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世界の平和を祈った聖者の話
18 答えは出ている
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『マルクトの命を繋いでください。』
母親の言葉に乗って、光の魔力が子どもを包む。
俺は目を逸らしたかった。
この母親の魔力は多くない。子どもの病気がどんなものか分からない。命を繋ぐだけで、どれほどの治癒の魔力が必要なのか、検討もつかない。検討がつかないことが怖い。
光はいつまでも母親から少しずつ出て、マルクトと呼ばれた子どもを包んだ。母親が、倒れてしまうまで……。
「エラ!」
父親が叫ぶ。
子どもの目は覚めない。
母親は。
「エラ……。嘘だ、エラ。目を開けてくれ。」
生命力を全て魔力に代えても、子どもの目は覚めなかった。どのくらい回復したのかも、分からない。きっと、子どもの命は繋ぎ止めたのだろう……今は。
「うわあああああ。」
父親の悲痛な声。
先ほど、光の魔力を示した者たちが、がたがたと震えている。選択しなければならない。治してほしいと連れてきた者を、自分が治せるようになった。けれど、それには代償が必要だった。
教会にいる者は皆、身なりが良い。
ある程度のお金がないと、治療院の支払いができないからだ。病気や怪我をした身内を、治療院に連れてこられるだけのお金がある者たちだということだ。
代償をお金で払ってきた者たち。教会は、聖女という名を付けた光の魔力量の多い少女らを使い、彼らを癒す。聖女の犠牲に目をつぶれば、上手く回っている。
ほんの少し前の俺は、救える命は救いたかった。自己満足でもいい。目の前で消える命を黙って見ているなんて嫌だった。
でも。
もう、すべてを救うなんて無理だと知ったから。神様にもできない。できないんだろう。そうでなければ、治癒魔法という素晴らしい魔法に、こんな制約が付いている訳がない。きっと、一晩寝たら回復する魔力だけを代償に、怪我や病気を治すことができてはいけないのだ。そこには何か理があるに違いない。
それなら、俺は選ばなければならない。
誰よりも多い光の魔力で勇者を助けて魔王を倒すことがやるべきことなのなら、こんなところで見も知らぬ誰かのためにうっかり死ぬわけにいかない。失われる命に同情はしても、深く思い悩んだりはしない。
もう、決めた。
俺は、ユーゴーが楽しく在れるように生きるんだ。俺と共にいることが楽しいと言ってくれた言葉を信じて、隣に立てるくらい強くなって、共にいよう。
そのことさえ分かっていれば、いつだって答えは簡単で。
「ああ、エラ。エラが息をしていない。お願いです。誰か、誰かエラを、助けてください。」
「消えた命は戻らないよ。」
「何故。彼女はマルクトを、息子を助けようとして。助けようとしただけなのに……。」
「彼女は選んだんだろ。」
「息子は目覚めていない。」
「足りなかったんだな。」
「では、ではエラは何のために。」
「自分の命より大切なもののために、その命を尽くせたのなら本望では?」
「そんな、俺は、結局、何で。」
命をかけても、命が戻るとは限らない。
世の中はそんなもの。
その理不尽を聖女にすべて押し付けていたんだと、見も知らぬ他人に命を搾取されていた人たちがいるんだと人々が気付いてくれたら、いいのに。
母親の言葉に乗って、光の魔力が子どもを包む。
俺は目を逸らしたかった。
この母親の魔力は多くない。子どもの病気がどんなものか分からない。命を繋ぐだけで、どれほどの治癒の魔力が必要なのか、検討もつかない。検討がつかないことが怖い。
光はいつまでも母親から少しずつ出て、マルクトと呼ばれた子どもを包んだ。母親が、倒れてしまうまで……。
「エラ!」
父親が叫ぶ。
子どもの目は覚めない。
母親は。
「エラ……。嘘だ、エラ。目を開けてくれ。」
生命力を全て魔力に代えても、子どもの目は覚めなかった。どのくらい回復したのかも、分からない。きっと、子どもの命は繋ぎ止めたのだろう……今は。
「うわあああああ。」
父親の悲痛な声。
先ほど、光の魔力を示した者たちが、がたがたと震えている。選択しなければならない。治してほしいと連れてきた者を、自分が治せるようになった。けれど、それには代償が必要だった。
教会にいる者は皆、身なりが良い。
ある程度のお金がないと、治療院の支払いができないからだ。病気や怪我をした身内を、治療院に連れてこられるだけのお金がある者たちだということだ。
代償をお金で払ってきた者たち。教会は、聖女という名を付けた光の魔力量の多い少女らを使い、彼らを癒す。聖女の犠牲に目をつぶれば、上手く回っている。
ほんの少し前の俺は、救える命は救いたかった。自己満足でもいい。目の前で消える命を黙って見ているなんて嫌だった。
でも。
もう、すべてを救うなんて無理だと知ったから。神様にもできない。できないんだろう。そうでなければ、治癒魔法という素晴らしい魔法に、こんな制約が付いている訳がない。きっと、一晩寝たら回復する魔力だけを代償に、怪我や病気を治すことができてはいけないのだ。そこには何か理があるに違いない。
それなら、俺は選ばなければならない。
誰よりも多い光の魔力で勇者を助けて魔王を倒すことがやるべきことなのなら、こんなところで見も知らぬ誰かのためにうっかり死ぬわけにいかない。失われる命に同情はしても、深く思い悩んだりはしない。
もう、決めた。
俺は、ユーゴーが楽しく在れるように生きるんだ。俺と共にいることが楽しいと言ってくれた言葉を信じて、隣に立てるくらい強くなって、共にいよう。
そのことさえ分かっていれば、いつだって答えは簡単で。
「ああ、エラ。エラが息をしていない。お願いです。誰か、誰かエラを、助けてください。」
「消えた命は戻らないよ。」
「何故。彼女はマルクトを、息子を助けようとして。助けようとしただけなのに……。」
「彼女は選んだんだろ。」
「息子は目覚めていない。」
「足りなかったんだな。」
「では、ではエラは何のために。」
「自分の命より大切なもののために、その命を尽くせたのなら本望では?」
「そんな、俺は、結局、何で。」
命をかけても、命が戻るとは限らない。
世の中はそんなもの。
その理不尽を聖女にすべて押し付けていたんだと、見も知らぬ他人に命を搾取されていた人たちがいるんだと人々が気付いてくれたら、いいのに。
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