1,255 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
46 もう一人の行方 西賀国役人
しおりを挟む
「遅かったな。どっかで昼ご飯もろて来たんか?」
やっと全員届け終えて城へ戻ると、会う人ごとにそう言われた。
「そんな訳あるか。お腹ぺこぺこや」
「え? 昼ご飯まだなん? 残ってたかな? どこまで行ってきたん?」
「げ。もう昼残っとらん? ここに戻ってきて食べるって朝に言うといたんやけど。あー、でも、すぐ戻れる思てたから遅なるとは言うとらんな。うわあ、しもた。店のある方へ行って食ってくりゃ良かったかな。あー、でも、あんまり金を持っていっとらんかったからなー。行ったんは、ほら、予定通りのとこやで。果実の畑んとこと積み木の工場んとこと、その先の木材の加工場」
「はは。それでこんな時間になる訳ないやん。どんだけ寄り道したんや」
「途中で獣でも出て、退治してきたんか?」
特に仲の良い相手と詳しく話しとったら、近くで聞いとった別の者も口を挟んできた。
「そんな訳あるか。西中国の人ら、すごい歩くんが苦手やったみたいでな。まあ、進まんかった。ほんまに、進まんかった」
「はは。そうか。お疲れさん」
「大変やったな」
現金なもんで、そうやって労われると、もうちょい頑張ろかと思えてくる。
「とりあえず、なんか食べてき」
「厨房行けば、なんかもらえるやろ」
「あ、そやな」
残りのもう一人を連れて行くんは、ご飯の後でもええやろ。どうせまた進まん。
厨房には、しっかり一人分の食事が残されとった。ああ、ありがとう。腹減った。
え? 汁や煮物の温め直しをするから待てって? ええよ、ええよ、そんなん。このままでええ。
え? あかん? どうせなら美味しいものを?
ああ、はいはい。
「そういや、西中国から連れてこられたうちの一人は、放免、いうことになったらしいですよ」
「へ?」
「あれ? 聞いとりませんか?」
「ああ。今、帰ったとこやしな。使いも来んかった」
「そうでしたか。まあ、なんや、その、放免する事にしたけど、何の手持ちもない人やからって、あんまり使てない小屋を片付けて置いてやったらしいです。凍えてしもたら事やでって、火鉢も置いて」
「へええ」
そういう指示を出すんは千代さまやな、きっと。何があったか知らんが、優しいあの人が、放免やのなんやの言うてほんまに放り出せる訳がない。
「そんで、まあ、なんかしてもなんもせんでもお腹が空くやろで、食べ物欲しいって頭を下げてきたら、なんか上げてほしいって、ち、奥様が」
「なるほど」
放免できん人やなあ。
「そんで、言うてきたんか? その人。腹減ったって」
「いや。厨房には来とらんみたいです」
「そうかー」
ご飯を食べたら様子を見に行くか。
まあ、ちょっとだけ。
やっと全員届け終えて城へ戻ると、会う人ごとにそう言われた。
「そんな訳あるか。お腹ぺこぺこや」
「え? 昼ご飯まだなん? 残ってたかな? どこまで行ってきたん?」
「げ。もう昼残っとらん? ここに戻ってきて食べるって朝に言うといたんやけど。あー、でも、すぐ戻れる思てたから遅なるとは言うとらんな。うわあ、しもた。店のある方へ行って食ってくりゃ良かったかな。あー、でも、あんまり金を持っていっとらんかったからなー。行ったんは、ほら、予定通りのとこやで。果実の畑んとこと積み木の工場んとこと、その先の木材の加工場」
「はは。それでこんな時間になる訳ないやん。どんだけ寄り道したんや」
「途中で獣でも出て、退治してきたんか?」
特に仲の良い相手と詳しく話しとったら、近くで聞いとった別の者も口を挟んできた。
「そんな訳あるか。西中国の人ら、すごい歩くんが苦手やったみたいでな。まあ、進まんかった。ほんまに、進まんかった」
「はは。そうか。お疲れさん」
「大変やったな」
現金なもんで、そうやって労われると、もうちょい頑張ろかと思えてくる。
「とりあえず、なんか食べてき」
「厨房行けば、なんかもらえるやろ」
「あ、そやな」
残りのもう一人を連れて行くんは、ご飯の後でもええやろ。どうせまた進まん。
厨房には、しっかり一人分の食事が残されとった。ああ、ありがとう。腹減った。
え? 汁や煮物の温め直しをするから待てって? ええよ、ええよ、そんなん。このままでええ。
え? あかん? どうせなら美味しいものを?
ああ、はいはい。
「そういや、西中国から連れてこられたうちの一人は、放免、いうことになったらしいですよ」
「へ?」
「あれ? 聞いとりませんか?」
「ああ。今、帰ったとこやしな。使いも来んかった」
「そうでしたか。まあ、なんや、その、放免する事にしたけど、何の手持ちもない人やからって、あんまり使てない小屋を片付けて置いてやったらしいです。凍えてしもたら事やでって、火鉢も置いて」
「へええ」
そういう指示を出すんは千代さまやな、きっと。何があったか知らんが、優しいあの人が、放免やのなんやの言うてほんまに放り出せる訳がない。
「そんで、まあ、なんかしてもなんもせんでもお腹が空くやろで、食べ物欲しいって頭を下げてきたら、なんか上げてほしいって、ち、奥様が」
「なるほど」
放免できん人やなあ。
「そんで、言うてきたんか? その人。腹減ったって」
「いや。厨房には来とらんみたいです」
「そうかー」
ご飯を食べたら様子を見に行くか。
まあ、ちょっとだけ。
1,015
お気に入りに追加
4,779
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。
BBやっこ
BL
実家は商家。
3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。
趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。
そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。
そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる