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第十章 されど幸せな日々
65 みいつけた 成人
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「あれ?」
「ほう」
「……っ」
俺が違和感を感じた時にはもう、その人はじいやに捕まっていた。
惜しい。着ていたのが西中国の使用人用の着物じゃなかったら、捕まっていなかったかもしれない。西中国の使用人用の着物はちょっと動きにくいんですって、西賀国の使用人たちは言っていたから。
そのくらい、その人の反応は速かった。その反応の速さで、やっぱりこの人に感じた違和感は正しかったんだって分かる。
特別におかしいところがあったわけじゃない。ちゃんと、散歩している俺と亀吉が通り過ぎる時には立ち止まって頭を下げていたし、気配がないわけでもなくあるわけでもなかったんだけれども。
なんだろう。何故か、ふと……。
「お主、先ほども会ったな」
ああ、それ? それか。
二度目? 三度目? それを俺が認識していないのがまたおかしい。だって、なんとなく分かるよね。使用人たちは、俺が横を通るときには頭を下げていて顔が見えないけれど、それでもなんとなく。あ、この人さっきも会った人だな、とか分かる。ついさっきなら特に。それが、この人は分からなかった。うん。おかしい。
どこに行くか分からない俺たちに何度も会うのもおかしい。
部屋での積み木遊びやおままごと遊びに飽きて散歩に出た亀吉は、どこに行くともなくうろうろする。階段の上り下りが好きな亀吉は多分、階段のある場所を目指している。たぶん。でも、簡単にはたどり着かない。何か気になるものがあれば止まっちゃうし、違う方向に行っちゃう。広い西中国のお城の、階段のある場所への道をちゃんと覚えているのかも怪しい。
そんな感じで適当にふらふらしている俺たち。
仕事中の人の邪魔は、なるべくしないように気を付けている俺たち。
その俺たちに、何回も出会う?
「は? いえ。何のことやら……。あ、いや。すみませんすみません」
その人は、じいやに捕まった瞬間にまた、ふ、と力を抜いていた。じいやに腕を掴まれたまま、ぺこぺこと頭を下げている様子には何もおかしなところはなくて、おかしい。
「何か、その粗相を……」
まだ何か言おうとするその人に、はあ、と今日も一緒にお城散歩をしていた香月がため息を吐いた。
「晦さま。もう無理かと……」
「あ? 香月、お前。お前が話しかけたらもうあかんやん」
「いえ、あの、捕まった時点でもうあかんでしょ……」
「いいや、まだいけた。なんやこう、もうちょっと話をして油断を誘ってやな」
香月は、もう一度ため息を吐く。
いけるわけないよねえ。じいやに捕まって、いや、認識されて、逃げられるわけがない。
ててっ、と亀吉がその人に近寄って、顔を覗き込んだ。
「ちゅももい? おお、ちゅももい」
西賀国の人。亀吉と香月が知っている人。
じいやから、逃げられそうだった人。
じいやがにんまり笑った。
「みいつけた」
「ほう」
「……っ」
俺が違和感を感じた時にはもう、その人はじいやに捕まっていた。
惜しい。着ていたのが西中国の使用人用の着物じゃなかったら、捕まっていなかったかもしれない。西中国の使用人用の着物はちょっと動きにくいんですって、西賀国の使用人たちは言っていたから。
そのくらい、その人の反応は速かった。その反応の速さで、やっぱりこの人に感じた違和感は正しかったんだって分かる。
特別におかしいところがあったわけじゃない。ちゃんと、散歩している俺と亀吉が通り過ぎる時には立ち止まって頭を下げていたし、気配がないわけでもなくあるわけでもなかったんだけれども。
なんだろう。何故か、ふと……。
「お主、先ほども会ったな」
ああ、それ? それか。
二度目? 三度目? それを俺が認識していないのがまたおかしい。だって、なんとなく分かるよね。使用人たちは、俺が横を通るときには頭を下げていて顔が見えないけれど、それでもなんとなく。あ、この人さっきも会った人だな、とか分かる。ついさっきなら特に。それが、この人は分からなかった。うん。おかしい。
どこに行くか分からない俺たちに何度も会うのもおかしい。
部屋での積み木遊びやおままごと遊びに飽きて散歩に出た亀吉は、どこに行くともなくうろうろする。階段の上り下りが好きな亀吉は多分、階段のある場所を目指している。たぶん。でも、簡単にはたどり着かない。何か気になるものがあれば止まっちゃうし、違う方向に行っちゃう。広い西中国のお城の、階段のある場所への道をちゃんと覚えているのかも怪しい。
そんな感じで適当にふらふらしている俺たち。
仕事中の人の邪魔は、なるべくしないように気を付けている俺たち。
その俺たちに、何回も出会う?
「は? いえ。何のことやら……。あ、いや。すみませんすみません」
その人は、じいやに捕まった瞬間にまた、ふ、と力を抜いていた。じいやに腕を掴まれたまま、ぺこぺこと頭を下げている様子には何もおかしなところはなくて、おかしい。
「何か、その粗相を……」
まだ何か言おうとするその人に、はあ、と今日も一緒にお城散歩をしていた香月がため息を吐いた。
「晦さま。もう無理かと……」
「あ? 香月、お前。お前が話しかけたらもうあかんやん」
「いえ、あの、捕まった時点でもうあかんでしょ……」
「いいや、まだいけた。なんやこう、もうちょっと話をして油断を誘ってやな」
香月は、もう一度ため息を吐く。
いけるわけないよねえ。じいやに捕まって、いや、認識されて、逃げられるわけがない。
ててっ、と亀吉がその人に近寄って、顔を覗き込んだ。
「ちゅももい? おお、ちゅももい」
西賀国の人。亀吉と香月が知っている人。
じいやから、逃げられそうだった人。
じいやがにんまり笑った。
「みいつけた」
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