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第十章 されど幸せな日々
61 本当はいないらしい 成人
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「魑魅魍魎か。そうじゃな、様々な化け物、妖怪の類じゃ。人ならざるものじゃな」
じいじは、少しだけ考えてから言った。
「人ならざるもの」
人でない? 人になれない?
俺は、緋色に名前をもらって人になった。魑魅魍魎は、緋色に名前をもらう前の俺?
なんとなく納得して頷く。
「成人。今、何に納得した?」
「ん? 魑魅魍魎、分かった」
「分かった? 絵本か?」
緋色に言われてみると、なるほどだ。絵本によく出てくる鬼も、人ならざるものだな。
「おお」
「絵本じゃなかったのか。なら、利胤や荘重でも思い浮かべたか?」
「え?」
「これも違うのか?」
「む、緋色殿下、聞き捨てなりませんな。誰が魑魅魍魎か。どこからどう見ても、ただの酒好きのじじいではありませんか」
「ふはっ」
じいじやじいやは強すぎだから、人ならざるもの? そうかも?
俺の持っている絵本にはいなかったけれど、探せばいそう。酒好きの優しい、人でない何か。やっぱり鬼かな。泣いたり笑ったりして、人と友だちになる鬼とかもいるのかも。そんな鬼とかも、人ならざるものだから魑魅魍魎かな?
なんだろう。よく分かんないけど、そういうのは魑魅魍魎じゃないような気がする。よく分かんないけど。
「ふふ」
横で聞いていた家老って人も、俺と一緒に笑っていた。
「九条さまは、人外の強さをお持ちとお見受け致します。しかしながら、魑魅魍魎いうんは、人から外れた何かを持つ方を指すもんではなく……あ、すみません。失礼を致しました」
目が合うと笑ったまま話し始めて、慌てて途中でやめた。やめなくていいのに。
「いいよー。続き続き」
「あ、えーと」
家老が緋色の方をちら、と見ると、緋色は面倒くさそうに手を振った。
「気にせず話せ」
だよね。
「途中で終わると気になるだろうが」
ほんとほんと。緋色への礼儀を気にして話せないっていうなら、後で俺が、一人で続きを聞きにいっちゃうよ?
「は。あの、それでは失礼を致しまして。私が思いますに、魑魅魍魎は、人ならざるものやなく、善良な人に害をなすものいう認識です。やから、九条さまは魑魅魍魎やないです」
「なるほどね」
「いや待て。お主、まずはわしを、人ならざるものの前提で話すでない」
「は。こ、これは失礼を」
「は。はははは。人外。ははは」
分かりやすい、と俺は納得しかけたんだけど、ちょっと違うの? まあ、じいじはただの人ではないよね。じいやもね。
「んー。でもやっぱり俺は魑魅魍魎だったかも」
「は?」
笑っていた緋色が、ぴたりと止まった。
「今は違うけど」
「あー。分かったって、そういうことか」
「ん?」
「いや。魑魅魍魎はな。なんだ、ほら、例え話だ、例え話。化け物なんて本当はいないだろ」
「俺は見たことない」
「俺もだ。だから、善良な人間に害をなす人間を指してそういうんだよ。そういう例え話」
「ふーん」
そっか。魑魅魍魎は本当はいない。俺、魑魅魍魎じゃなかった?
「西中国の城や領地にはまだ、各務家へ不満を持つ者が多い。隠し持った武力があるなら出し惜しみせずさっさと連れて来いと、利胤は言ったのさ」
難しい。
じいじは、少しだけ考えてから言った。
「人ならざるもの」
人でない? 人になれない?
俺は、緋色に名前をもらって人になった。魑魅魍魎は、緋色に名前をもらう前の俺?
なんとなく納得して頷く。
「成人。今、何に納得した?」
「ん? 魑魅魍魎、分かった」
「分かった? 絵本か?」
緋色に言われてみると、なるほどだ。絵本によく出てくる鬼も、人ならざるものだな。
「おお」
「絵本じゃなかったのか。なら、利胤や荘重でも思い浮かべたか?」
「え?」
「これも違うのか?」
「む、緋色殿下、聞き捨てなりませんな。誰が魑魅魍魎か。どこからどう見ても、ただの酒好きのじじいではありませんか」
「ふはっ」
じいじやじいやは強すぎだから、人ならざるもの? そうかも?
俺の持っている絵本にはいなかったけれど、探せばいそう。酒好きの優しい、人でない何か。やっぱり鬼かな。泣いたり笑ったりして、人と友だちになる鬼とかもいるのかも。そんな鬼とかも、人ならざるものだから魑魅魍魎かな?
なんだろう。よく分かんないけど、そういうのは魑魅魍魎じゃないような気がする。よく分かんないけど。
「ふふ」
横で聞いていた家老って人も、俺と一緒に笑っていた。
「九条さまは、人外の強さをお持ちとお見受け致します。しかしながら、魑魅魍魎いうんは、人から外れた何かを持つ方を指すもんではなく……あ、すみません。失礼を致しました」
目が合うと笑ったまま話し始めて、慌てて途中でやめた。やめなくていいのに。
「いいよー。続き続き」
「あ、えーと」
家老が緋色の方をちら、と見ると、緋色は面倒くさそうに手を振った。
「気にせず話せ」
だよね。
「途中で終わると気になるだろうが」
ほんとほんと。緋色への礼儀を気にして話せないっていうなら、後で俺が、一人で続きを聞きにいっちゃうよ?
「は。あの、それでは失礼を致しまして。私が思いますに、魑魅魍魎は、人ならざるものやなく、善良な人に害をなすものいう認識です。やから、九条さまは魑魅魍魎やないです」
「なるほどね」
「いや待て。お主、まずはわしを、人ならざるものの前提で話すでない」
「は。こ、これは失礼を」
「は。はははは。人外。ははは」
分かりやすい、と俺は納得しかけたんだけど、ちょっと違うの? まあ、じいじはただの人ではないよね。じいやもね。
「んー。でもやっぱり俺は魑魅魍魎だったかも」
「は?」
笑っていた緋色が、ぴたりと止まった。
「今は違うけど」
「あー。分かったって、そういうことか」
「ん?」
「いや。魑魅魍魎はな。なんだ、ほら、例え話だ、例え話。化け物なんて本当はいないだろ」
「俺は見たことない」
「俺もだ。だから、善良な人間に害をなす人間を指してそういうんだよ。そういう例え話」
「ふーん」
そっか。魑魅魍魎は本当はいない。俺、魑魅魍魎じゃなかった?
「西中国の城や領地にはまだ、各務家へ不満を持つ者が多い。隠し持った武力があるなら出し惜しみせずさっさと連れて来いと、利胤は言ったのさ」
難しい。
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