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第十章 されど幸せな日々
30 放免 成人
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「あ、無礼討ち」
「……っ」
「無礼討ちするんだよね」
元真中が身分の高かった時に、身分の低い人へくだしていた罰。無礼討ちじゃない? 九鬼のお城で、元真中が鶴丸に言っていた。あの時は、同じ身分の者同士で無礼討ちなんてあるか、それより元真中が成人殿下に無礼だ、って鶴丸が怒ってくれたんだった。そして、そんな無礼な元真中に俺と鶴丸が考えた罰が、元真中から名字を奪うこと。皆にちゃんと礼をしなさいって。
今もまだ、全然してないけど。
はあ。駄目だな、本当に。
無礼討ちは、無礼を働いた者は斬り捨てていいって意味だった。人を殺してはいけないって教えられるのは皇国だけ? って首を傾げたら、そんな事はない、西国でも人殺しは禁止されていて大罪です、って鶴丸が教えてくれた。殺していい人と殺してはいけない人、っていう区別もない。皆、等しく駄目だって。
戦場とは違うその考え方は、戦場ではない場所で生きているんだな、ってことが分かりやすくていい。なぜ殺してはいけないのかはまだよく分かっていないけれども、殺さないことが人として生きることなのなら殺さない。
必要でなければ。
「それはまた」
千代はため息を吐く。
ああ、大丈夫だよ、千代。
「俺がするね?」
千代が人をやめる必要はない。千代の護衛も。それをしてはいけない、とずっと聞かされていた人がそれをしようとするのは、とても大変な事だ。俺は知っている。力丸が、人を殺せないことを。
力丸は護衛だ。これからも護衛っていう仕事を続けるなら、命のやり取りをする場面はあるかもしれない。いざとなればやるよ、って力丸はいつも言っている。でも、きっとできない。そんな気がする。できない力丸が、俺は好き。俺に、人として生きる見本を見せてくれているみたいで好き。
「え? は?」
元真中に無礼の意味を教えるには、もうこれしかない気がする。元真中がしていた罰を与えたら、流石に分かるだろ。分かった時にはもう、何も考えられなくなっているけれども。
「じいじ。銃ある?」
俺は武器を持たされていない。緋色みたいに、小さめの銃の一つくらい持たせてくれてもいい気がするんだけれど、持たなくていいって皆が言う。まあ、持っていたら反射的に使うかもしれない。俺は、緋色に危険が迫ったら、考える前に体が動くから。
「成人。こんなくだらん人間の命をお前が背負うことは無い。もちろん奥方も、そこの護衛もじゃ」
じいじがやるの?
「わしも御免じゃ」
「ん?」
「誰も、こんなものの命を背負うことはない。このまま放免して終いとしよう」
「ほうめん?」
「うむ。全てから解放して、好きに生きよと捨ておこう」
「ふーん?」
「ふ、ふふっ」
あ、千代が笑った。
それでいいってことかな?
「母上、準備できました!」
寿々丸が、元気に戻ってきた。他の三人も後ろから走ってくる。
「はい。では、お風呂屋さんにいってらっしゃい」
「はーい。殿下、行きましょう。おっちゃんも、はよ立って」
「あ、この人は放っといてええ」
「「え?」」
「ええから、いってらっしゃい」
にっこりと千代が笑うから、そうかと俺は頷いた。千代とじいじが決めた事なら、きっと間違いない。
「お風呂屋さん、いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
いってらっしゃいを聞くと、帰って来ていいんだなって分かって嬉しい。
「……っ」
「無礼討ちするんだよね」
元真中が身分の高かった時に、身分の低い人へくだしていた罰。無礼討ちじゃない? 九鬼のお城で、元真中が鶴丸に言っていた。あの時は、同じ身分の者同士で無礼討ちなんてあるか、それより元真中が成人殿下に無礼だ、って鶴丸が怒ってくれたんだった。そして、そんな無礼な元真中に俺と鶴丸が考えた罰が、元真中から名字を奪うこと。皆にちゃんと礼をしなさいって。
今もまだ、全然してないけど。
はあ。駄目だな、本当に。
無礼討ちは、無礼を働いた者は斬り捨てていいって意味だった。人を殺してはいけないって教えられるのは皇国だけ? って首を傾げたら、そんな事はない、西国でも人殺しは禁止されていて大罪です、って鶴丸が教えてくれた。殺していい人と殺してはいけない人、っていう区別もない。皆、等しく駄目だって。
戦場とは違うその考え方は、戦場ではない場所で生きているんだな、ってことが分かりやすくていい。なぜ殺してはいけないのかはまだよく分かっていないけれども、殺さないことが人として生きることなのなら殺さない。
必要でなければ。
「それはまた」
千代はため息を吐く。
ああ、大丈夫だよ、千代。
「俺がするね?」
千代が人をやめる必要はない。千代の護衛も。それをしてはいけない、とずっと聞かされていた人がそれをしようとするのは、とても大変な事だ。俺は知っている。力丸が、人を殺せないことを。
力丸は護衛だ。これからも護衛っていう仕事を続けるなら、命のやり取りをする場面はあるかもしれない。いざとなればやるよ、って力丸はいつも言っている。でも、きっとできない。そんな気がする。できない力丸が、俺は好き。俺に、人として生きる見本を見せてくれているみたいで好き。
「え? は?」
元真中に無礼の意味を教えるには、もうこれしかない気がする。元真中がしていた罰を与えたら、流石に分かるだろ。分かった時にはもう、何も考えられなくなっているけれども。
「じいじ。銃ある?」
俺は武器を持たされていない。緋色みたいに、小さめの銃の一つくらい持たせてくれてもいい気がするんだけれど、持たなくていいって皆が言う。まあ、持っていたら反射的に使うかもしれない。俺は、緋色に危険が迫ったら、考える前に体が動くから。
「成人。こんなくだらん人間の命をお前が背負うことは無い。もちろん奥方も、そこの護衛もじゃ」
じいじがやるの?
「わしも御免じゃ」
「ん?」
「誰も、こんなものの命を背負うことはない。このまま放免して終いとしよう」
「ほうめん?」
「うむ。全てから解放して、好きに生きよと捨ておこう」
「ふーん?」
「ふ、ふふっ」
あ、千代が笑った。
それでいいってことかな?
「母上、準備できました!」
寿々丸が、元気に戻ってきた。他の三人も後ろから走ってくる。
「はい。では、お風呂屋さんにいってらっしゃい」
「はーい。殿下、行きましょう。おっちゃんも、はよ立って」
「あ、この人は放っといてええ」
「「え?」」
「ええから、いってらっしゃい」
にっこりと千代が笑うから、そうかと俺は頷いた。千代とじいじが決めた事なら、きっと間違いない。
「お風呂屋さん、いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
いってらっしゃいを聞くと、帰って来ていいんだなって分かって嬉しい。
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