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快璃の章
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そして、拍子抜けするほど何もなく二年が過ぎた。最終学年である。前世をあっさりと越えたことに驚き、透子と婚約できていないことは、残念に思う。俺達が仲の良いことは、何となく察している者も多かったが。
「快璃皇子と透子は婚約してしまったら、どうかしら?」
華子は、唐突に言った。
そういえば、前世でも彼女が提案してくれたのだったな、と思い出す。とても有り難く嬉しい提案なのだが、今回は問題があった。
「俺は是非そうしたいと思っている。」
とりあえず、正直な気持ちを伝える。聞いていた透子が真っ赤になった。まだ、はっきり言葉にしていなかったかもしれない。
「透子、大好きだよ。」
そう言いながら、緑の髪紐をほどき差し出した。躊躇わずに受け取る透子に驚いていると、自分の赤い髪紐をほどいて差し出してくる。長い黒髪がふわりと背中に散った。
「私も、快璃皇子をお慕いしております。」
何となく気付いていても、言葉にしてもらうとこんなにも嬉しいものなのか。
俺は感激して透子を抱きしめた。すっぽりと腕の中に入り込む小ささも愛しい。そのまま存分に堪能する。
「はい。では、そこまで。」
ぱんぱんと手を叩く音と冷静な声が、俺達を引き離した。もたれかかっていた透子が、我に返ったように少し離れる。
「あ、姉上。申し訳ございません。」
「まあ、確認は大切なことですから。これからは、なるべく人目の無いところでお願いします。」
華子は俺に向かって言った。
ふむ。人目が無ければいいんだな!思わず頬が緩む。
「やはり、人目が無くてもまだ早いかも……。」
「自重する。」
「それで、すぐに婚約できない訳は?」
さすがは華子。俺の言葉の裏に気付いてくれていたか。
「玻璃だ。入学式のすぐ後に、透子と婚約したいと父に申し出た。」
「……我が家は、学校以外で都へ来ることはありません。何故……。」
「本人は一目惚れだと言う。だが、帝は属国の者と婚姻できない決まりがあり、却下された。ならば、我が国の高位貴族の養女にしろと言い出した。または、俺が帝位を継げと。」
「そこまで……?」
「ああ。父はすべて却下した。透子は、俺と仲が良いことも知っていらっしゃる。」
「婚約を申し出ると、後出しになってしまいますか?」
「父は、玻璃に諦めさせるために喜んで婚約させてくれるかもしれないが、俺の身が危ないな。」
「快璃皇子と透子は婚約してしまったら、どうかしら?」
華子は、唐突に言った。
そういえば、前世でも彼女が提案してくれたのだったな、と思い出す。とても有り難く嬉しい提案なのだが、今回は問題があった。
「俺は是非そうしたいと思っている。」
とりあえず、正直な気持ちを伝える。聞いていた透子が真っ赤になった。まだ、はっきり言葉にしていなかったかもしれない。
「透子、大好きだよ。」
そう言いながら、緑の髪紐をほどき差し出した。躊躇わずに受け取る透子に驚いていると、自分の赤い髪紐をほどいて差し出してくる。長い黒髪がふわりと背中に散った。
「私も、快璃皇子をお慕いしております。」
何となく気付いていても、言葉にしてもらうとこんなにも嬉しいものなのか。
俺は感激して透子を抱きしめた。すっぽりと腕の中に入り込む小ささも愛しい。そのまま存分に堪能する。
「はい。では、そこまで。」
ぱんぱんと手を叩く音と冷静な声が、俺達を引き離した。もたれかかっていた透子が、我に返ったように少し離れる。
「あ、姉上。申し訳ございません。」
「まあ、確認は大切なことですから。これからは、なるべく人目の無いところでお願いします。」
華子は俺に向かって言った。
ふむ。人目が無ければいいんだな!思わず頬が緩む。
「やはり、人目が無くてもまだ早いかも……。」
「自重する。」
「それで、すぐに婚約できない訳は?」
さすがは華子。俺の言葉の裏に気付いてくれていたか。
「玻璃だ。入学式のすぐ後に、透子と婚約したいと父に申し出た。」
「……我が家は、学校以外で都へ来ることはありません。何故……。」
「本人は一目惚れだと言う。だが、帝は属国の者と婚姻できない決まりがあり、却下された。ならば、我が国の高位貴族の養女にしろと言い出した。または、俺が帝位を継げと。」
「そこまで……?」
「ああ。父はすべて却下した。透子は、俺と仲が良いことも知っていらっしゃる。」
「婚約を申し出ると、後出しになってしまいますか?」
「父は、玻璃に諦めさせるために喜んで婚約させてくれるかもしれないが、俺の身が危ないな。」
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