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透子の章

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「拐った後、どちらの国に置くか。耶麻やまの方が、疑われにくいとは思う。」

 連れ出せる前提で話が進む。

刀戈とうかさま。優秀な間者かんじゃがいらっしゃるのは分かるのですが、厳重に囚われていると思われる透璃とうりを、その間者だけで連れ出せるものでしょうか。」
「できないとは言わせないが?」
耶麻やまがやったと知られたら……。」

 快璃かいりの言葉にも刀戈とうかさまが動じることはない。
 
「そうだ、刀戈とうかさま。学校へ通われている方に被害が及ばぬよう、理由をつけて、国に帰しておいてください。人質にでもされたら厄介です。」
「最後の皇子を連れて、一緒に出てくるから問題ない。それに、我が子を人質になどしようとしたら、建物が一つ崩れ落ちるだけではすまぬだろうよ。」
「今、ご子息が行かれているのですか?」
「うちの次男坊が最終学年におる。報告はすべて、坊主からじゃ。拐ってくるのもあやつじゃ。さて、最後の皇子の名は透璃とうりというのか。伝えておくか?」
「ご子息が、間者の真似事を?」
「間者の真似事ではない。間者として、あかつきへ行くのじゃ。のう、深剣みつるぎ。」
「はい。わざわざ中へ招いて頂いているのですから、満遍なく覗いて帰って来ております。」
「私など、王城の詳細な内面図を作り上げたぞ。」
「あれは、お見事でございました。今も、仔細は変わっていないかと思われます。」

 私は、唖然とした。隣の快璃かいりも、絶句している。

「あ、そうか。快璃かいりは、これ聞いたら複雑だよな。ごめんな。任務っていうか、一種の遊び?みたいな。あかつきの内情を調べて報告するのが任務で、その為に侵入した場所の図を書いたり、都の店屋の詳細を書いたり、っていうのが、遊び。見たことない品物が売ってたら、買って調べたりさ。都の観光案内みたいな地図もあるよ。」
「あ、あかつきって、いつ攻められてもおかしくない、のでは?」

 快璃かいりの震える声。

「まあ、できるが。」
「できるんですね……。」

 刀戈とうかさまに、遠慮は無かった。深剣みつるぎは流石に焦った声を上げる。

「しねえよ?圧倒的に人数差があるし、どうしても被害が出るからな。友人のふるさとだし。」
「俺と、友人だったのも……。」
「そんな訳ない。俺は、快璃かいりと気があったから友人になったんだよ。わざわざ近づいたら、逆に任務がしづらいじゃないか。俺は、双子の皇子みこと同学年だから、警備も多くて警戒も強くて、一番大変だったのに。」

 まるで、外れくじを引いたような深剣みつるぎの物言いに、堪えきれなくなったような白露しらつゆの絞り出した声が遮った。

「もしかして、いつも側仕えを連れてこないのも、わざと?」
「もちろんだ。そちらの側仕えを貸してもらって情報を貰う。世話もしてくれて、本当にありがたい。」

 ついに姿勢を保てなくなった白露しらつゆが、がっくりと畳に手をついて俯いた。
 

◇◇◇◇◇◇


 間者→スパイ、敵国を探る者
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