1,263 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
54 一人でお風呂に入った日 成人
しおりを挟む
「わああ」
ガラス戸の向こうは、入ってみれば湯気で埋もれてなんかいなかった。ちゃんと周りが見えた。
外から見たら、中は湯気でいっぱいで、あんまり周りは見えないんだろうな、って思っていたのに。
広い。大きい。びっくり。髪や体を洗うところがたくさんある。湯船も、たくさんある。大きい湯船。小さくて、ぶくぶくと泡が出ている湯船。深いの。浅いの。電気風呂? 何それ。
「おおお」
一番大きい湯船の上の壁に、何か絵が描いてある。山? 山だな、山。お風呂なのに山? なんでー?
「緋色。なんで山?」
「ん? 山? おう。山だな……」
あれ? 緋色も知らないのか。緋色でも知らないことあるんだな。
後で安さんに聞いてみよう。何で山の絵が書いてあるの? って。
なんか、いい感じなんだけどさ。山の絵が、ないよりあった方がいい感じ。お風呂屋さんって感じ。
そういう事?
いや、まあ、お風呂屋さんに初めて来たから分かんないんだけど。
「ゆっくり歩けよ。滑るぞ」
「ん」
お風呂でこんなに歩き回ることないもんね。気を付けないと。
「まずは湯をかぶれ。冷える」
「大丈夫」
中は、お湯から出る湯気で温かい。
でも、まあ、お風呂なんだから、お湯はかぶらないと駄目だな。
一番大きな湯船のお湯を桶ですくって、足の下の方にかけてみた。うん。熱い。やっぱりだ。朝、ここの湯はちと熱い、と誰かが言ってたのを覚えてる。貸し切りの時は温くしてもらうようにお願いしたんだけど、それでも熱い。
「ここは熱い」
「そうか」
手に持ってきたお風呂セットを洗い場に置いて、ざば、と勢いよく体に湯をかけた緋色は、お、と言った。
緋色は熱い湯が好きだから、ここがいいかも。
俺は泡のとこ行ってみよう。
「気をつけろよ」
「大丈夫」
泡のお風呂は、小さくて深い。何故か、下から横から泡がぶくぶくぶくぶく出ている。ここのお湯も、すくって足にかけてみた。大きい湯船ほどじゃないけど熱い。
「むー」
なんだ。桶ですくったら、泡無くなるんだな。足にかけても普通のお湯だった。湯船の中に入らないと泡のお湯のままじゃないのかぁ。泡の中に入ってみたいけど、ちょっと熱いんだよな、ここ。……次行こ。
浅い湯船は、いい感じの熱さだった。ざぱざぱとお湯をすくって体にかける。おお、俺、ここがいい。ちょうどいい。でも、浅いし、変な形の湯船だな。これも湯船って言うのかな?
見渡すと、すぐ上の壁に、寝転がって入ってください、って説明の図が貼ってあった。なるほど。寝転がって入るから浅いのか。
……。
やろうかな。俺、ここに入ろうかな。いい感じの熱さだし。うん。一人ずつしか入れないけど。……うん。よし。一人で入ろう。
よし、と決めて立ち上がると、緋色が熱い湯船から上がって側に来てくれた。
「これに入るのか?」
「ん。入る」
「これ、一緒に入れないぞ」
「ん。一人で入る」
「……そうか」
これは一人用だからね。緋色と一緒に入れないから。俺、一人でお風呂に入るよ。入っちゃう。
側に来てくれた緋色の手を握って、一人で寝転がってみた。
「ふわ」
「どうした?」
「気持ちいい~」
「そうか」
ちょうどいい熱さのお湯が、ちゃぷちゃぷと寝転がった体にかかる。頭を乗せるところに頭を置いて寝転がっていると、ふわふわと浮いているみたいだ。ずっとこうして居られそう。
「ふわ~」
「いや、これ、風呂に入った気しないぞ?」
手を握ったまま隣に寝転がった緋色が何か言っているけど、知らなーい。
俺、もう少しここに入ってる。緋色は熱いところに行ってきていいよ?
ガラス戸の向こうは、入ってみれば湯気で埋もれてなんかいなかった。ちゃんと周りが見えた。
外から見たら、中は湯気でいっぱいで、あんまり周りは見えないんだろうな、って思っていたのに。
広い。大きい。びっくり。髪や体を洗うところがたくさんある。湯船も、たくさんある。大きい湯船。小さくて、ぶくぶくと泡が出ている湯船。深いの。浅いの。電気風呂? 何それ。
「おおお」
一番大きい湯船の上の壁に、何か絵が描いてある。山? 山だな、山。お風呂なのに山? なんでー?
「緋色。なんで山?」
「ん? 山? おう。山だな……」
あれ? 緋色も知らないのか。緋色でも知らないことあるんだな。
後で安さんに聞いてみよう。何で山の絵が書いてあるの? って。
なんか、いい感じなんだけどさ。山の絵が、ないよりあった方がいい感じ。お風呂屋さんって感じ。
そういう事?
いや、まあ、お風呂屋さんに初めて来たから分かんないんだけど。
「ゆっくり歩けよ。滑るぞ」
「ん」
お風呂でこんなに歩き回ることないもんね。気を付けないと。
「まずは湯をかぶれ。冷える」
「大丈夫」
中は、お湯から出る湯気で温かい。
でも、まあ、お風呂なんだから、お湯はかぶらないと駄目だな。
一番大きな湯船のお湯を桶ですくって、足の下の方にかけてみた。うん。熱い。やっぱりだ。朝、ここの湯はちと熱い、と誰かが言ってたのを覚えてる。貸し切りの時は温くしてもらうようにお願いしたんだけど、それでも熱い。
「ここは熱い」
「そうか」
手に持ってきたお風呂セットを洗い場に置いて、ざば、と勢いよく体に湯をかけた緋色は、お、と言った。
緋色は熱い湯が好きだから、ここがいいかも。
俺は泡のとこ行ってみよう。
「気をつけろよ」
「大丈夫」
泡のお風呂は、小さくて深い。何故か、下から横から泡がぶくぶくぶくぶく出ている。ここのお湯も、すくって足にかけてみた。大きい湯船ほどじゃないけど熱い。
「むー」
なんだ。桶ですくったら、泡無くなるんだな。足にかけても普通のお湯だった。湯船の中に入らないと泡のお湯のままじゃないのかぁ。泡の中に入ってみたいけど、ちょっと熱いんだよな、ここ。……次行こ。
浅い湯船は、いい感じの熱さだった。ざぱざぱとお湯をすくって体にかける。おお、俺、ここがいい。ちょうどいい。でも、浅いし、変な形の湯船だな。これも湯船って言うのかな?
見渡すと、すぐ上の壁に、寝転がって入ってください、って説明の図が貼ってあった。なるほど。寝転がって入るから浅いのか。
……。
やろうかな。俺、ここに入ろうかな。いい感じの熱さだし。うん。一人ずつしか入れないけど。……うん。よし。一人で入ろう。
よし、と決めて立ち上がると、緋色が熱い湯船から上がって側に来てくれた。
「これに入るのか?」
「ん。入る」
「これ、一緒に入れないぞ」
「ん。一人で入る」
「……そうか」
これは一人用だからね。緋色と一緒に入れないから。俺、一人でお風呂に入るよ。入っちゃう。
側に来てくれた緋色の手を握って、一人で寝転がってみた。
「ふわ」
「どうした?」
「気持ちいい~」
「そうか」
ちょうどいい熱さのお湯が、ちゃぷちゃぷと寝転がった体にかかる。頭を乗せるところに頭を置いて寝転がっていると、ふわふわと浮いているみたいだ。ずっとこうして居られそう。
「ふわ~」
「いや、これ、風呂に入った気しないぞ?」
手を握ったまま隣に寝転がった緋色が何か言っているけど、知らなーい。
俺、もう少しここに入ってる。緋色は熱いところに行ってきていいよ?
1,357
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】伝説の勇者のお嫁さん!気だるげ勇者が選んだのはまさかの俺
福の島
BL
10年に1度勇者召喚を行う事で栄えてきた大国テルパー。
そんなテルパーの魔道騎士、リヴィアは今過去最大級の受難にあっていた。
異世界から来た勇者である速水瞬が夜会のパートナーにリヴィアを指名したのだ。
偉大な勇者である速水の言葉を無下にもできないと、了承したリヴィアだったが…
溺愛無気力系イケメン転移者✖️懐に入ったものに甘い騎士団長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる