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四拾九 それから
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作次は無事に長屋に戻り、三日ほどはあちらこちらで大騒ぎだったが、変わらない日常が戻ってきた。
変わったことと言えば、あまり離れていたくないと言い出した作次の提案で、おみつが清兵衛商店の中で縫い物をしていることである。今までの仕立て屋の仕事はやめて、清兵衛商店で売る小物入れや髪飾りを作っている。
政景に持たされて金に余裕があるので、必死で仕立てをしなくても暮らしていけるのだ。
清兵衛は、自分が動けなくなったらこの商店を作次に渡したい、と言って作次を養子にした。そうなったら世話をしてやるよ、と作次は生意気に笑ってそれを受け入れた。
そんなこんなで、本人たちは変わらぬ日常を送っている。
与兵衛長屋は、持ち主の名義が変わったらしい。ある藩の藩主が、ぽんと金を払って長屋を買い上げ、傷んでいる箇所をすごい勢いで直しているようだ。貸し出しの布団も、いっぺんに新しくなり、とても寝心地が良いと評判である。その長屋に入りたい者が殺到したが、とんでもなく厳しい審査を潜り抜けないと入居できず、新しい住人が増えることは滅多と無かった。
もとはお武家さんかな、と思えるような所作の人間が、交代で住まう部屋ができていること。裕福な商家のご隠居といった風体の者が、お店の一角に住み着いたこと。
あきらかに、作次の護衛が置かれたのであるが、作次たちの日常には何の変わりもなく、護衛たちも、たまのいつもと違う生活を楽しんでいるようだ。
お店の一角に住み着いた爺、平政は、この隠居生活を満喫している。たまにおみつと作次と共に食事をしたり、共に花見に出掛けたり、花火を見に行ったりした様子を逐一、政景に報告するので、政景は引退したらこちらに住みたいと言い出していた。
作次の元には、たまに同じ年頃の少年が訪ねてきて、蕎麦を食べに行ったり湯屋に出かけたりしている。兄だ、と作次は紹介し、長屋の者は、お兄ちゃん、と呼んで受け入れた。
今日も、作次とおみつはふたりで仲良く暮らしている。
終わり
変わったことと言えば、あまり離れていたくないと言い出した作次の提案で、おみつが清兵衛商店の中で縫い物をしていることである。今までの仕立て屋の仕事はやめて、清兵衛商店で売る小物入れや髪飾りを作っている。
政景に持たされて金に余裕があるので、必死で仕立てをしなくても暮らしていけるのだ。
清兵衛は、自分が動けなくなったらこの商店を作次に渡したい、と言って作次を養子にした。そうなったら世話をしてやるよ、と作次は生意気に笑ってそれを受け入れた。
そんなこんなで、本人たちは変わらぬ日常を送っている。
与兵衛長屋は、持ち主の名義が変わったらしい。ある藩の藩主が、ぽんと金を払って長屋を買い上げ、傷んでいる箇所をすごい勢いで直しているようだ。貸し出しの布団も、いっぺんに新しくなり、とても寝心地が良いと評判である。その長屋に入りたい者が殺到したが、とんでもなく厳しい審査を潜り抜けないと入居できず、新しい住人が増えることは滅多と無かった。
もとはお武家さんかな、と思えるような所作の人間が、交代で住まう部屋ができていること。裕福な商家のご隠居といった風体の者が、お店の一角に住み着いたこと。
あきらかに、作次の護衛が置かれたのであるが、作次たちの日常には何の変わりもなく、護衛たちも、たまのいつもと違う生活を楽しんでいるようだ。
お店の一角に住み着いた爺、平政は、この隠居生活を満喫している。たまにおみつと作次と共に食事をしたり、共に花見に出掛けたり、花火を見に行ったりした様子を逐一、政景に報告するので、政景は引退したらこちらに住みたいと言い出していた。
作次の元には、たまに同じ年頃の少年が訪ねてきて、蕎麦を食べに行ったり湯屋に出かけたりしている。兄だ、と作次は紹介し、長屋の者は、お兄ちゃん、と呼んで受け入れた。
今日も、作次とおみつはふたりで仲良く暮らしている。
終わり
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1話1話大切に読ませていただきましたが、今すべて読み終えてしまいました。
本当に素敵な物語でした。
ほんわかと心暖まり、思わずにやりと笑い、そしてとうとうぼろぼろと泣いてしまいました。
ありがとうございます!
含羞草様
最後まで楽しんで頂けて、ほっと致しました。素敵な物語とのお言葉、ありがとうございます。とても嬉しいです!
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1話1話大切に読ませて頂きます。
含羞草様
はじめまして!
嬉しい感想を送ってくださり、ありがとうございます。
見つけて読んで頂けて嬉しいです。
最後まで楽しんでくださいね☺️
さくらこ様
感想を送ってくださり、ありがとうございます。
歴史好きの方に喜んで頂けて、とても嬉しいです!大名裁きは、少し厳しく感じるかもしれませんが、歴史小説だからとオブラートに包まず書ききりました。ご理解頂けて、ありがたいですm(_ _)m
読んでくださり、ありがとうございました!