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世界の平和を祈った聖者の話
4 諦めきれない
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冒険者ギルドの横の食堂で食事を済ませて、もう一度依頼書の掲示板を確認しようとギルドへ戻ると、買い取りカウンターと終了確認の書類審査のエリアが混み始めていた。並んでいる人々の中に、傷を負った者が混じっている。適当に血を止めただけで苦しそうにしながらも、治療より買い取りや終了確認を優先しているようだ。
壁際に寝かせられた若い男が、荒い息を吐いているのも見える。腹部の傷から流れた血は布で止まらず、床を汚し始めていた。あの出血では、何ほども待たずに天へと帰ってしまうだろう。
左腕の腕輪を見る。今なら、治癒をしても生命力を削ったりしない。自分に万が一もなく、治してあげることができる。あのお腹の傷だけでも、と歩き出しら、マールクの手が俺の腕を掴んだ。
「セナ。どうした?」
「あの人は、何で早く治療院に連れていかないの?」
ああ、とマールクがそちらを見る。
「金が無いんだろうよ。」
「金……。」
ユーゴーが言っていた。
金が降ってくるならやるよ、と。
お金が無ければ、生きていけない。お金の有り無しで、助かるかどうかは決まるのだ。
でも。
今、自分には助ける術があって、自分が何もしなければ死んでしまう人がそこにはいて……。
「駄目だ。」
マールクは俺の腕を離さない。
「でも、人が死んでしまう。俺は治癒ができ……。」
口を塞がれた。
「一人治したら、もう一人。それも治したら、また違う怪我人が来るぞ。あっちを治したのに何故こちらは治してくれないのだ、と止まらなくなる。それを全部無償で治して、お前の生活はできるのか?」
「…………。」
マールクはひそやかな声をこぼす。
一人治したら、また一人。止まらない。怪我人はたくさんいる。そう。見渡しただけでも、血を流している人は三人見える。
でも、このままでは一人は確実に死んでしまう。
「神託の聖者として、人々を癒して生きていくというのなら、それでもいい。でも、それにしたって無償では駄目だ。自分も生きられる方法を考えないといけないんだ。そして、あの男は金を持っていない。」
仲間がいるからここまで運んでもらえたんだ、とマールクは言った。そうでなければ、森の中で冷たくなっていた。森の中で冷たくなれば、魔物たちが亡骸を食らうので、どこでいなくなったかも分からないままだ。それをさせないために、ここまで運んでくれるほどの仲間がいただけ幸せだったんだ。
俺は、泣きながらマールクの言葉を聞いた。怪我人に近寄ろうとしていたガウナーも、拳を握ってマールクの話を聞いていた。
その間に、買い取りカウンターから走ってきた男が意識のない怪我人を背負って、ギルドから出ていった。お金を持って、治癒院へ向かうのだろうか。血の跡がぼたぼたと続いている。
「お金を貰えば、いい?」
今、彼はお金を持って出て行った。それなら……。
マールクは悩んでいるようだったけど、後を追うことは許してくれた。
壁際に寝かせられた若い男が、荒い息を吐いているのも見える。腹部の傷から流れた血は布で止まらず、床を汚し始めていた。あの出血では、何ほども待たずに天へと帰ってしまうだろう。
左腕の腕輪を見る。今なら、治癒をしても生命力を削ったりしない。自分に万が一もなく、治してあげることができる。あのお腹の傷だけでも、と歩き出しら、マールクの手が俺の腕を掴んだ。
「セナ。どうした?」
「あの人は、何で早く治療院に連れていかないの?」
ああ、とマールクがそちらを見る。
「金が無いんだろうよ。」
「金……。」
ユーゴーが言っていた。
金が降ってくるならやるよ、と。
お金が無ければ、生きていけない。お金の有り無しで、助かるかどうかは決まるのだ。
でも。
今、自分には助ける術があって、自分が何もしなければ死んでしまう人がそこにはいて……。
「駄目だ。」
マールクは俺の腕を離さない。
「でも、人が死んでしまう。俺は治癒ができ……。」
口を塞がれた。
「一人治したら、もう一人。それも治したら、また違う怪我人が来るぞ。あっちを治したのに何故こちらは治してくれないのだ、と止まらなくなる。それを全部無償で治して、お前の生活はできるのか?」
「…………。」
マールクはひそやかな声をこぼす。
一人治したら、また一人。止まらない。怪我人はたくさんいる。そう。見渡しただけでも、血を流している人は三人見える。
でも、このままでは一人は確実に死んでしまう。
「神託の聖者として、人々を癒して生きていくというのなら、それでもいい。でも、それにしたって無償では駄目だ。自分も生きられる方法を考えないといけないんだ。そして、あの男は金を持っていない。」
仲間がいるからここまで運んでもらえたんだ、とマールクは言った。そうでなければ、森の中で冷たくなっていた。森の中で冷たくなれば、魔物たちが亡骸を食らうので、どこでいなくなったかも分からないままだ。それをさせないために、ここまで運んでくれるほどの仲間がいただけ幸せだったんだ。
俺は、泣きながらマールクの言葉を聞いた。怪我人に近寄ろうとしていたガウナーも、拳を握ってマールクの話を聞いていた。
その間に、買い取りカウンターから走ってきた男が意識のない怪我人を背負って、ギルドから出ていった。お金を持って、治癒院へ向かうのだろうか。血の跡がぼたぼたと続いている。
「お金を貰えば、いい?」
今、彼はお金を持って出て行った。それなら……。
マールクは悩んでいるようだったけど、後を追うことは許してくれた。
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