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透子の章

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 もちろん姉上がついて来ている。
 そうだ。初登校なのに、こんなに騒ぎになってしまって申し訳ない。
 私は快璃かいりの腕の中から姉上を振り返った。

「姉上、初登校なのにすみません。」
透子とうこに落ち度はありませんでした。そんなことより皇子みこ?」

 わざとだろう声音で姉上は快璃かいりを止める。

「わたくしまだ、ご挨拶をさせて頂いておりません。そして、妹をお離しくださいませ。」

 足を止めた快璃かいりが振り返り頭を下げる。

「すまない。礼を欠いた。俺は快璃かいりだ。」
「はじめまして。あけの国の第一子、華子はなこでございます。快璃かいり皇子みこ。」

 優雅にお辞儀して頭を上げた姉上はそこで一旦、間をおいた。

「妹を、お離しくださいませ。」
「あ、ああ。」

 ようやく気付いた快璃かいりが手を離す。

「すまない。つい、連れてきてしまった。」
「つい?」
「いや、その。私たちは仲良しでな。」
「ええ、そうですか。」

 作り笑いの姉上は、だんだん棒読みになってきている。

「姉上。私は快璃かいり皇子みこが大好きです。」
「あ、え、透子とうこ……。」

 私の言葉に快璃かいりは真っ赤になり、姉上は作り笑いを消した。
 これ以上、姉上の怒りを買ってはいけないと焦って、とんでもないことを言ってしまった。
 二人の顔を見て思ったが、一度口から出た言葉は戻らない。しまった、とは思ったが事実だし、十歳が十二歳を好きだと言ったところで、可愛らしいもんだろう、と開き直った。頭の中は十七歳であることは置いておく。
 こほん、と気配を隠していた白露しらつゆのわざとらしい咳払いが聞こえて、固まっていた私たちは動き出す。
 快璃かいりは満面の笑顔で言った。

「俺も大好きだぞ、透子とうこ。」

 私は笑顔で大きく頷き、姉上は小さくため息を吐いた。
 快璃かいりは結局、この後からずっと髪は短いままで、正装の時にはかつらをかぶって誤魔化していた。
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