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世界の平和を祈った聖者の話
22 聖女の意思
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二人は答えを出せなかった。
静かな室内で時間だけが過ぎていく。俺は、他にも出入り口が無いかと見て回ったが、見当たらなかった。
「聖女たちに治癒魔法の使い方を説明した後で、戦闘準備をして出るしかないか。ご飯が無いし。」
独り言のように呟くと、考え込んでいたマールクが、はっとこちらへ目線を寄越す。
「セナ。」
「うん?」
「もし。もしも、神の選んだ勇者が魔王討伐に行くと言ったら、その、セナは……。」
「言わないよ。」
「勇者は、そのために神が選ぶんだろう?」
「さあ?でも、勇者は行くと言わない。」
「勇者はもう、選ばれているのか?」
「鑑定の儀なら、受けてない。」
「……受けたら、勇者の神託が下るのか?」
「そうだね。」
「じゃあ……。」
また、マールクは口をつぐむ。勇者の名前を言おうとして躊躇った?
ユーゴーは、鑑定の儀を王都で受けるからそこで会おう、と言って出ていった。なら、勇者は神託を受けて、魔王討伐に動くのじゃないかって?
「俺が、襲われている人を助けてほしいと言ったから。だから、こんなことになった。でも、もう間違えない。俺は、傲慢で身の程をわきまえない子どもだったんだ。俺は、勇者を助ける聖者だ。神様がそう言ったんだ。こんどこそ、勇者の願いを叶えて、勇者の助けとなる。」
「その願いってのは、魔王討伐じゃないんだな……。」
俺は、力強く頷いた。
ガウナーは、ただ黙って話を聞いていた。
「あの……。」
ベッドからか細い声がして、振り返る。聖女が一人、目を覚ましたようだ。
「調子はどう?体に辛い所はない?」
驚かせないように、少し離れて姿を見せる。
ベッドに上半身を起こした痩せた少女は、緩く首を振った。
「久しぶりに、気分がいいです。体が温かくて……。」
「魔力が切れると冷えるから。」
俺が魔力を注いだ聖水をコップに入れて差し出す。聖女はゆっくりと飲んで、ほおっと息を吐いた。
「何だか甘くて美味しい。」
「ええっ?そうなの?魔力を注いだ水なんだけど。俺はセナ。……神託の聖者だよ。」
「ミイナ、です。あの、こんなことをしていていいのでしょうか?治療は……。」
「待ってもらってる。ミイナさんの方が余程、体が辛いでしょう?」
「仕事……ですから。」
ミイナは、淡々としているように見えた。
「でも、もう少し休んで。治癒魔法は、上手に使えば命を削らなくても……。」
「鑑定の儀で、聖女だと言われた日に、私は神に命を預けたのです。」
俺が最後まで話す前に、ミイナは言った。
「もう、ここにいる私は神様のもの。自分のものではありません。毎日治療をして、神様のお決めになった日に天に還るだけです。」
「…………。」
人並外れた魔力があるからこそ、聖女と呼ばれる。何度も治癒魔法を使っているのだから、本当は気付いていたのか?使い方を工夫すれば、命を削られなくて済むことを。
でも、知っていてなお、命を削って治療しているのだとしたら。
それが彼女の意思。ミイナの決めたこと。
それなら俺たちには、何もできることはなかった。
静かな室内で時間だけが過ぎていく。俺は、他にも出入り口が無いかと見て回ったが、見当たらなかった。
「聖女たちに治癒魔法の使い方を説明した後で、戦闘準備をして出るしかないか。ご飯が無いし。」
独り言のように呟くと、考え込んでいたマールクが、はっとこちらへ目線を寄越す。
「セナ。」
「うん?」
「もし。もしも、神の選んだ勇者が魔王討伐に行くと言ったら、その、セナは……。」
「言わないよ。」
「勇者は、そのために神が選ぶんだろう?」
「さあ?でも、勇者は行くと言わない。」
「勇者はもう、選ばれているのか?」
「鑑定の儀なら、受けてない。」
「……受けたら、勇者の神託が下るのか?」
「そうだね。」
「じゃあ……。」
また、マールクは口をつぐむ。勇者の名前を言おうとして躊躇った?
ユーゴーは、鑑定の儀を王都で受けるからそこで会おう、と言って出ていった。なら、勇者は神託を受けて、魔王討伐に動くのじゃないかって?
「俺が、襲われている人を助けてほしいと言ったから。だから、こんなことになった。でも、もう間違えない。俺は、傲慢で身の程をわきまえない子どもだったんだ。俺は、勇者を助ける聖者だ。神様がそう言ったんだ。こんどこそ、勇者の願いを叶えて、勇者の助けとなる。」
「その願いってのは、魔王討伐じゃないんだな……。」
俺は、力強く頷いた。
ガウナーは、ただ黙って話を聞いていた。
「あの……。」
ベッドからか細い声がして、振り返る。聖女が一人、目を覚ましたようだ。
「調子はどう?体に辛い所はない?」
驚かせないように、少し離れて姿を見せる。
ベッドに上半身を起こした痩せた少女は、緩く首を振った。
「久しぶりに、気分がいいです。体が温かくて……。」
「魔力が切れると冷えるから。」
俺が魔力を注いだ聖水をコップに入れて差し出す。聖女はゆっくりと飲んで、ほおっと息を吐いた。
「何だか甘くて美味しい。」
「ええっ?そうなの?魔力を注いだ水なんだけど。俺はセナ。……神託の聖者だよ。」
「ミイナ、です。あの、こんなことをしていていいのでしょうか?治療は……。」
「待ってもらってる。ミイナさんの方が余程、体が辛いでしょう?」
「仕事……ですから。」
ミイナは、淡々としているように見えた。
「でも、もう少し休んで。治癒魔法は、上手に使えば命を削らなくても……。」
「鑑定の儀で、聖女だと言われた日に、私は神に命を預けたのです。」
俺が最後まで話す前に、ミイナは言った。
「もう、ここにいる私は神様のもの。自分のものではありません。毎日治療をして、神様のお決めになった日に天に還るだけです。」
「…………。」
人並外れた魔力があるからこそ、聖女と呼ばれる。何度も治癒魔法を使っているのだから、本当は気付いていたのか?使い方を工夫すれば、命を削られなくて済むことを。
でも、知っていてなお、命を削って治療しているのだとしたら。
それが彼女の意思。ミイナの決めたこと。
それなら俺たちには、何もできることはなかった。
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