【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

21 王家からの手紙

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 歓喜に包まれる教会から逃げるように、俺たちは家に帰った。
 更に大きくなった、おめでとう、の声に曖昧な笑顔を返して。
 家に着いて鍵を閉めると、堪えていた感情が溢れたのだろう。サラ母さんは泣いて、セイマ父さんは頭を抱えていた。
 子ども達は、どうしたら良いのか分からず、そんな二人を見つめていた。
 とりあえず。
 そうだ、とりあえず。
 
「ケーキを作ろう。」

 俺はセイラに声をかける。今日は大事なセナの誕生日なのだ。何はともあれ、お祝いをしたい。いつもの誕生日のように。めでたい日なのだから。

「うん。」

 セイラはすぐに笑顔になって頷いてくれた。神託に戸惑っているだろう。周囲の反応と家族の反応の違いに戸惑っているだろう。
 でも、俺たちは黙ってケーキを作る。嫌な予感を押し殺して。セナもセイン兄さんもただ黙ってケーキを作る俺たちを見ていた。
 ケーキがほとんど完成する頃に、サラ母さんが台所にやってきて、真っ赤な目で無理やり笑顔を作って言った。

「ケーキ作り、上手になったわね。ご馳走作りも手伝いよろしく。」

 皆で食事を作りながら考えを巡らせる。セナと離れるつもりはない。勇者の称号を受けるつもりもない。俺の中のルールさえ決めておけば。
 いつもより豪華な食事を机にならべていると、小さな家の扉が叩かれた。
 扉の向こうには司祭が立っていて、手に上等な紙の手紙を持っている。

「王家から手紙が……。」

 言葉も手も震えていた。
 こんなに早く?

「すべての教会には、小さな転送魔方陣が設置されていて、手紙や書類など小さな物なら直ぐにやり取りできるんだ。」

 俺の疑問が顔に出ていたのか、家族全員が怪訝な顔をしていたからか、司祭が震える声で説明しながら手紙をセナに渡した。
 封蝋にはくっきりと鷹の模様が浮き上がっている。この国の王家の紋章。勇者はそれを背負って戦わされた。国を救うのは、王家の庇護を受けた勇者でなくてはならないのだから。
 セナが封を開けて手紙を取り出す。

「王立魔法学校に入学して魔法を勉強しながら、勇者の訪れを待てって。すぐに迎えが来るらしい。費用はいらないって太っ腹だね。」

 セナが手紙を読んで困ったように笑った。
 予想通りのことに、俺とサラ母さん、セイマ父さんはがっくりと肩を落とした。司祭は、

「なんて素晴らしい。よく勉強してきっと勇者さまのお役に立ちなさい。」

 と笑顔で帰っていった。

 
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