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快璃の章

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「最早、そういう話ではない。」

 父が、冷静に声をかける。

「二人は、気持ちを確かめ合ったのだ。透子とうこ姫は快璃かいりを選んだ。」
「あなたが!」

 玻璃はりはついに声を張り上げる。

「あなたが許可をくれないから、このようなことになったのだ!」

 鋭い目で父を睨み、俺を睨む。
 父は、どこまでも冷静だった。

「属国の姫とみかどが結ばれるには、二人の気持ちが互いを向いていなくては無理だと、文献に書いていなかったか?」
「は?」
「家族も国も、すべてを捨ててみかどへ嫁ぐのだ。それは、並大抵の覚悟ではないだろう。余程の気持ちがなければできまいよ。透子とうこ姫の気持ちはお前に無い。お前も、それが分かっていたのだろう?」

 玻璃はりは、机をばんと叩いてそのまま挨拶もなく部屋を出ていった。


 婚約は成った。俺達は、遠慮しなかった。婚約の証である互いの髪紐を付けて、学生の最後の一年を過ごした。警戒していたが、何事もなく楽しく時は過ぎ、俺達は卒業した。成人の儀は卒業式と共に行われ、すぐにでも結婚してしまいたかったが、二つ下の透子とうこが十五歳になるまで待つことになった。
 卒業後は俺と玻璃はりは、軍に所属して修行する。その後には文官の仕事を手伝い、国の仕組みや執政を学んでいくのだが、俺は属国とはいえ他国への婿入りが決まっているため、政務の方は婿入り後にあけの国で習うこととなった。要らぬことを知って出して貰えなくなったら困るので、自分で提案した。
 俺は、軍に入った。玻璃はりは、文官の方から行くと言い、別々に仕事をすることになった。
 共にいたくないのだろうと父は理解を示し、俺が軍部にいる間は玻璃はりが政務の手伝いをし、二年後に俺が国を出てから玻璃はりが軍部に修行に行くようだ。

「くれぐれも、お気をつけください。戦には出ないように。」

 人質としての期間が終わってまで王都にいることは、自分の国に取って良いことではないので、透子とうこ華子はなこあけの国へ帰る。俺に念押しの言葉を残して、一時の別れを告げた。
 深剣みつるぎは、軍部に共に残ることを選択してくれた。心強く、有り難かった。
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