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第九章 礼儀を知る人知らない人
143 お手紙 成人
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「そうか。亀吉は末良と遊びたいのか」
俺たちの話を聞いていた緋色が、にやって笑った。ぽいって読んでた書類を床に投げて、ペンと紙って言いながら常陸丸に手を出す。
「は?」
「何でもいい。紙」
「手紙っすか」
「おう」
「誰に?」
「朱実」
「は?」
「あー、やっぱり紙はいい。紙はこの辺に、ごみに回す紙があるわ。よく分からん品への支出願いに、至急とか赤字で書いてあった紙。至急って書いてあるものほどどうでもいいものが多いのは、ほんと、くだらねえ。いらいらの原因、ほぼあれだ。決めた、あれの裏に書く。ペン寄越せ、ペン」
「朱実殿下へ送る手紙の用紙がそんなもんでいい訳ないだろ。ちょっと待ってろ」
「いや、これがいい。これを見たら、絶対すぐに動くぞ、あいつ。くくっ」
「そんな訳分かんないもの見せなくても、殿下が本気でお願いしたら動きますよ、朱実殿下は。いいから、ちょっと待てって」
「はー? 何言ってんの?」
「こっちの台詞ですよ、それ」
常陸丸は、いいですか、待っててくださいよってもう一回緋色に言ってから、ペンは渡さずに離れていった。でも、イイコトを思いついた顔で笑っている緋色が待つわけなかった。
「筆でいいか」
立ち上がって、鶴丸が書き物をしていた机の前に向かう。もちろん、手には、要らない紙として仕分けされた紙を持っていた。
緋色は、ちょっとだけ斜め上を見たあと、さらさらと紙に何かを書きつけていく。
おお、早い。っていうか、筆で字を書けたんだ、緋色。いつもペンだから知らなかった。格好良い。
俺も立ち上がって手紙を書いてる緋色を覗きにいくと、亀吉も付いてきた。鶴丸と松吉が部屋に入れなくて廊下に残っている。
うん。さらさら書いてるから読みにくい。これ、あれだ。あの、たまに上等な食べ物屋のお品書きに書いてあるやつ。読める人と読めない人がいる字だ。緋色、読むだけじゃなく書くのもできたのか。すごい。朱実殿下はすらすら読みそう。
「電信とばせばええんちゃいます?」
横の机で筆を持っている竹光が言った。部屋の戸は開け放してあるから、廊下での話も部屋での話もどちらにも聞こえている。誰かが急に何かし始めても、急に動いても、説明がいらなくていいね。あんまり広すぎる部屋は、誰が何をしているか分かりにくいから、いちいち報告がいる。お仕事をするのは、ちょっと狭いくらいの部屋がいいのかもしれない。ここは狭すぎだけど。
朱実殿下や緋色の執務室くらいがちょうどいいのかも。
「あるのか? 電信機」
「ありましたよ、あの、なんや煌びやかな部屋の辺りに」
「そうか、流石大国。でもま、そんなもんに金かけるなら、この部屋の人員増やせって思っちまうな。電信機なんて、大して使う機会もなかろうに。まあいい。折角だから使わせてもらおう。うちになら、すぐとばせるかな。誰か詳しいの連れてきてたか……ま、いい。後で試してみる。うちとの回線を専用で開けたら、色々楽だな」
「うち、言うのは、緋色殿下の家ですか?」
「おう」
「そりゃ便利ですけど、わしらはそんなもん使たことないで、殿下方が帰国されたらさっぱりですよ」
「鶴丸に使い方を教えていく」
「ええー? うち? 嫌や、これ以上仕事増えるんは嫌やー」
「すぐ連絡がついたら便利だろ」
「便利やけど。便利やけども」
廊下から鶴丸の声がした。うん。やっぱり、全部聞こえてていいね。
「あー、殿下! 待っててくださいって言ったじゃないっすか! 書き直してくださいよ、それ!」
止めなくてごめんね、常陸丸。緋色、もう書き終わったみたいだ。書き終わった手紙が俺に渡された。持って廊下に出る。亀吉がずっと俺についてくるの、面白い。俺たち今、手紙を届ける仕事の人みたいだね。
緋色が書き直す訳ないって一番知っている常陸丸は、ため息をつきながら、朱実殿下への手紙を受け取ってくれた。
俺たちの話を聞いていた緋色が、にやって笑った。ぽいって読んでた書類を床に投げて、ペンと紙って言いながら常陸丸に手を出す。
「は?」
「何でもいい。紙」
「手紙っすか」
「おう」
「誰に?」
「朱実」
「は?」
「あー、やっぱり紙はいい。紙はこの辺に、ごみに回す紙があるわ。よく分からん品への支出願いに、至急とか赤字で書いてあった紙。至急って書いてあるものほどどうでもいいものが多いのは、ほんと、くだらねえ。いらいらの原因、ほぼあれだ。決めた、あれの裏に書く。ペン寄越せ、ペン」
「朱実殿下へ送る手紙の用紙がそんなもんでいい訳ないだろ。ちょっと待ってろ」
「いや、これがいい。これを見たら、絶対すぐに動くぞ、あいつ。くくっ」
「そんな訳分かんないもの見せなくても、殿下が本気でお願いしたら動きますよ、朱実殿下は。いいから、ちょっと待てって」
「はー? 何言ってんの?」
「こっちの台詞ですよ、それ」
常陸丸は、いいですか、待っててくださいよってもう一回緋色に言ってから、ペンは渡さずに離れていった。でも、イイコトを思いついた顔で笑っている緋色が待つわけなかった。
「筆でいいか」
立ち上がって、鶴丸が書き物をしていた机の前に向かう。もちろん、手には、要らない紙として仕分けされた紙を持っていた。
緋色は、ちょっとだけ斜め上を見たあと、さらさらと紙に何かを書きつけていく。
おお、早い。っていうか、筆で字を書けたんだ、緋色。いつもペンだから知らなかった。格好良い。
俺も立ち上がって手紙を書いてる緋色を覗きにいくと、亀吉も付いてきた。鶴丸と松吉が部屋に入れなくて廊下に残っている。
うん。さらさら書いてるから読みにくい。これ、あれだ。あの、たまに上等な食べ物屋のお品書きに書いてあるやつ。読める人と読めない人がいる字だ。緋色、読むだけじゃなく書くのもできたのか。すごい。朱実殿下はすらすら読みそう。
「電信とばせばええんちゃいます?」
横の机で筆を持っている竹光が言った。部屋の戸は開け放してあるから、廊下での話も部屋での話もどちらにも聞こえている。誰かが急に何かし始めても、急に動いても、説明がいらなくていいね。あんまり広すぎる部屋は、誰が何をしているか分かりにくいから、いちいち報告がいる。お仕事をするのは、ちょっと狭いくらいの部屋がいいのかもしれない。ここは狭すぎだけど。
朱実殿下や緋色の執務室くらいがちょうどいいのかも。
「あるのか? 電信機」
「ありましたよ、あの、なんや煌びやかな部屋の辺りに」
「そうか、流石大国。でもま、そんなもんに金かけるなら、この部屋の人員増やせって思っちまうな。電信機なんて、大して使う機会もなかろうに。まあいい。折角だから使わせてもらおう。うちになら、すぐとばせるかな。誰か詳しいの連れてきてたか……ま、いい。後で試してみる。うちとの回線を専用で開けたら、色々楽だな」
「うち、言うのは、緋色殿下の家ですか?」
「おう」
「そりゃ便利ですけど、わしらはそんなもん使たことないで、殿下方が帰国されたらさっぱりですよ」
「鶴丸に使い方を教えていく」
「ええー? うち? 嫌や、これ以上仕事増えるんは嫌やー」
「すぐ連絡がついたら便利だろ」
「便利やけど。便利やけども」
廊下から鶴丸の声がした。うん。やっぱり、全部聞こえてていいね。
「あー、殿下! 待っててくださいって言ったじゃないっすか! 書き直してくださいよ、それ!」
止めなくてごめんね、常陸丸。緋色、もう書き終わったみたいだ。書き終わった手紙が俺に渡された。持って廊下に出る。亀吉がずっと俺についてくるの、面白い。俺たち今、手紙を届ける仕事の人みたいだね。
緋色が書き直す訳ないって一番知っている常陸丸は、ため息をつきながら、朱実殿下への手紙を受け取ってくれた。
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