院をしてる可愛い治癒師が。」
「はははっ。惚れたか。」
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「へえ?」
「で、会ったら一緒に居てえなと思った。口説いたけど振られてな。まあ、色々あって無理やり付いてきた。」
二人で楽しそうに話さないで欲しい。頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど。
「俺たち、すぐには出られないんだ。ユーゴーを迎えに行かないと。俺たちも必ず隣町に帰るから、二人で隣町に行ってて。」
「……そうしよう。」
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「どうなってるんだ、一体……。」
「王家がおかしい。王女が一人、成人前に亡くなってから光の魔力持ちを狂ったように集めはじめ、第二王子の鑑定の儀が終わった頃に、冒険者ギルドのAランクを全て騎士団に差し出せと言い始めたんだ。その他にも、鑑定の儀のスキル持ちを青田買いだ。税を上げて騎士団を増強してる。」
王女……。
治癒魔法を使って命を落としたマリエッタ?
「王都を魔物から守ると言いながら、自分達の身を守りたいんだ。たぶん、勇者に違いないと言われていた第二王子が勇者では無かったんだろう。勇者が見つからず、神託はない。たぶん、恐怖に侵され始めている。」
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