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透子の章

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 部屋へと案内される。そんなにたくさんの部屋があるわけではなく、客間と呼ばれる部屋には、布団が敷かれて怪我人が寝かされていた。
 
まり……?」

 遠い、遠い記憶にある顔より、かなり大人になってはいるが、間違いない。ずっと、側に居てくれた人。

「姫…さま……。」

 布団から上半身を起こして、まりは呟くように言った。
 後ろから、不安げに付いてきていた透璃とうりが、たっと私たちの前に走り出て、布団の側に座り込み、まりの上半身を支えた。
 まりがそちらを見て、何かを堪えるような顔で話し掛ける。私たちが聞き覚えの無い言葉だった。透璃とうりも、その言葉で答えを返したようだ。首を横に振って、そのまままりを支えている。
 二人が話す言葉が全く分からないことに不安になりながら立っていると、まりが慌てて、お座りください、と言った。

「すみません、姫様。快璃かいり皇子みこ。不敬を致しました。その…この子は。」
まり。俺はもう、皇子みこではないんだ。あかつきとは縁切りをして、あけに婿入りした。その後、今回の事を起こすにあたって、あけとも縁切りしてきた。俺たちは今、商人の若夫婦だ。」

 まりが、言葉を理解しようと真剣に聞きながら、顔色を悪くしていく。

「それ、は、どういう?あの、ご結婚はなされたのですね。おめでとうございます。……今回の事、とは?」
「ありがとう。しっかりと皆に祝われて結婚したわ。私たちは夫婦よ。」

 にこりと笑って見せると、嬉しそうに笑い返してくれた。まりの中では、学校を卒業してからは快璃かいりとなかなか会うこともできず、結婚の儀のために城へ入ったまま監禁されていた記憶が、正しい道筋なのだろう。
 それから、まじまじとまりはこちらを見た。

「失礼ですが、姫様と快璃かいりさまは今、年齢は……。随分とお若いように、思われます。」
「私は二十三歳、快璃かいりは二十五歳よ。その、私たちは……。」

 え?と目を見開いたまりに話を続けようとしていると、階段を上がってくる足音が聞こえた。

「お待たせしてすまない。」

 元気な声がして、小柄な少年が部屋へと入ってきた。
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