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小さな幸せを願った勇者の話
73 討伐開始
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馬車を借りるために、またお金がかかったが、倒した魔獣の角や水を運ぶにはどうしても必要だったので使うことにした。
報酬から払えばいいから、とマールクが立て替えてくれるのに甘える。そう、すぐに返せる筈だ。
「流石に、Aランクの依頼は緊張するな。」
ガウナーが御者をしてくれているので、マールクとセナと三人で馬車の中に乗っている。水を運ぶための甕を二つ積んでいるので、なかなかに狭い。先程、あっさりと切り落とした魔獣の角も、かなり場所を取っている。
「ユーゴーならAランクの魔物だって倒せるよ!」
「ああ。さっきの角切りは凄かった。」
セナが、俺をきらきらとした目で見ながら言った。なんだ、その、憧れてますー、みたいな顔は。
俺が強いのなんて知ってるだろ?
……見せたことなかったっけ?
「ユーゴー、十五歳なんだよな?本当に、鑑定の儀で加護もスキルも神託も受けていないのか。」
ただ頷いておく。
「レベルが高い……わけないよな。十五歳だもんな。」
さっきの魔獣の角切りで、かなりレベルが上がったような感覚があった。今までレベルが上がるようなことをしていなかったので、たぶんレベル1や2だったのが、一息に上がったのだろう。
レベルを上げずに、神に俺を諦めてもらう作戦は、やめた訳じゃない。少しくらいは仕方ない、と割りきったまでだ。
金が無いのだ!
金が無いと、生きていけないのだ!
湖から離れた場所に馬車を置いて、歩いて湖に近寄る。離れた場所からでも魔物がいるのがよく見えた。
魔物は、かなり大きい人形で、頭には角があって、皮膚が緑色だった。のし、のし、と湖の周りを歩いているのが、三体。一体はガウナーと同じくらいの大きさで後の二体がそれより二回りは大きい。体つきから、雄と雌とその子どもに見えるのだが、討伐依頼の出ていた三枚の依頼書は、この三体のことなのだろうか?
家族?
魔物も、高位のものは群れで暮らしていた筈だから、これはかなり手強いかもしれない。
一体ずつの討伐依頼が出ていたが、三体で暮らしているのなら一体ずつなんて無理だろう。
三体討伐、となるとSランククエストになって、ますます誰もできなくなるから、ああして誤魔化しているのだろうか。
「一体ずつなんて無理だろ。」
マールクが呟いた。
同感だ。
派手にやるしか無さそうだな。
「湖の水を魔法で使う。」
ガウナーの言葉に、ああ、と思い出す。ガウナーの冒険者カードはうっすらと青みを帯びていた。かなり強い水の魔力の持ち主。湖の水を使えば、強力な魔法が使えそうだ。
「拘束する。」
「顔を水で包んで、窒息させられるか?」
ガウナーは、手足を水で動けなくさせるつもりだったようだが、顔を水で包んでしまえば、どんどん弱っていってくれる。
「……分かった。」
ガウナーは少しの躊躇いの後で、すぐに詠唱に取りかかった。俺は、剣を抜いて構える。安物の剣は、魔獣の角切りで歯こぼれしていた。
痛い思いさせるかな。
どうせなら、あまり苦しまないように倒してやりたい。
近寄る俺たちに気付いた一番大きな個体が、威嚇の声を上げた。
「セナ、離れてろ。」
その時、体の周りを光が数秒取り巻いて消える。
「防御だよ、ユーゴー。怪我しないで。怪我したら、治癒するからね。」
すごい脅し文句を吐いて、セナが少し離れた。
やはり、レベルは上げた方がいいのかもしれない。怪我をしないために。
セナに治癒を使わせないために。
報酬から払えばいいから、とマールクが立て替えてくれるのに甘える。そう、すぐに返せる筈だ。
「流石に、Aランクの依頼は緊張するな。」
ガウナーが御者をしてくれているので、マールクとセナと三人で馬車の中に乗っている。水を運ぶための甕を二つ積んでいるので、なかなかに狭い。先程、あっさりと切り落とした魔獣の角も、かなり場所を取っている。
「ユーゴーならAランクの魔物だって倒せるよ!」
「ああ。さっきの角切りは凄かった。」
セナが、俺をきらきらとした目で見ながら言った。なんだ、その、憧れてますー、みたいな顔は。
俺が強いのなんて知ってるだろ?
……見せたことなかったっけ?
「ユーゴー、十五歳なんだよな?本当に、鑑定の儀で加護もスキルも神託も受けていないのか。」
ただ頷いておく。
「レベルが高い……わけないよな。十五歳だもんな。」
さっきの魔獣の角切りで、かなりレベルが上がったような感覚があった。今までレベルが上がるようなことをしていなかったので、たぶんレベル1や2だったのが、一息に上がったのだろう。
レベルを上げずに、神に俺を諦めてもらう作戦は、やめた訳じゃない。少しくらいは仕方ない、と割りきったまでだ。
金が無いのだ!
金が無いと、生きていけないのだ!
湖から離れた場所に馬車を置いて、歩いて湖に近寄る。離れた場所からでも魔物がいるのがよく見えた。
魔物は、かなり大きい人形で、頭には角があって、皮膚が緑色だった。のし、のし、と湖の周りを歩いているのが、三体。一体はガウナーと同じくらいの大きさで後の二体がそれより二回りは大きい。体つきから、雄と雌とその子どもに見えるのだが、討伐依頼の出ていた三枚の依頼書は、この三体のことなのだろうか?
家族?
魔物も、高位のものは群れで暮らしていた筈だから、これはかなり手強いかもしれない。
一体ずつの討伐依頼が出ていたが、三体で暮らしているのなら一体ずつなんて無理だろう。
三体討伐、となるとSランククエストになって、ますます誰もできなくなるから、ああして誤魔化しているのだろうか。
「一体ずつなんて無理だろ。」
マールクが呟いた。
同感だ。
派手にやるしか無さそうだな。
「湖の水を魔法で使う。」
ガウナーの言葉に、ああ、と思い出す。ガウナーの冒険者カードはうっすらと青みを帯びていた。かなり強い水の魔力の持ち主。湖の水を使えば、強力な魔法が使えそうだ。
「拘束する。」
「顔を水で包んで、窒息させられるか?」
ガウナーは、手足を水で動けなくさせるつもりだったようだが、顔を水で包んでしまえば、どんどん弱っていってくれる。
「……分かった。」
ガウナーは少しの躊躇いの後で、すぐに詠唱に取りかかった。俺は、剣を抜いて構える。安物の剣は、魔獣の角切りで歯こぼれしていた。
痛い思いさせるかな。
どうせなら、あまり苦しまないように倒してやりたい。
近寄る俺たちに気付いた一番大きな個体が、威嚇の声を上げた。
「セナ、離れてろ。」
その時、体の周りを光が数秒取り巻いて消える。
「防御だよ、ユーゴー。怪我しないで。怪我したら、治癒するからね。」
すごい脅し文句を吐いて、セナが少し離れた。
やはり、レベルは上げた方がいいのかもしれない。怪我をしないために。
セナに治癒を使わせないために。
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