【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
1,192 / 1,321
第九章 礼儀を知る人知らない人

149 得難い宝  成人

しおりを挟む
「よし、壱臣いちおみ。とっとと厨房へ行け。村次むらつぐ一人で俺たちの昨夜と今朝の飯を担当したようだからな。流石のあいつも疲れてるだろ」

 あ、そう? 街に出る前に厨房? 確かに、いくら村次むらつぐが威圧込みで掌握しているとはいえ、お城の厨房は広い。一人で色々するのは難しいって分かってた。でも、みんな忙しくて手伝いに行けなかったんだ。村次むらつぐなら何とかするだろ、って任せてたけど、そろそろ疲れてきたよね。
 目が届かない事が怖いからと、俺たちや鶴丸つるまるたちのご飯は全て、村次むらつぐが一人で作ったらしい。今朝のご飯もいつも通りで美味しかった。
 もともとのこのお城の料理人たちには、お城の使用人たちの分を作ってもらっているんだって。城から出た人も多いけど、残っている人も多いからね。捕まえて、城から出さない人もたくさんいる。皆、ご飯は必要。罪人だからってご飯をあげないとか、絶対駄目。
 そうだ。後で、捕まえている人たちがちゃんとご飯を食べているのか確認に行こう。お仕事も、できるならしてもらわないといけないし。
 使用人の中には、夜に家に帰ったまま、朝に仕事に来なかった人たちが大勢いたらしい。厨房の人も、戻らなかった人は結構いた。朝にまた来てくれた者たちこそ得難い宝や、と竹光たけみつは言った。大事にせななって。

村次むらつぐくんが疲れるなんて、相当や。うち、急いで来て良かったぁ」

 壱臣いちおみが、ふにゃと笑った。それを見て三郎さぶろうも、いつもの優しい顔になった。

「兄……んんっ、臣さまは無理して来んでええってだいぶお止めしたんやけど、やはりお連れして良かったです」
「うちかて、殿下と成人なるひとくんの役に立ちたいんよ。大丈夫。ちゃんと考えとる」
「はは」

 緋色ひいろも、嬉しそうに笑う。壱臣いちおみ、急いで来てくれてありがと。

「だが壱臣いちおみ、無理だけはするな。早急に、うちと領主一家の住まいを調達する予定だから、準備でき次第そちらに移れ」
「はい。お心遣い、感謝致します」

 壱臣いちおみは、ふわりと頭を下げる。

佐鳥さとり、町屋敷の調査を頼む。幾つか空く予定だ。水瀬みなせ鼓与こと、屋敷を調達次第、整えてくれ。それまでは、城の内部の大掃除。三郎さぶろう政巳まさみは書類部屋の掃除だ。半助はんすけ、とりあえず壱臣いちおみの側にいろ。壱臣いちおみの調子が戻らないようなら、一度街に出て名物料理でも食べて来い」
「はっ」

 半助はんすけは一度目を見開いて、深々と頭を下げた。佐鳥さとり水瀬みなせ鼓与ことは静かに頭を下げて、あっという間に居なくなった。

「良かったー。半助さんが壱臣さん付きで」

 城の中に向かって歩き始めたところで、力丸りきまるがぽそっと言った。
 
「ん?」
「俺、帰らされるかと思って、はらはらしたよ」

 あ。そういえば力丸は、半助の代わりの俺の護衛だったね。力丸は本当は、朱実あけみ殿下の近衛だ。西の国へ行く時は半助じゃない方がいいだろうって交代してきてたんだった。

「どうする?」
「は?」
「帰る?」
「ぜってえやだ。休み取ってもここにいる」
「あはは。休み取って仕事するの?」
「それでもいい。帰されてたまるか」

 そっか。そうだね。
 来るんなら、力丸もここに居ないとおかしいよね。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

【短編】喧嘩上等の僕が顔面凶器に付き纏われる話

cyan
BL
僕、佐々実乃里(ササミノリ)は童顔な見た目がコンプレックスだった。 強くなりたくて強敵に立ち向かう日々を送っていたが、ある日喧嘩に負けて倒れていたら顔面凶器の男に助けられた。 なぜかその男は僕に付き纏ってくる。 こいつ、なんなんだ? なぜ僕に構ってくるのか分からない。 戸惑いながら、二人の関係は進み始めた。 ・18禁シーンはありません

愛人オメガは運命の恋に拾われる

リミル
BL
訳ありでオメガ嫌いのα(28)×愛人に捨てられた幸薄Ω(25) (輸入雑貨屋の外国人オーナーα×税理士の卵Ω) ──運命なんか、信じない。 運命の番である両親の間に生まれた和泉 千歳は、アルファの誕生を望んでいた父親に、酷く嫌われていた。 オメガの千歳だけでなく、母親にも暴力を振るうようになり、二人は逃げ出した。アルファに恐怖を覚えるようになった千歳に、番になろうとプロポーズしてくれたのは、園田 拓海という男だった。 彼の秘書として、そして伴侶として愛を誓い合うものの、ある日、一方的に婚約解消を告げられる。 家もお金もない……行き倒れた千歳を救ったのは、五歳のユキ、そして親(?)であるレグルシュ ラドクリフというアルファだった。 とある過去がきっかけで、オメガ嫌いになったレグルシュは、千歳に嫌悪感を抱いているようで──。 運命を信じない二人が結ばれるまで。 ※攻め受けともに過去あり ※物語に暴行・虐待行為を含みます ※上記の項目が苦手な方は、閲覧をお控えください。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

片田舎の稲穂~愛の重たい兄上に困っています~

みっちゃん
BL
ルーレシア帝国、帝国歴1680年ー帝国は王太子夫妻の襲撃を引き金に隣国サルバトール王国へ宣戦布告をしたー それから5年、片田舎の平民は元より辺境伯までもが徴兵されて行った。 「兄上、行ってしまわれるのですか?」 片田舎を収める辺境伯の息子、ライフォードも幼い弟を残し旅立ちを家族に惜しまれながら戦争へ行ってしまう。 だが実はライフォードは愛の重たい兄でネモをこよなく愛していた。 あれから月日は流れ10年、16歳になったその弟ネモは領主となり自分の髪の毛を売ってまで民に飯を食わせるので精一杯だった。 だが、兄ライフォードの正体は・・・・・・で、ネモを待ち受けるのは22歳になった兄ライフォードからの重たい愛のみだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ご愛読ありがとうございます。 基本1日2話更新で10時、20時に1話ずつを予定していますがまだ学生の上変なこだわりがある為不定期になる恐れがあります。 その時はお知らせ致します。 既に公開されている話もちょこちょこ読み直し加筆修正を行っているため表現が変わります。誤字脱字には気をつけておりますがひんぱんにございますのでご了承ください。 コメント、いいね、ブックマークなど励みになりますのでお気軽にどうぞ。 引き続き作品をよろしくお願いいたします。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...