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透子の章

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 婚約は、あっさりと整った。皇家からの申し出を属国か断るなんてことができるわけ無いのではあるが、相思相愛の上、私たちは第二子同士なので割りと自由なのだ。
 喜んだ父上は、快璃かいり皇子みこさえお嫌でなければ婿に来て国を治めてほしいものだ、なんて私への手紙に書いていた。
 姉上も、そうなればいいねえ、と言っていて、もう私たちを阻むものは何もなかった。
 婚約が内々に整ったので、堂々と赤い髪紐の上に緑の髪紐を付けて登校する。公式の発表はまだなので、出会う学生たちに何度も頭を見られた。

「おはようございます、透子とうこさま、華子はなこさま。快璃かいり皇子みことご婚約なさいましたの?」

 同級生達は、挨拶を交わしながらはっきりと聞いてきた。私と快璃かいりの仲が良いことを知らぬ者はいないのだから、特に驚いている様子もない。
 私も心の底からの笑顔で返事をする。

「おはようございます。東雲しののめさま。婚約が整いました。」
「まあ、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」

 反応は概ね好意的だ。姫君達の狙いは、やはり第一子である玻璃皇子はりのみこなので、おかしな嫉妬を向けられたりしなくて良かったと胸を撫で下ろす。
 
「おはようございます、玻璃皇子はりのみこ。」

 私は廊下を歩くその方にも挨拶をした。今、お話していた東雲しののめ姫も、姉上も一緒にである。
 頭を下げて、上げてする間に返事は無かった。
 不思議に思いながら顔を見ると、玻璃皇子はりのみこは愕然としていた。この三年間、いや前回の、共に学校へ通っていた期間を合わせても、この方のそのような顔を見たことは無かったように思う。
 その玻璃皇子はりのみこの様子に驚いて私は固まってしまった。どうやら東雲しののめ姫と姉上もそうだったらしく、しばらく四人で固まっていた。

「おはようございます、兄上。」

 その声に、ようやく全員が息を吐いた。

「おはようございます、快璃かいり皇子みこ。」

 私たちが口々に言い、東雲しののめ姫は笑顔でこう付け加えてくれた。

「ご婚約、おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう東雲しののめ。」
 
 笑顔で返す快璃かいりの短い髪も、少しだけの束をしっかりと、緑と赤の髪紐で括ってあった。
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