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玻璃の章

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「あ、あああああ!」

 叫び声を上げたのは真鶴まなづるだった。

玻璃皇子はりのみこ、なんということを!」
「赤子に食べ物を与えていたのは、お前か。」

 静かにそう聞く自分の声が遠かった。お前も、私の意には沿わないのか。
 しかし、真鶴まなづるは首を横に振る。

「もう、もうこれ以上、ご自分を傷付けるのはお止めください!」

 ずきり、と左腰の辺りに痛みが走った。ああ、また。
 禁術を使う度に増える牡丹状の痣。初めは小さな一つ。綺麗に見えるくらいのものだった。一つ一つと増えていく度に、重なりあって範囲を広げ、濃く重なった場所には痛みが出るようにもなった。耐えられないほどではない。忘れるな、とでも言うかのような、鈍痛。服で隠れて見えることのないそれを、入浴も着替えも手伝う真鶴まなづるが気付かない訳がない。
 私の心配を?
 不意打ちに動揺する。
 弟を私に殺されて、まだ、お前は私の身体を心配してくれるのか。
 動揺したまま周りを見回せば、腰を抜かした産婆と、かくに押さえつけられて必死に振りほどこうとしている啄木鳥きつつき、医師は息を殺して部屋の隅にいた。
 透子とうこは。
 静かに布団の上で座っていた姿が、ゆっくりと倒れていく。

まり皇子みこ……。快璃かいり。誰もいない……。神様……。早く、私も消してください。」

 慌てて駆け付けた私に聞こえた、微かな呟き。

「私が、いる。ずっと側に。」

 抱き締めた体は、二度と起き上がることなく。
 二日後、冷たくなっていた。
 
「やり直しましょう。愛しいあなたと共に生きる人生を。何度でも。何度でも。」

 私は、時戻しの術式を描く。また君は、生きて私の前で笑顔を見せてくれるのだろう。例えその瞳が私を映していなくても、もう一度会いたい。

玻璃皇子はりのみこ。もう、もうお止めください。」

 術式が発動するその時に、真鶴まなづるの悲しげな声がすぐ側で聞こえて、私の左腰の辺りに鋭い痛みが走った。突き立てられた短刀が痣を抉り、大量の血が術式の上に散った。
 そして、意識は暗闇のなかに落ち、私は……。
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