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第十章 されど幸せな日々
99 おうちなんだから 成人
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「利胤さま!? おかえりなさい? びっくりやー。帰るって聞いてへんかったですよ、うち」
壱臣も、厨房からぱたぱたと出てきた。その後ろに、すたすた歩く源さん。壱臣も、おかえりなさいの語尾が上がっている。だよね? 聞いてないよね?
「うむ。年始の集まりに九条家の代表は行かなくてもええんやろか、と三郎が気に病むのでな。緋色殿下の迎えも来ぬし、まあええ、と一度はわしは言うたんじゃ。じゃが、このままでは、生松先生が一人で出席する事になるんでは、と三郎がまた言うもんで、そりゃあいかんと飛んで帰ってきた次第。あれは、生松は、堅苦しい場を苦手としとるでな。共に行くか、わしと三郎が行くかした方が、誰にとっても良かろう。思い立ったが吉日じゃ。すぐに車を借りて帰ってきたわい。ははっ。どうじゃ、三郎。間に合うたじゃろう」
「なるほど?」
思い立ったが吉日? すぐに?
そりゃまあ、誰も、じいじと三郎が帰ってくることを知らないはずだねえ。
「私は、とりあえず連絡をしましょう言うたんです。けど、お祖父さまが、そんな暇は無い。出席するならもう帰らんと間に合わん言うて、あっという間に車に乗せられてしもて……」
「そっかー」
「ほんま、すみません。こんな急な……」
「ん。まあ、いいよ」
「けど……」
「三郎のおうちなんだから、好きな時に帰ってきたらいいよ」
「……っ」
三郎は、ぱちりと目を見開いて俺を見た。ん? なに?
「はっはっはっ。だから言うたじゃろ、三郎。家へ帰るだけじゃから、何も心配いらんと」
「いや、その……はい」
三郎は口に手を当てて、うつむく。手で見えなくなる前の口元が、ゆるりと笑っているような気がした。
「お昼ご飯、まだ食べとらんのですか?」
壱臣が首を傾げる。もうお昼ご飯は済んで、遊んでいた時間だもんね。壱臣たちも食べ終わった頃かな?
「うむ。真っ直ぐに帰ってきてしもうたわい。運転中は飲めんからな」
「それが本音ですわね、おじさま」
乙羽がすかさず言った。
じいじ、お酒が飲みたくて急いで帰ってきたのか。あはは。相変わらずだなあ。
「正月なんじゃから、飲むじゃろ」
「正月でなくても飲むでしょ、おじさまは」
「はっはっはっ。バレたか! 年始の集まりの酒も楽しみじゃの。皇城の秘蔵品は格別じゃからなあ」
あれ? じいじ、お酒を飲みに帰ってきたの? いや、でも、生松が年始の集まりに一人で出て困らないようにって……?
ま、いっか。
「いきなり帰ってきてご飯があると思うたら大間違い、と言いたいとこやけど、正月なんでおせちがありますよ、利胤さま。お酒は温めますか?」
「ほほっ。さすが、壱臣。話が早い。熱いのをまずは一本」
「一本だけだよ」
「一本だけですわよ」
「一本だけですよ」
俺と乙羽と三郎の声が重なった。
本当は、お昼ご飯の時はお酒は無しなんだからね。いつもは、お酒は夜ご飯の時だけの約束だけど、お正月は特別に飲んでも良かったことを、今思い出した。去年もそうだった。でも、一本だけにしなさい、って斎も生松も睦峯も言っていた。
皆、覚えてるよ、じいじ。
「やれやれ。見張りが多くて敵わん」
じいじは、敵わんって言いながら嬉しそうに笑った。
壱臣も、厨房からぱたぱたと出てきた。その後ろに、すたすた歩く源さん。壱臣も、おかえりなさいの語尾が上がっている。だよね? 聞いてないよね?
「うむ。年始の集まりに九条家の代表は行かなくてもええんやろか、と三郎が気に病むのでな。緋色殿下の迎えも来ぬし、まあええ、と一度はわしは言うたんじゃ。じゃが、このままでは、生松先生が一人で出席する事になるんでは、と三郎がまた言うもんで、そりゃあいかんと飛んで帰ってきた次第。あれは、生松は、堅苦しい場を苦手としとるでな。共に行くか、わしと三郎が行くかした方が、誰にとっても良かろう。思い立ったが吉日じゃ。すぐに車を借りて帰ってきたわい。ははっ。どうじゃ、三郎。間に合うたじゃろう」
「なるほど?」
思い立ったが吉日? すぐに?
そりゃまあ、誰も、じいじと三郎が帰ってくることを知らないはずだねえ。
「私は、とりあえず連絡をしましょう言うたんです。けど、お祖父さまが、そんな暇は無い。出席するならもう帰らんと間に合わん言うて、あっという間に車に乗せられてしもて……」
「そっかー」
「ほんま、すみません。こんな急な……」
「ん。まあ、いいよ」
「けど……」
「三郎のおうちなんだから、好きな時に帰ってきたらいいよ」
「……っ」
三郎は、ぱちりと目を見開いて俺を見た。ん? なに?
「はっはっはっ。だから言うたじゃろ、三郎。家へ帰るだけじゃから、何も心配いらんと」
「いや、その……はい」
三郎は口に手を当てて、うつむく。手で見えなくなる前の口元が、ゆるりと笑っているような気がした。
「お昼ご飯、まだ食べとらんのですか?」
壱臣が首を傾げる。もうお昼ご飯は済んで、遊んでいた時間だもんね。壱臣たちも食べ終わった頃かな?
「うむ。真っ直ぐに帰ってきてしもうたわい。運転中は飲めんからな」
「それが本音ですわね、おじさま」
乙羽がすかさず言った。
じいじ、お酒が飲みたくて急いで帰ってきたのか。あはは。相変わらずだなあ。
「正月なんじゃから、飲むじゃろ」
「正月でなくても飲むでしょ、おじさまは」
「はっはっはっ。バレたか! 年始の集まりの酒も楽しみじゃの。皇城の秘蔵品は格別じゃからなあ」
あれ? じいじ、お酒を飲みに帰ってきたの? いや、でも、生松が年始の集まりに一人で出て困らないようにって……?
ま、いっか。
「いきなり帰ってきてご飯があると思うたら大間違い、と言いたいとこやけど、正月なんでおせちがありますよ、利胤さま。お酒は温めますか?」
「ほほっ。さすが、壱臣。話が早い。熱いのをまずは一本」
「一本だけだよ」
「一本だけですわよ」
「一本だけですよ」
俺と乙羽と三郎の声が重なった。
本当は、お昼ご飯の時はお酒は無しなんだからね。いつもは、お酒は夜ご飯の時だけの約束だけど、お正月は特別に飲んでも良かったことを、今思い出した。去年もそうだった。でも、一本だけにしなさい、って斎も生松も睦峯も言っていた。
皆、覚えてるよ、じいじ。
「やれやれ。見張りが多くて敵わん」
じいじは、敵わんって言いながら嬉しそうに笑った。
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