48 / 211
小さな幸せを願った勇者の話
47 発動条件
しおりを挟む
部屋の外で声がした。すぐに扉が開いて、豪華なドレスを纏った女性が入ってくる。侍女が、やつれた顔をした神官服の少女を一人連れていた。
「宰相……。その者は?」
「王妃殿下。」
皆一斉に頭を下げたので、俺も倣って下げておく。セナは手が放せないので、勘弁してもらおう。
「神託の聖者でございます。」
「なんと!では、ではマリエッタは、助かるのか。」
「は。」
おいっ。
さっき俺が、目は覚めるが生命力は戻らないと言ったというのに。
王妃殿下に嘘を吐くとか、すごい胆力だと感心してしまう。まあ、責任は治療している者に被せてしまえばよい訳だから、構わないのか。
雑音を聞かないようにして、魔物や魔王を倒すためだけに生きていた頃は、とにかく自分を鍛え上げることにしか興味がなかった。他に少しだけ興味があったのは、セナのこと。それも、気にすれば、もやもやとした不安や頭痛が襲うので極力意識を逸らそうと頑張っていた。
自分の思うままに生きると決めた今世の、なんと面倒くさいことか。
頭を下げたまま、そんなことを考えていたら王妃殿下とやらは感極まってふらりとくずおれてしまったらしい。ドレスが床に広がるのが見え、侍女が慌てて駆け寄った。
頭を上げると神官服の少女と目が合う。手枷と足枷を嵌められていた。聖女に、こんな扱いを?
ソファに導かれ座った王妃殿下の元を離れた侍女が、聖女の手枷に付いた鎖を引く。
「何を突っ立っているの?早く王妃殿下を癒しなさい。」
病人の部屋だから声は抑えているが、鋭く尖った口調はまるで恫喝しているかのようだ。
癒しなさい、と言われても、喜びのあまり興奮してふらついただけなのだから、何ともしようが無いだろう。
案の定、何かを呟きつつ手をかざした聖女からは何も発動しなかった。
「王女殿下を癒せないばかりでなく、このように軽い症状も治せないとは、なんという無能。お前はもう、不要だわ。」
侍女の怒りの声は、小さいのによく聞こえた。
王女は、病でも怪我でもなく魔力枯渇なのだから、癒しは発動しないのか。治癒魔法をかけることによって、意図せず魔力を奪われることを警戒していたが、良い情報をもらえた。
「終わりました。」
セナが王女の手を置いたので、すぐに腕を取って自分の側に引き寄せる。セナに変わりはないようだった。
「何ともない?」
「うん、大丈夫。魔力を注いだだけだから。」
簡単に言うが、聖女、聖者クラスの魔力がないと他の器に魔力を注ぐというのは難しいものなので、余程の事情がないとやってはいけない、とまた注意しておかねば。
そしてベッドの上の王女は、ゆっくりと目を開いた。
「宰相……。その者は?」
「王妃殿下。」
皆一斉に頭を下げたので、俺も倣って下げておく。セナは手が放せないので、勘弁してもらおう。
「神託の聖者でございます。」
「なんと!では、ではマリエッタは、助かるのか。」
「は。」
おいっ。
さっき俺が、目は覚めるが生命力は戻らないと言ったというのに。
王妃殿下に嘘を吐くとか、すごい胆力だと感心してしまう。まあ、責任は治療している者に被せてしまえばよい訳だから、構わないのか。
雑音を聞かないようにして、魔物や魔王を倒すためだけに生きていた頃は、とにかく自分を鍛え上げることにしか興味がなかった。他に少しだけ興味があったのは、セナのこと。それも、気にすれば、もやもやとした不安や頭痛が襲うので極力意識を逸らそうと頑張っていた。
自分の思うままに生きると決めた今世の、なんと面倒くさいことか。
頭を下げたまま、そんなことを考えていたら王妃殿下とやらは感極まってふらりとくずおれてしまったらしい。ドレスが床に広がるのが見え、侍女が慌てて駆け寄った。
頭を上げると神官服の少女と目が合う。手枷と足枷を嵌められていた。聖女に、こんな扱いを?
ソファに導かれ座った王妃殿下の元を離れた侍女が、聖女の手枷に付いた鎖を引く。
「何を突っ立っているの?早く王妃殿下を癒しなさい。」
病人の部屋だから声は抑えているが、鋭く尖った口調はまるで恫喝しているかのようだ。
癒しなさい、と言われても、喜びのあまり興奮してふらついただけなのだから、何ともしようが無いだろう。
案の定、何かを呟きつつ手をかざした聖女からは何も発動しなかった。
「王女殿下を癒せないばかりでなく、このように軽い症状も治せないとは、なんという無能。お前はもう、不要だわ。」
侍女の怒りの声は、小さいのによく聞こえた。
王女は、病でも怪我でもなく魔力枯渇なのだから、癒しは発動しないのか。治癒魔法をかけることによって、意図せず魔力を奪われることを警戒していたが、良い情報をもらえた。
「終わりました。」
セナが王女の手を置いたので、すぐに腕を取って自分の側に引き寄せる。セナに変わりはないようだった。
「何ともない?」
「うん、大丈夫。魔力を注いだだけだから。」
簡単に言うが、聖女、聖者クラスの魔力がないと他の器に魔力を注ぐというのは難しいものなので、余程の事情がないとやってはいけない、とまた注意しておかねば。
そしてベッドの上の王女は、ゆっくりと目を開いた。
56
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
霧のはし 虹のたもとで
萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。
古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。
ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。
美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。
一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。
そして晃の真の目的は?
英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。
琉海
BL
不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。
しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。
迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。
異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる