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第十章 されど幸せな日々
112 ずっと幸せ 成人
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「ままならないものだな」
緋色は今日も、俺を膝の上に乗せて言った。ほんの少しの休憩時間。俺たちは、ぺたりとくっついて一緒にいる。昨日も一昨日もそうだった。きっと明日もそうだろう。
「ままならない?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、ああ、と緋色は俺の首元に顔を寄せる。ふふ。くすぐったい。
「思い通りにならない、ってことだ」
「ああ、うん」
思い通りにならない。本当にそうだ。
俺たちは、年始の集まりに顔を出したらすぐに、西中国に戻るつもりだった。
でも、戻れなくなった。
父さまが、皇帝の位を朱実殿下に譲ると、年始の集まりで宣言したからだ。
そうなると、皇帝を交代するための儀式をいつするのか、とか、父さまと母さまのこれから住む場所をどうするのかとか、色々、本当に色々決めなくてはいけない事があるらしい。次の皇帝になる人、皇太子も立てなくてはならない。もうすでに決まっている順番があって、それは朱音殿下なのだけれど、小さすぎるからしばらく緋色が皇太子をしてはどうか、という人もいたのだと緋色は言った。その場合は、皇帝の弟だから皇太弟になるらしい。まあ、呼び方はどうでもいいんだけど。緋色は、冗談じゃない! と部屋で吠えた。
「俺は、皇子もやめたいってずっと言ってんのに、ちっともやめさせてくれない。これ以上、偉くなってたまるか!」
「そうだね」
偉くなれば、何でも思い通りになるかと言えばそうでもない。そうでもないどころか、なかなか思い通りにならないことが多いような気がする。たとえば今、西中国に戻れないみたいに。
まあ、緋色が皇太弟になる案は、緋色が猛反対をして、他にも反対する人がたくさんいて無しになったらしい。その代わり、これからも皇弟として私の手伝いを頼むよ、と朱実殿下に言われて、緋色は、はい、と言うしかなかったそうだ。
うん。ままならないね。
俺もたまに思う。
伴侶の証を左手の薬指に付けるのだと聞いたときに、どうして今、俺の左手はないのだろうと悲しかった。どちらかの腕を失わなければいけなかったのなら、右手であれば良かったのに。でも、左手が残った半助は、壱臣を抱きしめてあげられる関係になった時に片手しかなかったことが悔しい、って言っていた。どちらかを選ぶってものでもないんだよね。両手があれば、拍手も包拳礼もできる。緋色を両手で抱きしめられる。そうだな。両手があれば良かったな。
鶴丸たちは西中国の当主家になんてなりたくなかった。梅光も、西賀国の当主になりたいなんて思っていなかった。西中国の当主でいたかった真中たちは、色々と上手くできなくて当主でいられなくなった。
母さまは、皇妃のお仕事に疲れて病気になったんだそうだ。
みんな、それぞれままならないことがある。
それでも。
それでも、緋色が皇子として戦場に来てくれたから俺たちは出会えたのだとしたら、緋色が皇子で良かった、と俺は思う。俺は戦闘人形で良かった、って。
だって、ままならないことがあっても、やっぱり、こうして二人でくっついていられる今が幸せだから。
「緋色、大好きだよ」
ずっと。
これまでも大好きだった。これからも大好きだ。
「当たり前だ」
俺は緋色にキスをする。大好きの気持ちがこもったキスを。
「幸せ」
「まあ、うん。俺も」
ままならないこともあるけれど、緋色と一緒に居られる俺は、やっぱり今日も幸せだ。きっと明日も。その次も。
終わり
緋色は今日も、俺を膝の上に乗せて言った。ほんの少しの休憩時間。俺たちは、ぺたりとくっついて一緒にいる。昨日も一昨日もそうだった。きっと明日もそうだろう。
「ままならない?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、ああ、と緋色は俺の首元に顔を寄せる。ふふ。くすぐったい。
「思い通りにならない、ってことだ」
「ああ、うん」
思い通りにならない。本当にそうだ。
俺たちは、年始の集まりに顔を出したらすぐに、西中国に戻るつもりだった。
でも、戻れなくなった。
父さまが、皇帝の位を朱実殿下に譲ると、年始の集まりで宣言したからだ。
そうなると、皇帝を交代するための儀式をいつするのか、とか、父さまと母さまのこれから住む場所をどうするのかとか、色々、本当に色々決めなくてはいけない事があるらしい。次の皇帝になる人、皇太子も立てなくてはならない。もうすでに決まっている順番があって、それは朱音殿下なのだけれど、小さすぎるからしばらく緋色が皇太子をしてはどうか、という人もいたのだと緋色は言った。その場合は、皇帝の弟だから皇太弟になるらしい。まあ、呼び方はどうでもいいんだけど。緋色は、冗談じゃない! と部屋で吠えた。
「俺は、皇子もやめたいってずっと言ってんのに、ちっともやめさせてくれない。これ以上、偉くなってたまるか!」
「そうだね」
偉くなれば、何でも思い通りになるかと言えばそうでもない。そうでもないどころか、なかなか思い通りにならないことが多いような気がする。たとえば今、西中国に戻れないみたいに。
まあ、緋色が皇太弟になる案は、緋色が猛反対をして、他にも反対する人がたくさんいて無しになったらしい。その代わり、これからも皇弟として私の手伝いを頼むよ、と朱実殿下に言われて、緋色は、はい、と言うしかなかったそうだ。
うん。ままならないね。
俺もたまに思う。
伴侶の証を左手の薬指に付けるのだと聞いたときに、どうして今、俺の左手はないのだろうと悲しかった。どちらかの腕を失わなければいけなかったのなら、右手であれば良かったのに。でも、左手が残った半助は、壱臣を抱きしめてあげられる関係になった時に片手しかなかったことが悔しい、って言っていた。どちらかを選ぶってものでもないんだよね。両手があれば、拍手も包拳礼もできる。緋色を両手で抱きしめられる。そうだな。両手があれば良かったな。
鶴丸たちは西中国の当主家になんてなりたくなかった。梅光も、西賀国の当主になりたいなんて思っていなかった。西中国の当主でいたかった真中たちは、色々と上手くできなくて当主でいられなくなった。
母さまは、皇妃のお仕事に疲れて病気になったんだそうだ。
みんな、それぞれままならないことがある。
それでも。
それでも、緋色が皇子として戦場に来てくれたから俺たちは出会えたのだとしたら、緋色が皇子で良かった、と俺は思う。俺は戦闘人形で良かった、って。
だって、ままならないことがあっても、やっぱり、こうして二人でくっついていられる今が幸せだから。
「緋色、大好きだよ」
ずっと。
これまでも大好きだった。これからも大好きだ。
「当たり前だ」
俺は緋色にキスをする。大好きの気持ちがこもったキスを。
「幸せ」
「まあ、うん。俺も」
ままならないこともあるけれど、緋色と一緒に居られる俺は、やっぱり今日も幸せだ。きっと明日も。その次も。
終わり
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あり様
感想を送ってくださり、ありがとうございます。
何度も読み返してくださって、大好きと仰ってくださって、とても嬉しいです!
とうかなな様
いつも感想を送ってくださり、ありがとうございます。
状況はちっともほんわかしていない(まだ戦中)のですが、すでに二人は仲良しだった頃ですね😊
常陸丸のことも、優しい目線で見守ってくださり嬉しいです!
繰り返し楽しんで頂けて幸いです。
とうかなな様
いつも感想を送って下さり、ありがとうございます。
先まで読んだ上で、始めの頃の成人の不遇に憤ってくださってありがたいです。足の小指を椅子にぶつける呪い、地味に効きそう(笑)
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