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小さな幸せを願った勇者の話

33 治癒魔法の真実を語る

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 名乗り出た者の体内に、セナの光の魔力を通して魔力の流れを感じさせ、治癒魔法が使えることを知覚させる。作業はあっという間で、何人もの聖女や聖者が誕生した。
 司祭は治療室で大雑把な治癒魔法を使っているようだ。
 俺たちは感謝や尊敬の眼差しを受けながら、にこにこと作業を進めていく。
 一段落ついたところで、また人々の前に立った。この説明は俺がしよう。セナの心が少しでも傷まないように。

「治癒魔法を使用する際に気を付けるべきことを申し上げておきます。」

 すっかり信用しきった眼差しを受けて逆に居心地が悪くなる。

「治癒魔法は、一度発動すると魔力が無くなっても治癒を完了させようとします。そのため、魔力の代わりに生命力を使用します。」

 ざわ。

「使用の際にはご自分の魔力とご相談の上、治癒をかける相手の怪我や病気の状態をしっかり調べてください。」

 ざわざわ……。

「調べるって……。」

 先ほど聖女もどきとなった女が呆然と呟いた。治療を受けようと連れてきていた自分の子どもに治癒魔法をかけ始めている。

「調べるのです。目で見て触れて。体内なら魔力を使ってでも。様々な所が痛んでいるなら、命に関わるものはどれか調べて命が危ない怪我や病気から治せるように。」
「そんな。それで手遅れになったら……?」
「その判断は術者にお任せしますが、知っていてもらいたいのです。手遅れにならないようにと、体の不調を治せと言うような全体治癒を使うと、たくさんの魔力を使います。これはどのような魔法でも同じことですよね?全体攻撃魔法は、魔力の高い者しか使用すらできない。しかし、治癒魔法は発動してしまうのです。魔力の不足を術者の生命力で補って。」
「つまり、どういうことなの?」
「自らの命をかけてまで治癒魔法を使用するかどうかの判断は術者がしてください、ということです。」

 治癒魔法をかけている女の魔力は少なかった。子どもがどのような治療を必要としていたのかは知らないが、治癒の光が収まる頃には女の方が真っ青な顔色になっていた。
 震える手で、四、五歳に見える子どもを抱きしめている。子どもはにこにこと母親に笑いかけていた。無事に、治療はできたのだろう。
 女は、複雑な顔でこちらを見て、頭を下げた。子どもの手を引いて帰ろうとするところを、他の人間に捕まる。

「あんた、聖女になったんだろう。俺たちも治していってくれ。」
「子どもだけ治して帰るなんて、おかしいだろう。」

 ああ、やっぱり。
 俺の言葉は何も届いていない。

「無理です。私の魔力はもうありません。」

 女が必死の声を上げる。たぶん、自分の子ども一人治すだけで生命力まで少し使ってしまったのだ。子どもの状態が割りと酷かったのなら、我が子を救えたことは本望だろう。しかし、自らの命を削る行為を他人に施せる者が、この世にどれほどいる?

「たった一人治して、何を言っているんだ。お役目から逃げるのか。」

 治療室から、ものすごい物音がした。

「聖者さま、大変です。司祭さまが倒れられました!」

 駆け出してきた男が叫ぶ。司祭見習いだろうか。
 俺は、努めて冷静な声を出した。

「話を聞いてください。治癒魔法は術者の命を削る、と申し上げています。魔力以上の治癒を行えば、その術者は死にます!」
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