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世界の平和を祈った聖者の話
17 覚悟
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しん、と静まり返った教会の中。
俺は、光の魔力を注ぎ終わった聖女を抱えて立ち上がる。鍛えておいて良かった。抱いて、治療院の方へ歩く。ベッドがあるかもしれない。
「聖女は他にも?」
はっと気付いて聞けば、ガウナーが頷いた。
「三人。」
「分かった。」
ガウナーの浮かない顔を見れば、聖女たちはだいぶ酷使されていることだろう。
せめて、光の魔力を注いで温めてあげたい。
「ま、待って。」
涙を浮かべた女が、俺の腕を掴む。
「お願いです……。うちの子どもを、どうかお助けください。」
「神官さまに頼め。慈悲の心で、きっと治してくれるさ。」
「お願いします……。」
俺は、息を吸うたびに冷たい何かが体の中に落ちるような錯覚に襲われた。
この女は、何を言っているんだろう?
俺の言葉は届かなかったのか?
近くからも手が伸びてくる。俺の腕や肩や足、色んな所に手が絡みついて懇願の声が増えていく。
「どうか、お助けを。」
「このままでは、うちの子は。」
「どうか。」
「どうか。」
苛々として、触れているすべての手に光の魔力をひと息に流した。
「ぎゃっ。」
と、たくさんの悲鳴が上がり手が離れていく。幾人かが、ぽう、と光るのが見えた。
「今、光った奴、治癒魔法が使える。自分でやればいい。祈るだけだ。」
腹立ち紛れに言い捨てて立ち去ろうとしたが、それでは俺も神官と何も変わらない。そんなのは嫌だ。ため息を一つ。落ち着いて。
「祈るときに、治したい者の名前をしっかりと特定して、治したい箇所を具体的に言うことだ。この部分のここをこのような状態にしたい、としっかり限定することで消費魔力は抑えられる。くれぐれも、完全に治してくれとか、一番良い状態にしてくれとか言ってはいけない。それは、ほとんど自分の命と引き換えることになるから。」
ざわざわとしているが、聞きたい奴だけ聞いてくれればいい。
「え、あ……。」
「そんな。」
俺の体に触れていた何人かが、床にへたり込んでいる。三人ほど光っていた。
「あんた。あんただ。」
俺の腕を最初に掴んだ女が、近くにいた男に掴まれる。
「あんたは光っていた。頼む。」
「ひっ。」
俺は溜め息を吐く。
どうして?
どうして皆、話を聞いてくれないんだ。
近寄ってきたマールクが聖女を受け取ってくれた。腕が痺れてきていたので助かる。俺は、まだまだ鍛え方が足りないなあ。ユーゴーが傷付いた時に抱いて運ぶために頑張らないと!
「まずは、自分の子どもを癒せ。ほら。」
あいた手で男の手を外し、女を促す。
見知らぬ男の手から逃れた女は、震えながら、近くにいた子どもに駆け寄った。父親らしき男の腕の中で、ぐったりとして意識が無い。見える範囲に傷は無いので、病気だろうか。
「エラ。いいのか?」
「マシュウ、だって、だってこのままじゃ……。」
「分かった……。」
悲壮なやり取り。どちらの命を取るかという話。決意を秘めて二人は頷き合う。
俺は、ただそれを見ていた。
治癒魔法にはそれだけの覚悟がいるのだと、少しでも多くの者に伝わればいいのに。
俺は、光の魔力を注ぎ終わった聖女を抱えて立ち上がる。鍛えておいて良かった。抱いて、治療院の方へ歩く。ベッドがあるかもしれない。
「聖女は他にも?」
はっと気付いて聞けば、ガウナーが頷いた。
「三人。」
「分かった。」
ガウナーの浮かない顔を見れば、聖女たちはだいぶ酷使されていることだろう。
せめて、光の魔力を注いで温めてあげたい。
「ま、待って。」
涙を浮かべた女が、俺の腕を掴む。
「お願いです……。うちの子どもを、どうかお助けください。」
「神官さまに頼め。慈悲の心で、きっと治してくれるさ。」
「お願いします……。」
俺は、息を吸うたびに冷たい何かが体の中に落ちるような錯覚に襲われた。
この女は、何を言っているんだろう?
俺の言葉は届かなかったのか?
近くからも手が伸びてくる。俺の腕や肩や足、色んな所に手が絡みついて懇願の声が増えていく。
「どうか、お助けを。」
「このままでは、うちの子は。」
「どうか。」
「どうか。」
苛々として、触れているすべての手に光の魔力をひと息に流した。
「ぎゃっ。」
と、たくさんの悲鳴が上がり手が離れていく。幾人かが、ぽう、と光るのが見えた。
「今、光った奴、治癒魔法が使える。自分でやればいい。祈るだけだ。」
腹立ち紛れに言い捨てて立ち去ろうとしたが、それでは俺も神官と何も変わらない。そんなのは嫌だ。ため息を一つ。落ち着いて。
「祈るときに、治したい者の名前をしっかりと特定して、治したい箇所を具体的に言うことだ。この部分のここをこのような状態にしたい、としっかり限定することで消費魔力は抑えられる。くれぐれも、完全に治してくれとか、一番良い状態にしてくれとか言ってはいけない。それは、ほとんど自分の命と引き換えることになるから。」
ざわざわとしているが、聞きたい奴だけ聞いてくれればいい。
「え、あ……。」
「そんな。」
俺の体に触れていた何人かが、床にへたり込んでいる。三人ほど光っていた。
「あんた。あんただ。」
俺の腕を最初に掴んだ女が、近くにいた男に掴まれる。
「あんたは光っていた。頼む。」
「ひっ。」
俺は溜め息を吐く。
どうして?
どうして皆、話を聞いてくれないんだ。
近寄ってきたマールクが聖女を受け取ってくれた。腕が痺れてきていたので助かる。俺は、まだまだ鍛え方が足りないなあ。ユーゴーが傷付いた時に抱いて運ぶために頑張らないと!
「まずは、自分の子どもを癒せ。ほら。」
あいた手で男の手を外し、女を促す。
見知らぬ男の手から逃れた女は、震えながら、近くにいた子どもに駆け寄った。父親らしき男の腕の中で、ぐったりとして意識が無い。見える範囲に傷は無いので、病気だろうか。
「エラ。いいのか?」
「マシュウ、だって、だってこのままじゃ……。」
「分かった……。」
悲壮なやり取り。どちらの命を取るかという話。決意を秘めて二人は頷き合う。
俺は、ただそれを見ていた。
治癒魔法にはそれだけの覚悟がいるのだと、少しでも多くの者に伝わればいいのに。
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