上 下
74 / 211
小さな幸せを願った勇者の話

73 討伐開始

しおりを挟む
 馬車を借りるために、またお金がかかったが、倒した魔獣の角や水を運ぶにはどうしても必要だったので使うことにした。 
 報酬から払えばいいから、とマールクが立て替えてくれるのに甘える。そう、すぐに返せる筈だ。
 
「流石に、Aランクの依頼は緊張するな。」

 ガウナーが御者をしてくれているので、マールクとセナと三人で馬車の中に乗っている。水を運ぶための甕を二つ積んでいるので、なかなかに狭い。先程、あっさりと切り落とした魔獣の角も、かなり場所を取っている。

「ユーゴーならAランクの魔物だって倒せるよ!」
「ああ。さっきの角切りは凄かった。」

 セナが、俺をきらきらとした目で見ながら言った。なんだ、その、憧れてますー、みたいな顔は。
 俺が強いのなんて知ってるだろ?
 ……見せたことなかったっけ?

「ユーゴー、十五歳なんだよな?本当に、鑑定の儀で加護もスキルも神託も受けていないのか。」

 ただ頷いておく。

「レベルが高い……わけないよな。十五歳だもんな。」

 さっきの魔獣の角切りで、かなりレベルが上がったような感覚があった。今までレベルが上がるようなことをしていなかったので、たぶんレベル1や2だったのが、一息に上がったのだろう。
 レベルを上げずに、神に俺を諦めてもらう作戦は、やめた訳じゃない。少しくらいは仕方ない、と割りきったまでだ。
 金が無いのだ!
 金が無いと、生きていけないのだ!
 湖から離れた場所に馬車を置いて、歩いて湖に近寄る。離れた場所からでも魔物がいるのがよく見えた。
 魔物は、かなり大きい人形ひとがたで、頭には角があって、皮膚が緑色だった。のし、のし、と湖の周りを歩いているのが、三体。一体はガウナーと同じくらいの大きさで後の二体がそれより二回りは大きい。体つきから、雄と雌とその子どもに見えるのだが、討伐依頼の出ていた三枚の依頼書は、この三体のことなのだろうか?
 家族?
 魔物も、高位のものは群れで暮らしていた筈だから、これはかなり手強いかもしれない。
 一体ずつの討伐依頼が出ていたが、三体で暮らしているのなら一体ずつなんて無理だろう。
 三体討伐、となるとSランククエストになって、ますます誰もできなくなるから、ああして誤魔化しているのだろうか。

「一体ずつなんて無理だろ。」

 マールクが呟いた。
 同感だ。
 派手にやるしか無さそうだな。

「湖の水を魔法で使う。」

 ガウナーの言葉に、ああ、と思い出す。ガウナーの冒険者カードはうっすらと青みを帯びていた。かなり強い水の魔力の持ち主。湖の水を使えば、強力な魔法が使えそうだ。

「拘束する。」
「顔を水で包んで、窒息させられるか?」

 ガウナーは、手足を水で動けなくさせるつもりだったようだが、顔を水で包んでしまえば、どんどん弱っていってくれる。

「……分かった。」

 ガウナーは少しの躊躇いの後で、すぐに詠唱に取りかかった。俺は、剣を抜いて構える。安物の剣は、魔獣の角切りで歯こぼれしていた。
 痛い思いさせるかな。
 どうせなら、あまり苦しまないように倒してやりたい。
 近寄る俺たちに気付いた一番大きな個体が、威嚇の声を上げた。

「セナ、離れてろ。」

 その時、体の周りを光が数秒取り巻いて消える。

「防御だよ、ユーゴー。怪我しないで。怪我したら、治癒するからね。」

 すごい脅し文句を吐いて、セナが少し離れた。
 やはり、レベルは上げた方がいいのかもしれない。怪我をしないために。
 セナに治癒を使わせないために。
 
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

霧のはし 虹のたもとで

萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。 古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。 ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。 美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。 一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。 そして晃の真の目的は? 英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...