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透子の章
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二人で髪を切り、平民の旅装で部屋を出ると、部屋へ入るな、と言い付けてあったそれぞれの側仕えと護衛は、言葉を失った。
白露はしばらく呆然とした後、ぽろぽろと大粒の涙をこぼして泣き始めた。いつも、穏やかな笑みをたたえている彼が見せた激しい感情に、私達の方が驚いてしまう。
「白露?」
快璃の戸惑う声にも、すみません、すみません、と顔を覆って背を向ける。
快璃が皇子ではなくなった後も、決して側を離れようとせずに、暁の国の親族と縁を切って明の国へ付いてきてくれた側仕え。
前世の、思い出した記憶の中にも、髪を切った快璃がいて、白露がとても悲しんでいたような気がする。
彼は、快璃の真っ直ぐで艶やかな黒髪が、とても好きだったのだろう。
下手な声かけをすることもできずにいる私達の前で、私の護衛の啄木鳥が、小刀を懐から取り出した。首を傾げる私の前で、結んだ髪を持ち上げひと息に切り捨てる。
あっ、と声を洩らした私に、啄木鳥は、にっこり笑った。
「私は、もともと切りたかったのです。髪を結ぶのが苦手で。」
快璃の護衛の狩も、同じように髪を切り落とした。彼も、暁の国の親族と縁を切って、快璃に付いてきてくれている。頭を少し振って、頬を緩めた。
「なるほど。これは、軽くていい。」
「何を、してるの?」
「何をしているんだ?」
唖然としていた私と快璃は、同時に似たような言葉を吐いた。二人の護衛は、平然とこちらを見る。
「私達は、もともと動きやすい服装なので、このままで問題ありません。すぐに、出かけられるのですか?」
「え?」
「準備をする間、少しだけお待ち頂きたい。」
「は?」
「皆さん、少し落ち着きなさい。」
私の側仕えの葉室が、ぱんぱんと手を鳴らして声を上げる。彼女も、鞠を失った私に寄り添ったまま、明の国まで来てしまったのだ。たまたま、臨時で学校での私の側仕えとなっただけであったのに、随分と遠くまで連れてきてしまった。私より十八歳上の彼女は、いつも通りの落ち着きで、若者たちの騒ぎを見ていたことだろう。
「まずは、部屋へ戻ってください。啄木鳥さんも狩さまも、そのようなざんばら髪で外へ出ては笑われます。整えましょう。姫様と快璃さまは、私達にしっかりとご説明をして頂きたい。よろしいですね。」
白露はしばらく呆然とした後、ぽろぽろと大粒の涙をこぼして泣き始めた。いつも、穏やかな笑みをたたえている彼が見せた激しい感情に、私達の方が驚いてしまう。
「白露?」
快璃の戸惑う声にも、すみません、すみません、と顔を覆って背を向ける。
快璃が皇子ではなくなった後も、決して側を離れようとせずに、暁の国の親族と縁を切って明の国へ付いてきてくれた側仕え。
前世の、思い出した記憶の中にも、髪を切った快璃がいて、白露がとても悲しんでいたような気がする。
彼は、快璃の真っ直ぐで艶やかな黒髪が、とても好きだったのだろう。
下手な声かけをすることもできずにいる私達の前で、私の護衛の啄木鳥が、小刀を懐から取り出した。首を傾げる私の前で、結んだ髪を持ち上げひと息に切り捨てる。
あっ、と声を洩らした私に、啄木鳥は、にっこり笑った。
「私は、もともと切りたかったのです。髪を結ぶのが苦手で。」
快璃の護衛の狩も、同じように髪を切り落とした。彼も、暁の国の親族と縁を切って、快璃に付いてきてくれている。頭を少し振って、頬を緩めた。
「なるほど。これは、軽くていい。」
「何を、してるの?」
「何をしているんだ?」
唖然としていた私と快璃は、同時に似たような言葉を吐いた。二人の護衛は、平然とこちらを見る。
「私達は、もともと動きやすい服装なので、このままで問題ありません。すぐに、出かけられるのですか?」
「え?」
「準備をする間、少しだけお待ち頂きたい。」
「は?」
「皆さん、少し落ち着きなさい。」
私の側仕えの葉室が、ぱんぱんと手を鳴らして声を上げる。彼女も、鞠を失った私に寄り添ったまま、明の国まで来てしまったのだ。たまたま、臨時で学校での私の側仕えとなっただけであったのに、随分と遠くまで連れてきてしまった。私より十八歳上の彼女は、いつも通りの落ち着きで、若者たちの騒ぎを見ていたことだろう。
「まずは、部屋へ戻ってください。啄木鳥さんも狩さまも、そのようなざんばら髪で外へ出ては笑われます。整えましょう。姫様と快璃さまは、私達にしっかりとご説明をして頂きたい。よろしいですね。」
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