1,233 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
24 答えが出ない 成人
しおりを挟む
「こら、朔」
ぱん、とじいじがトラックから連れてきた中の一人が朔の頭を叩いた。
「すいません。うちの弟が失礼を」
そのまま、朔の頭を押さえて下げさせながら謝っている。別に失礼じゃないよ。朔は、しっかり挨拶を終えたから。挨拶がちゃんとできたら花丸。
俺は、いいよいいよ、って右手を振った。最初にちゃんとしてくれたら、それでいい。
最近、いつまでもちゃんと挨拶ができるようにならない元真中を見ていたから、ちゃんとした挨拶ができるのってすごいことなんだな、って分かったし。
いや、もう、ほんとに。習った通りにやればいいのにできないの、なんでなのかな。本当に意味が分からないよね。
ん? 弟?
「千寿さま付きの戸次望と申します。よろしくお願い致します」
望は、朔の頭から手を離して包拳礼をした。
ほら。望もちゃんとできる。
「成人と緋色です。よろしく」
俺は、また右手をひらひらさせて言った。緋色は、俺の背中にくっついたままだ。
「そやかて、姉上。可愛いんは誰かて言われたら」
朔のひそひそ声。姉上か。千寿と寿々丸と一緒だな。
「うるさい、朔。言わんでも分かっとる。でもな、こういうのは結局、答えなんて出えへん話なんよ」
望は、朔が何か言いかけたのを声を潜めて止めた。声を潜めてても、近いから聞こえちゃったけどね。
そっか。答え出ないのか。
「一番可愛いなんて、亀吉ちゃんやんなー」
寿々丸が、ぼそって言ったのも聞こえてくる。
「ほんまや」
千寿も小さな声で頷いて、確かにって俺も思う。あ、でも。
「亀吉も可愛いけど末良も可愛いよ?」
「「末良?」」
ふふ。内緒話じゃなくなっちゃった。
「うん。亀吉と仲良し」
「え? 亀吉ちゃんのお友達ですか? 何歳ですか?」
千寿が目をきらきらさせながら言った。
「二歳。俺も仲良し」
「へえ。亀吉ちゃんとおんなじくらいかあ。ええなあ。小さい子が二人でおったら可愛いやろなあ」
「うん。可愛い」
そうだ。一番可愛いってのは、あの二人のことだよ。間違いない。
望、答え出たよ。
望に言おうとしたけど、ちょっと待てよ?
二人だと、どちらかが一番じゃないな? やっぱり答え出てなかった。
「ええなあ。うち、亀吉ちゃんに会えんくなって寂しいんやけど、亀吉ちゃんはお友達おるから寂しないんかなあ」
そっか。
そうだね。千寿は、急に亀吉に会えなくなったもんね。寂しいよね。
さっき俺が出かける時、亀吉、いっしょいくーって泣いてたな。亀吉も寂しいのかもしれない。
「来る?」
「え?」
「亀吉のとこ、来る?」
「「行く!」」
話が早い。
じゃ、帰り乗ってく?
「バス大きいからいっぱい乗れる」
亀吉、喜ぶな、きっと。
「あー、姫。若も。ちょっとそんなすぐにはお出かけは……」
「「え?」」
あ、そうだ。
今、バス、臭いんだった。
「掃除しなきゃ」
「「そやった」」
「「掃除?」」
望と朔も声が揃うんだね。姉弟って面白いな。
首を傾げた望と朔にバスの中が汚れたことを説明した。俺の説明を聞き終えたら、皆様はそこにおってください、って朔が言って、後ろ向きに進むトラックに向かって走っていった。速かった。じいじが、ほうって言うくらい速かった。
朔は、すぐに大量の布を持って戻ってきた。布を受け取った望が他の人にも指示を出しながら掃除し始めて、あっという間にバスは綺麗になった。望は、水瀬みたいに掃除が上手だった。俺の出番、無かった。
望たちは、よく効く臭い消しみたいなのも持っていたらしく、掃除が終わったら臭いも無くなっていてびっくりした。元真中以外の西中国の人は、バスの中で大人しく座って待っていた。
臭いだろうから、掃除している間、外に出る? って聞いてみたんだけど、全員、首を横に振ったんだ。臭くても我慢できるなら、まあ、いいんだけど。外は寒いから、出るのが嫌だったのかな?
掃除が終わったら、望も朔も、近くの村から手伝いに来てましたって挨拶をしてくれた西賀の人たちも、皆でバスに乗って森を出た。
皆、バスを見るのも乗るのも初めてや、って喜んでくれた。
ぱん、とじいじがトラックから連れてきた中の一人が朔の頭を叩いた。
「すいません。うちの弟が失礼を」
そのまま、朔の頭を押さえて下げさせながら謝っている。別に失礼じゃないよ。朔は、しっかり挨拶を終えたから。挨拶がちゃんとできたら花丸。
俺は、いいよいいよ、って右手を振った。最初にちゃんとしてくれたら、それでいい。
最近、いつまでもちゃんと挨拶ができるようにならない元真中を見ていたから、ちゃんとした挨拶ができるのってすごいことなんだな、って分かったし。
いや、もう、ほんとに。習った通りにやればいいのにできないの、なんでなのかな。本当に意味が分からないよね。
ん? 弟?
「千寿さま付きの戸次望と申します。よろしくお願い致します」
望は、朔の頭から手を離して包拳礼をした。
ほら。望もちゃんとできる。
「成人と緋色です。よろしく」
俺は、また右手をひらひらさせて言った。緋色は、俺の背中にくっついたままだ。
「そやかて、姉上。可愛いんは誰かて言われたら」
朔のひそひそ声。姉上か。千寿と寿々丸と一緒だな。
「うるさい、朔。言わんでも分かっとる。でもな、こういうのは結局、答えなんて出えへん話なんよ」
望は、朔が何か言いかけたのを声を潜めて止めた。声を潜めてても、近いから聞こえちゃったけどね。
そっか。答え出ないのか。
「一番可愛いなんて、亀吉ちゃんやんなー」
寿々丸が、ぼそって言ったのも聞こえてくる。
「ほんまや」
千寿も小さな声で頷いて、確かにって俺も思う。あ、でも。
「亀吉も可愛いけど末良も可愛いよ?」
「「末良?」」
ふふ。内緒話じゃなくなっちゃった。
「うん。亀吉と仲良し」
「え? 亀吉ちゃんのお友達ですか? 何歳ですか?」
千寿が目をきらきらさせながら言った。
「二歳。俺も仲良し」
「へえ。亀吉ちゃんとおんなじくらいかあ。ええなあ。小さい子が二人でおったら可愛いやろなあ」
「うん。可愛い」
そうだ。一番可愛いってのは、あの二人のことだよ。間違いない。
望、答え出たよ。
望に言おうとしたけど、ちょっと待てよ?
二人だと、どちらかが一番じゃないな? やっぱり答え出てなかった。
「ええなあ。うち、亀吉ちゃんに会えんくなって寂しいんやけど、亀吉ちゃんはお友達おるから寂しないんかなあ」
そっか。
そうだね。千寿は、急に亀吉に会えなくなったもんね。寂しいよね。
さっき俺が出かける時、亀吉、いっしょいくーって泣いてたな。亀吉も寂しいのかもしれない。
「来る?」
「え?」
「亀吉のとこ、来る?」
「「行く!」」
話が早い。
じゃ、帰り乗ってく?
「バス大きいからいっぱい乗れる」
亀吉、喜ぶな、きっと。
「あー、姫。若も。ちょっとそんなすぐにはお出かけは……」
「「え?」」
あ、そうだ。
今、バス、臭いんだった。
「掃除しなきゃ」
「「そやった」」
「「掃除?」」
望と朔も声が揃うんだね。姉弟って面白いな。
首を傾げた望と朔にバスの中が汚れたことを説明した。俺の説明を聞き終えたら、皆様はそこにおってください、って朔が言って、後ろ向きに進むトラックに向かって走っていった。速かった。じいじが、ほうって言うくらい速かった。
朔は、すぐに大量の布を持って戻ってきた。布を受け取った望が他の人にも指示を出しながら掃除し始めて、あっという間にバスは綺麗になった。望は、水瀬みたいに掃除が上手だった。俺の出番、無かった。
望たちは、よく効く臭い消しみたいなのも持っていたらしく、掃除が終わったら臭いも無くなっていてびっくりした。元真中以外の西中国の人は、バスの中で大人しく座って待っていた。
臭いだろうから、掃除している間、外に出る? って聞いてみたんだけど、全員、首を横に振ったんだ。臭くても我慢できるなら、まあ、いいんだけど。外は寒いから、出るのが嫌だったのかな?
掃除が終わったら、望も朔も、近くの村から手伝いに来てましたって挨拶をしてくれた西賀の人たちも、皆でバスに乗って森を出た。
皆、バスを見るのも乗るのも初めてや、って喜んでくれた。
1,291
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活
福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…?
しかも家ごと敷地までも……
まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか……
……?
…この世界って男同士で結婚しても良いの…?
緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。
人口、男7割女3割。
特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。
1万字前後の短編予定。
【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。
福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。
そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。
理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。
だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。
なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと…
俺はソイツを貰うことにした。
怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息
弱ざまぁ(?)
1万字短編完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる