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小さな幸せを願った勇者の話
79 マスターの話
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マスターは、俺をベッドに寝かせなおすと、椅子を引っ張ってきて座った。
「皆、座れ。」
と言っても、椅子は二つしかない。セナは俺の寝ているベッドの真ん中辺りに腰掛け、ガウナーは足元の辺りに腰かけた。マールクが椅子に座る。
「まだ、鑑定の儀なんて行われていなかった頃だ。それぞれの能力は、教会か冒険者ギルドの鑑定士が測っていた。鑑定士も、今よりたくさん居て商売できていた。魔物は、今みたいにうじゃうじゃいなくて、少し注意すれば町や村の行き来は簡単にできた。」
懐かしそうに、マスターは語る。
「今は立ち入り禁止のダンジョンにも、好きに出入りできて、様々なレアアイテムが手に入ったもんだよ。魔物の強さも、階を下りるほど強くなるから分かりやすい。それぞれ自分に見合った場所で修行して、運が良ければアイテムを手に入れて帰れる。便利なもんだった。」
黙って耳を傾ける俺たちをぐるりと見回す。
「とはいえ、自分の能力を見誤れば、命も落とすし大怪我もする。それは、いつの世でもそうだ。そういう商売だしな。治癒魔法使いもたくさんいたよ。光の魔力があれば、大抵は発動できるからな。危険性も知られていて、大人は自分の子どもに必ず伝えていたさ。治癒魔法は、安易に使用してはいけないってね。冒険者ギルドで勉強してからでないと、使ってはいけない、と。それでも、たまに治癒魔法の使用で命を落とす者はいた。その治癒士の命と引き換えに、治してもらった方は大抵助かるんだが、だいたい悲劇だな。治してもらった方は、ずっと誰かの命を犠牲にしたことを悔やんで、でもせっかく助けてもらった命を粗末にもできず、悩み苦しみながら生きるのさ。何人か見たよ。その度に、冒険者ギルドは、治癒魔法が何とか魔力の範囲内で発動しないものかと調べてきた。結局、どうしても駄目で、とにかく体の仕組みや怪我や病気の勉強をして、発動範囲を限定するしかできなかったよ。セイマは、冒険者ギルドから頼まれてよく実験に付き合っていた。たぶん、何度か生命力も削ったことだろう。サラも頼まれていたようだが、セイマがさせなかった。サラは、結界の魔女だからと、治癒魔法は使わせないようにしていたな。」
「母さんの結界は凄いから。」
セナがぽつりと言う。
「ああ。俺たちのパーティが王都でも指折りの強さになった頃、サラに城の結界を常に張って欲しいという依頼と、セイマに王の病気を治せという依頼がきた。」
それは、なかなか命の危機だ。
「これは、受けても受けなくても死ぬ、と思った俺は、その依頼の返事をせずに四人でダンジョンに潜り、二人はそこで命を落としたことにした。その話をするために下りたダンジョンで、光の腕輪を手に入れたんだ。どんな効果のあるアイテムかも俺には分からない。何となくセイマに必要な気がして渡して、すぐに別れたからな。……最後に見た腕輪を覚えていたことには、俺も驚いたがな。」
俺は、シンプルな左手の腕輪を見る。大した特徴があるわけでもない品物だった。
「とりあえず、二人を逃がして、俺ともう一人の魔法剣士はパーティを解散し、依頼に断りを入れた。何せ二人と別れたことが悲しくて寂しかったからな。演技でもなく悲しんでたら、嘘だとは思われなかったみてえだ。その後の二人のことは知りようもなかった。次第に、魔物が今のように増えてきて、気軽に出歩けなくなったからな。」
「皆、座れ。」
と言っても、椅子は二つしかない。セナは俺の寝ているベッドの真ん中辺りに腰掛け、ガウナーは足元の辺りに腰かけた。マールクが椅子に座る。
「まだ、鑑定の儀なんて行われていなかった頃だ。それぞれの能力は、教会か冒険者ギルドの鑑定士が測っていた。鑑定士も、今よりたくさん居て商売できていた。魔物は、今みたいにうじゃうじゃいなくて、少し注意すれば町や村の行き来は簡単にできた。」
懐かしそうに、マスターは語る。
「今は立ち入り禁止のダンジョンにも、好きに出入りできて、様々なレアアイテムが手に入ったもんだよ。魔物の強さも、階を下りるほど強くなるから分かりやすい。それぞれ自分に見合った場所で修行して、運が良ければアイテムを手に入れて帰れる。便利なもんだった。」
黙って耳を傾ける俺たちをぐるりと見回す。
「とはいえ、自分の能力を見誤れば、命も落とすし大怪我もする。それは、いつの世でもそうだ。そういう商売だしな。治癒魔法使いもたくさんいたよ。光の魔力があれば、大抵は発動できるからな。危険性も知られていて、大人は自分の子どもに必ず伝えていたさ。治癒魔法は、安易に使用してはいけないってね。冒険者ギルドで勉強してからでないと、使ってはいけない、と。それでも、たまに治癒魔法の使用で命を落とす者はいた。その治癒士の命と引き換えに、治してもらった方は大抵助かるんだが、だいたい悲劇だな。治してもらった方は、ずっと誰かの命を犠牲にしたことを悔やんで、でもせっかく助けてもらった命を粗末にもできず、悩み苦しみながら生きるのさ。何人か見たよ。その度に、冒険者ギルドは、治癒魔法が何とか魔力の範囲内で発動しないものかと調べてきた。結局、どうしても駄目で、とにかく体の仕組みや怪我や病気の勉強をして、発動範囲を限定するしかできなかったよ。セイマは、冒険者ギルドから頼まれてよく実験に付き合っていた。たぶん、何度か生命力も削ったことだろう。サラも頼まれていたようだが、セイマがさせなかった。サラは、結界の魔女だからと、治癒魔法は使わせないようにしていたな。」
「母さんの結界は凄いから。」
セナがぽつりと言う。
「ああ。俺たちのパーティが王都でも指折りの強さになった頃、サラに城の結界を常に張って欲しいという依頼と、セイマに王の病気を治せという依頼がきた。」
それは、なかなか命の危機だ。
「これは、受けても受けなくても死ぬ、と思った俺は、その依頼の返事をせずに四人でダンジョンに潜り、二人はそこで命を落としたことにした。その話をするために下りたダンジョンで、光の腕輪を手に入れたんだ。どんな効果のあるアイテムかも俺には分からない。何となくセイマに必要な気がして渡して、すぐに別れたからな。……最後に見た腕輪を覚えていたことには、俺も驚いたがな。」
俺は、シンプルな左手の腕輪を見る。大した特徴があるわけでもない品物だった。
「とりあえず、二人を逃がして、俺ともう一人の魔法剣士はパーティを解散し、依頼に断りを入れた。何せ二人と別れたことが悲しくて寂しかったからな。演技でもなく悲しんでたら、嘘だとは思われなかったみてえだ。その後の二人のことは知りようもなかった。次第に、魔物が今のように増えてきて、気軽に出歩けなくなったからな。」
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