【完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

72 計画は万全  成人

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 打ち合う二人を目で追う。つごもり半助はんすけ。木刀。二人とも短めのもの。半助は、気合い入れて来てくださいって言っただけあって、最初から激しかった。がんっ、がんっとものすごい力で打ちつけていく。つごもりから仕掛けたはずなのに、つごもりがだんだん防戦一方だ。
 力はそんなに変わらないな。速さも変わらない。身軽なのはつごもりの方。でも、押されていく。

「分かりますか、成人なるひとさま」
「んー?」

 なんで、こんなに押されていくのか。
 いよいよ押し込まれたつごもりは、思い切り木刀を振った。がきんっと音がして半助の木刀が飛んでいく。お、反撃だ、と思ったのに、何故かそこで一瞬、つごもりは怯んだ。その隙に半助の足が振り上がってつごもりの木刀を蹴り飛ばし、その足をそのままつごもりの体目掛けて落とす。間一髪避けたつごもりの腹に、半助の左の肘打ち。うわ、入ったな。

「参った」
「次」

 半助は、飛んでいった木刀を拾いに行きながら言った。
 蹲って唸っているつごもりの方にまだ注意は向けている。

「えええ。隊長がやられた後で、俺たちにどうせい、と?」
「来ないならこちらからいくぞ」
「いきますいきます」

 まゆが、落ちていたつごもりの木刀を拾って走る。そのまま、半助の正面以外の場所へ回り込もうとぐるぐる走り回った。でもまあ、そんなの、すぐ捕まるよね。敵わないって分かっていても、見えてしまっていて回り込むのはあまりいい手じゃない。存在を気付かれていなければ、そうして正面以外の場所からの攻撃が有効なことも多いんだけれど。
 まゆの後に手合わせにいった三十日みそか小望こもちも、似たような戦法を取った。
 皆、色んな形で吹っ飛ばされた。

「正面からいかないね」

 つごもりは正面からいったけど、思い切り振った自分の木刀が半助の木刀を飛ばしたことに驚いていた。

「気付かれましたか。流石。どうやら、人を相手の正面からの戦いに慣れていないようです」
「へえ」

 捕まえた一回で気付いたの?

隠形おんぎょうはなかなかのものでした。そちらに振り切って育てるのは、西賀さいか国ならありです。あの国では、正面からの戦いの相手は獣ですからね。人を相手に拳をふるうようなことはまずないお国柄ですから。それに、領主家は皆、自らの身を自ら守れますからなあ。正面からのぶつかり合いの必要はなかったのでしょう」
「人を殺してはいけません?」

 戦場ではない場所で生きる人たちの決まり事だから、それは当たり前か。

「ではなく、正面から向き合った時に殺さないで済む手加減ができていない、といったところです。正面から向き合った獣は殺しますし、人を相手の時は正面からいくのではない方法ばかりを叩きこまれているのかと」
「ふーん?」

 一ノ瀬も正面から向き合うことは少ないから一緒じゃない?

一ノ瀬うちは、どのくらいで人が壊れるのかを徹底的に仕込みますからな。とにかく人と、正面から何度もやり合って体に叩き込ませます。ほどほどに痛めつけて捕まえて、情報を聞き出さねばならぬ場面も多々ありますから。あやつらも、これからはそういった場面に多く出くわすでしょうから、慣れておかねばなりません」
「そうか」

 ん?

「なんで、手合わせ相手は半助?」
「正面から戦うことに慣れている者の中で、最も気配が消せますからな。学ぶことは多いでしょう」
「おおお」

 色々考えられている!
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