51 / 211
小さな幸せを願った勇者の話
50 傷を塞ぐ
しおりを挟む
入ってきた騎士は、俺の言葉に動きを止めた。その隙に、聖女を宰相の側から離して引き寄せる。
「あ、ああ、あ……。」
両腕から血をぼたぼたと垂らしている護衛騎士の呻き声が部屋に響く。
「ユーゴー、あの傷だけ塞ぎたい。ユーゴーを人殺しにしたくない。」
「セナ、あの血を止めることならできる。大丈夫。」
「でも……。」
『ぼん。』
俺の出した火の玉が、護衛騎士の両腕の傷を掠めてゆらいだ。じゅ、と肉の焼ける音と臭いが漂う。
「うぎゃあああ。」
今度は火傷の痛みに悲鳴が響いた。
「手当ての仕方は分かりますか?まずは水で冷やしてから、傷が腐らないように清潔に保つのです。急いで。」
騎士が幾人か部屋から走り出た。侍女たちは、王妃殿下のように気を失ってはいないが、がたがたと震えてへたり込んでいた。
王宮なら、聖女を多く抱えていて、治癒魔法でどんな怪我も病気も治してしまうのかもしれない。だから、こんな大怪我やマリエッタ殿下のような状態の人間を見たことがほとんど無いのだろう。騎士たちの狼狽えぶりも酷かった。
城には、町での薬師のような役割りの者がいないのだろうか。
とりあえず水を運んできた騎士が、火傷をした護衛騎士の腕を水に浸けたり、王妃殿下を部屋から運び出したりと動き始めた。
「薬師を連れてきて診てもらうことをお勧めします。」
「そ、そこの聖女、ち、治癒魔法をかけよ。」
宰相が震えながらも言葉を発する。ここで、そのような指示が出せるのは、流石と言うべきだろう。
聖女は首を横に振った。
「め、め、命令である。」
聖女は首を横に振りながら、口を開けたり閉じたりする。
「め、命令をきけぬと言うのか?」
「ショックで声が出ないようですよ。」
俺の言葉に、宰相の顔が歪んだ。俺への恐怖か嫌悪か、その両方か。
「だ、誰か、他の聖女をつ、連れて来なさい。」
程なくして連れてこられた聖女はまた、まだ俺たちと同じくらいの年齢に見えた。
「あ、あの者の怪我を治せ。」
そう言われて、怪我をしている騎士の側へ歩いていく聖女の側へセナの手を掴んで移動する。
「お、お前たちは動くな!」
宰相の言葉を無視して、驚いてこちらを向く聖女へ声をかけた。
「治癒魔法を使ったことはある?」
聖女は、こくりと頷く。
「なんて教えられた?目の前の人の怪我や病気が治るようにと口に出して光の魔力を出せって?」
こくり。
「そのやり方は駄目だ。本当は、治癒魔法は使わないのが一番なんだけど、どうしても使わなくてはいけないときは、治してほしいと言われたものだけ治るようにと想像して。相手の不調を全部治してたら、自分が死んじゃうから。」
目を見開く聖女に、具体的な言葉を伝える。
「あの怪我なら、両腕の傷を塞ぎ、痛みを取り除く、とだけ。」
こくり、とまた頷いた聖女が、手を護衛騎士にかざした。
『両腕はその傷を癒せ。』
光が護衛騎士の腕だけを包み、火傷の跡が消えて、つるんと綺麗になった。もちろん、切り落とした両手が戻ることはない。
かなりの怪我であったから、聖女の魔力を半分ほどは持っていかれただろうが、休めば回復できるだろう。
「上手い。ありがとう。」
聖女は、ほっとしたように少しだけ笑った。
「あ、ああ、あ……。」
両腕から血をぼたぼたと垂らしている護衛騎士の呻き声が部屋に響く。
「ユーゴー、あの傷だけ塞ぎたい。ユーゴーを人殺しにしたくない。」
「セナ、あの血を止めることならできる。大丈夫。」
「でも……。」
『ぼん。』
俺の出した火の玉が、護衛騎士の両腕の傷を掠めてゆらいだ。じゅ、と肉の焼ける音と臭いが漂う。
「うぎゃあああ。」
今度は火傷の痛みに悲鳴が響いた。
「手当ての仕方は分かりますか?まずは水で冷やしてから、傷が腐らないように清潔に保つのです。急いで。」
騎士が幾人か部屋から走り出た。侍女たちは、王妃殿下のように気を失ってはいないが、がたがたと震えてへたり込んでいた。
王宮なら、聖女を多く抱えていて、治癒魔法でどんな怪我も病気も治してしまうのかもしれない。だから、こんな大怪我やマリエッタ殿下のような状態の人間を見たことがほとんど無いのだろう。騎士たちの狼狽えぶりも酷かった。
城には、町での薬師のような役割りの者がいないのだろうか。
とりあえず水を運んできた騎士が、火傷をした護衛騎士の腕を水に浸けたり、王妃殿下を部屋から運び出したりと動き始めた。
「薬師を連れてきて診てもらうことをお勧めします。」
「そ、そこの聖女、ち、治癒魔法をかけよ。」
宰相が震えながらも言葉を発する。ここで、そのような指示が出せるのは、流石と言うべきだろう。
聖女は首を横に振った。
「め、め、命令である。」
聖女は首を横に振りながら、口を開けたり閉じたりする。
「め、命令をきけぬと言うのか?」
「ショックで声が出ないようですよ。」
俺の言葉に、宰相の顔が歪んだ。俺への恐怖か嫌悪か、その両方か。
「だ、誰か、他の聖女をつ、連れて来なさい。」
程なくして連れてこられた聖女はまた、まだ俺たちと同じくらいの年齢に見えた。
「あ、あの者の怪我を治せ。」
そう言われて、怪我をしている騎士の側へ歩いていく聖女の側へセナの手を掴んで移動する。
「お、お前たちは動くな!」
宰相の言葉を無視して、驚いてこちらを向く聖女へ声をかけた。
「治癒魔法を使ったことはある?」
聖女は、こくりと頷く。
「なんて教えられた?目の前の人の怪我や病気が治るようにと口に出して光の魔力を出せって?」
こくり。
「そのやり方は駄目だ。本当は、治癒魔法は使わないのが一番なんだけど、どうしても使わなくてはいけないときは、治してほしいと言われたものだけ治るようにと想像して。相手の不調を全部治してたら、自分が死んじゃうから。」
目を見開く聖女に、具体的な言葉を伝える。
「あの怪我なら、両腕の傷を塞ぎ、痛みを取り除く、とだけ。」
こくり、とまた頷いた聖女が、手を護衛騎士にかざした。
『両腕はその傷を癒せ。』
光が護衛騎士の腕だけを包み、火傷の跡が消えて、つるんと綺麗になった。もちろん、切り落とした両手が戻ることはない。
かなりの怪我であったから、聖女の魔力を半分ほどは持っていかれただろうが、休めば回復できるだろう。
「上手い。ありがとう。」
聖女は、ほっとしたように少しだけ笑った。
55
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる