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玻璃の章

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 私が何かをする前に、湯が運び込まれた。真鶴まなづる一人では無理だったのだろう。かくと二人でたらいを運び込み、湯を入れた。
 赤子はきれいに洗われ、そこにいた者は皆、私と赤子の顔を見比べては様々な表情をした。
 透子とうこを綺麗にするからとまた追い出され、私は溜め息を吐く。
 透子とうこによく似た娘なら、良かったのに。
 赤子は、私を嘲笑うかのように、快璃かいりによく似た男の子であった。

 どうしたらよいのか、決めかねていたのかもしれない。二日経ってようやく透子とうこの部屋へ足を向けた。
 医師も産婆も閉じ込めたままであったことすら忘れていた。
 私の顔を見た産婆は、帰らせてくれ、と言った。

「私の仕事は終わった。様子は見に来るから帰らせておくれ。」
「帰れると思っていたのか。」

 私は淡々と返事をした。すぐに切り捨ててもよいくらいだが、まだ透子とうこの役に立つかもしれない。
 赤子が、ほやぁほやぁと泣いた。力の無い声だった。

「聞いてみただけだよ。私が選ばれた理由なんて、分かってはいたさ。そんなことより、乳母を用意できないかい?」

 産婆が言う。

「乳の出が悪くてね。姫の具合も良くないから、ずっと腹を空かしていて可哀想だ。」
「そうか。」

 なんと都合のいい。
 放っておいたら、育たないのか。
 何もしなくても、赤子は栄養が足りずに死に、透子とうこが生き残る。
 私は、彼女を慰めて生きていこう。婚約者と子どもを亡くして悲しむ透子とうこを一生かけて愛そう。
 素晴らしい未来が見えて、私はとても良い気分だった。
 布団から起き上がることもできずに、寝転んだまま乳を吸わせる透子とうこを穏やかに見つめる。
 この人生が、私の一生となるのかもしれない。
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